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神に選ばれた俺は  作者: 瀬田 冬夏
第2章 人の想いと神の想い
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台風の前日にはしゃぐ子供の様に


 桐生が部屋を出て行ったのを見て、リストは内心ため息をつく。

 キリュー教の人間になって数日。

 こういう時、教祖の桐生がどういう人間なのか分からなくなる。


 喩え相手が神であろうと、主神であろうと、割かしこき使おうとしているのがありありと見えるのに、こういう時には相手が誰であろうと譲らない。

 国王相手に決闘なんて、高位教会ならともかく中位教会ならやらないだろう。下位ならいうまでもなく、だ。

 それなのに決闘をするのは絶対の自信があるからなのか。

 もし負ける可能性があったのならどうしていたのだろう。『水に流す』か、といえば、流さない気がする。しかしだからといって決闘をして、信徒の命を危険にさらすかといえば、それも違う気がする。

 キリュー教で販売している物を見れば、命をどれだけ大切にしているか分かる。

 ではどうするのかと考えれても、浮かばなかった。しかし、今それを考えても仕方が無い事だとリストは二人の客人を見た。


「ヒ……」

「ねえ、ミヤ王子って呼んでも良い?」


 リストが話しかけようとしたタイミングで撫子が問いかける。


「あ、はい。構いません」

「さっき、ミヤ王子、王太子を王様にって言ってたけど、王太子の方はその、影響を受けてないの?」

「王太子兄上は、今、視察に出ていたので問題はありません」

「でも、戻ってきたら影響受けてその王子もって事はないのか?」


 駿の言葉にヒミヤミヤは首を横に振った。


「影響を受ける可能性はあります。ですが今、城には創世神様が居られます。まず兄上が帰ってきたらすぐさま創世神教に出向いてもらい、その場ですぐに兄上に王位を……」

「え? 無理ですよ」


 ヒミヤミヤの言葉を聞いていたリストが思わず口を挟む。


「……何故ですか?」


 リストに否定されるとは思ってなかったのだろう、呆然としたように見つめていた。


「国教を変えようとしているタイミングで、そのような事は出来ません。それではまるで国教を変える事は赦さないと創世神様が仰っているかのように受け取られるからです。神々は一切関係のない、王位の譲渡でなくてはならないはずです」

「そんな……」


 リストの言葉にヒミヤミヤは青ざめた。


「大丈夫ですよ、ミヤ王子。そんな顔しなくても、キリュー教は勝ちますって」

「え?」


 ナデコの言葉にヒミヤミヤは首を傾げた。


「キリュー教が勝てば、国教を変えるっていう話は無しなんですよね?」

「え? いえ、キリュー教が勝てば、謝れという話で、国教を変えるという話には一切影響は出ませんが……」

「あ、そうなんだ……」


 同時に聞いたために撫子は勘違いしていたらしいが、何名かは彼女と同じ顔をしているので、そもそも勘違いしやすい話だったのだろう。

 駿もその一人で、表情を戻し、腕を組んでヒミヤミヤに尋ねる。


「なら、いっそ、そうしちまえばどうだろうか。キリュー教が勝ったら国教を変えるっていう話は無しにするっていう条件を付けるんだ」





「え? 駄目に決まってるじゃないですか」


 笑顔で確認を取りにきた面々に俺は戸惑いながら返す。

 っていうか、なんでそんな話になってるの?


「キリュー教は経済には関わっても、政治には関わりませんよ」

「そこをなんとか」

「出来ません」


 即否定。泣こうが喚こうが断固否定。

 冗談じゃない。俺の責任を重くするんじゃないよ。この王子。

 自国のことは自国で頑張ってくださいっての。


「なぁ、桐生」

「駄目。絶対駄目。あのね、駿兄貴。キリュー教はこれからどんどんあちこちの国に教会を置くの。冒険者ギルドを作るためにね? それなのに、ここでフトクリムの政治に関わったらこれから先に困る。こっちの国にも難癖付けてくるのか? って思われる可能性がある。分かるでしょ? 駿兄貴だって」

「……まあな」

「俺達が決闘をするのは、あくまで主神を馬鹿にされた事を謝ってもらう事。だたそれだけ。それ以上もないし、それ以下もない」


 きっぱりと言い切ると駿兄貴もこれ以上何も言わなかった。

 ヘタに突っ込むとこれからの活動に支障が出る事も理解しているからだろう。


「そうか。悪かったな」


 そう言って、駿兄貴は二人を連れて部屋から出て行く。

 俺はそれを見送って、嫌な雲行きになってきたな。とちょっとだけ思った。




「駄目だ。聞く耳持たず」

「駄目? 少し意外のような……」

「ヘタにその辺りに関わると、これからの先、冒険者ギルドの方にまで影響が出てくるっていわれたら、これ以上は何も言えなくなった」

「……ああ、その可能性もあるのか……」


 駿、千影は納得し、王子達には悪いが諦めて貰うしかないと結論を出した時、ティナが少し悩みながらも口を開いた。


「一応……方法もない、ことも、ないのですが……」

「え!? あるんですか!?」


 撫子が驚いた様にティナを見た。

 撫子だって、本人達と王太子に頑張って貰うしかないと諦めた所だった。


「はい。ただ、少々乱暴ではありますよ? 今の状況は信徒対信徒の決闘なので、これを神対神の決闘にすれば、問題ありません。神が相手の神の教えに文句を付ける事はよくある事なので。キリュー教が勝てば、相手側の教会には解散してもらうという条件をつければ、国教にする事は回避出来ます」

