16.約束の日
それから10年の時が経った。
28歳になった俺は、あの日誓った目標通りカウンセラーになっていた。仕事自体は楽しいが、想像していたよりもずっと忙しい。結婚もしているが、生活に決して余裕があるわけではなかった。
しかし、俺はこれだけ月日が経っても、あの不思議な出来事を忘れたことはなかった。あれからというもの普段と何一つ変わらない日々が戻ってきた。あれは夢だったのではないかと感じることもあったが、友希の現れた石を見ると、とても夢なんて思えなかった。
その石でさえも今では何の変化もない。友希を呼ぶためのボタンらしき出っ張りも、いつの間にかなくなっていた。
俺はあの日の出来事を誰かに話したことはない。結婚1年目の妻にさえも打ち明けたことはなかった。もちろん、今の妻のことは愛しているし、信頼している。だが、心のどこかに俺はいつも友希の存在があった。
「あなた、今日は休みなのね」
「ああ、久しぶりの休みだ」
妻は久しぶりに俺が仕事着を来てないことに、違和感を感じたのかそう聞いた。いつもなら仕事だが、今日は意図的に休みをもらった。
今日は特別な日だった。俺は何度もスケジュールを確認した。間違いない。ちょうど友希と別れて10年目の日だ。俺はあの懐かしい川原へ向かった。
10年後の今日、昼の12時にここで会いましょう。
たしかに10年前、友希がそう言ったのを覚えている。あのときは気が動転していたから、聞き間違いの可能性もある。結婚しているのに女性と会うなんて最悪だとも思うが、どうしても行かずにはいられなかった。
川原で俺はあのとき友希の現れた石を持ち、友希を待った。時間は11時55分。まだ少し早いのかもしれない。俺は友希がどんな風に現れ、どんなことを言うのか、また俺は何と言ったらいいのかと一人緊張していた。友希が本当に来るかどうかも分からないのに、せっかちだと自分でも思う。だが、心臓の高まりを落ち着けることはできなかった。
この川原は10年前とほとんど変わっていない。10年前は今ごろ友希のお母さんの家に向かっていたっけ? そして、その後ここで友希と過ごしたんだっけ? 俺は自分の持つ石を見ると、友希との想い出がまるで昨日のことのように浮かび上がってきた。
懐かしい。俺はそのようなことを考えながら、友希が来るのを待った。
しかし、いくら待っても友希が現れることはなかった。俺はそれでも帰れずに、一時間、二時間と待ったが、何の変化もない。太陽が少しずつ傾いてきているだけだった。日付を確認するが、間違ってはいない。ここに来てから三時間が経とうとしているとき、俺は軽く息を吐き立ち上がった。
むしろこの方がよかったのだろう。友希はもうこっちの世界の人間ではない。向こうの世界で新しい人生を歩んでいるのだろう。さっきまで一人で浮かれていた自分が恥ずかしくなった。
俺は、元来た道を一人で帰宅することにした。きっとこれでよかったんだ。俺はそう思った。
だが、友希は約束を忘れてはいなかった。立ち上がろうと手を横についたとき、俺は小さなものに手が触れるのに気づいた。俺は驚き急いでそれを拾い上げる。見覚えのあるお守りだった。まさかと思い、俺はそれをよくよく見た。間違いではない。友希のお母さんが友希に渡したお守りだ。俺は、緊張しながらその中を見た。
悟史くんへ
私はずっとこの日を楽しみにしていたよ。直接会うことができなくてごめんね。今悟史くんに私は見えないみたいだから、お母さんのお守りで私の思いを伝えることにするよ。私は天国から、よく悟史くんのことを気にかけているよ。カウンセラーになれたんだね。おめでとう。それに結婚もして、幸せそうでよかった。私も天国で楽しくやっているよ。新しい友達もできたし、恋人もできたよ。しかもすごくいい所なんだよ。悟史くんも後50、60年したらおいで。私が案内するから。
本当は会ってもっともっと話ししたいんだけど、それはもっと先のお楽しみかな。今は残りの人生を思いっきり楽しんで。奥さんや友達を大切にね。
そして約束を覚えていてくれてありがとう。
友希
もう敬語ではなかった。そのメッセージだけで今にも笑いだしそうな友希の姿が思い浮かんだ。もしかしたら、今俺の目の前で微笑んでくれているのかもしれない。
「約束覚えてくれてありがとう。俺もこのメッセージを見て安心したよ。そっちの生活を思いっきり楽しんで」
俺は目の前にいるかもしれない友希に対してそう言った。その瞬間、強い風が吹き付けた。その風が目の前の葉を揺らす。
あれ? 友希? 気のせいかな? 俺は一瞬、目の前で友希が笑っているような気がした。一瞬すぎて実際のところは分からない。だが、俺は目の前で友希が笑っているような気がしてならなかった。
俺は手に持っていた石を川へ投げた。鈍い音と共に石は川底へと沈む。水面が波打っていたが、それもしばらくすると小さくなり、やがて元の水面に戻った。
もうあの石は必要なかった。友希はもう新しい居場所を見つけている。
俺は友希の手紙とお守りを丁寧に鞄に入れ、立ち上がり伸びをした。そして、その川原に背を向ける。また、いつか会おうな友希。心の中で俺はそう思った。
そして俺はまた元の生活に戻り、この台詞を言う。
「お悩みは何でしょうか? 私、聞きますよ」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。誠に感謝しております。陳腐で読みにくい文章ですが、何とか初投稿の小説を完結させられました。
今回の小説は悩みをメインとした小説でした。作者自身が100%悩みが解決したらいいなと考えたのが執筆の動機です。ちなみに作者は悩み相談は苦手ですけど笑
さて、読者の皆様は悩み事とかはありますか? もし、100%悩みが解決するとしたら、どんなことを相談しますか? いい人であり、かつ石、貝がらや植物を集める趣味のある方、もしかしたら悩み相談を受ける機会があるのかもしれませんよ笑
最後になりましたが、ここまで読んでいただいた方々、本当にありがとうございました。次回作を投稿できたら、そちらも読んでいただると嬉しい限りです。