「……え? 解散?」


 ティナの言葉に撫子が思わず聞き返す。


「はい。解散です。今回の事はそれしか方法がないかと。キリュー教が勝てば創世神教にしろというのもおかしな話というか結局政治に関わるという事になりかねませんし、かといってキリュー教が国教になる事も我々の立場的には無しです。なのでこの場合取れるのは相手側を解散させる事です」

「……少々どころかかなり乱暴な手だった……」


 撫子が目を泳がし、周りの人間も難しい顔になった。


「その場合、こちらが負けたら、こちらが解散というわけか?」

「はい。そうなります」


 駿の言葉にティナは頷く。


「……実際の所どうなんだ? 桐生は負ける事はないと強気だが、本当に負けないのか?」

「負けないと思います。ベロスさまの結界を破壊するだけの攻撃を相手側が持っているとは思いません」

「……リスト、どう思う?」

「私もティナさんと同じ考えです。それに、その方が安全かもしれません。国対キリュー教の場合、他教会の高位信徒達が軍内に残る可能性は高いですが、これが教会対教会であれば、間違いなく除外されます。相手が美と愛欲の信徒であるのならば、神による武力の恩恵はほぼありません。個人の今まで培ってきた技術のみです。負けるとは思えません」


 リストの言葉に駿と千影は考え込む。

 確かにそれなら『有り』なのだろう。しかし二人はイエスとは言えない事情があった。


「なにか、駄目なんですか?」


 悩んでいる二人に撫子が問いかける。


「桐生が納得するかな、と思って」

「無理だと思うんだよな、俺も。神対神って事はもしかしなくても相手側に神を連れてかなきゃいけないんだろ? ケンカを売りに。しかしそれにアリスティー様を連れて行くというのに、桐生が納得するかといえば、しないだろうなと」


 千影と駿の悩みはほぼ同じだった。

 この場合、話を振った所で、桐生は納得しないだろう。

 アリスティーの性格から考えて相手の教会に決闘を申し込む事などしない。それをする理由に国教が関わっている事をすぐに思い至るだろう。桐生はそういうのを良しとはしないタイプだ。なおさら意固地に反対する可能性がある。


「あ、いえ、お願いするのはアリスティー様では無く、ローズベリー様です」


 ティナの言葉にキリュー教のメンバーは納得と大きく肯いたのだった。




「桐生!!」


 怒鳴り声と共に扉がバタンと強く叩かれる形で開いて、驚いた拍子に入力をミスる。


「……ローズベリーさま?」


 何? なんかむっちゃ怒ってるんですけど……。


「聞いたわよ!」

「何をですか?」

「さっきの決闘よ!」

「はぁ?」


 決闘? 決闘がどうかしたか? ………………え? 考えたけど、何? 分かんねぇ。


「先ほどの決闘がどうかしましたか?」

「ただ相手に謝らせるだけってのは本当?」

「え、ええまぁ、そうですけど」

「なら解散させましょう」

「ぶっ!?」


 な、何言い出してるの!? この女神!!

 「なら」ってなんだよ、「なら」って! 文脈明らかに可笑しいだろ!?


「ちょっと待ってください、ローズベリーさま」

「なに?」

「なんで相手側を解散させる話になってるんですか」

「だって、私が馬鹿にされたのよ?」

「いえ、馬鹿にされたのはどちらかというと、アリスティーさまの方なのですが……」

「アリスティーといえばキリュー教。つまりは私が馬鹿にされたのよ!」


 いやいやいや、おかしいって! なにその考え方!


「頼まれたんですか!?」


 先ほどの事を踏まえてとりあえず聞いてみる。


「頼まれもしたわ。でも、それとは別に気に入らないのよ」

「気に入らないって……」

「別にただの一教会っていうのなら無視したわ。でもね! でもね!! 国教ってなると話は別よ!? 親はいいわよ!? 自分の意志で入るんだから! でもその子供は!? 幼い頃からまともな性教育を受けることも無く! 遊び回るなんて! 真実の愛の女神として! ゆっるっせっなっい!!」


 ……エキサイトしてるなぁ。そりゃぁ、ローズベリーさまからしたら許せないだろうけど……。


「それに、見てやろうじゃないの」

「え?」

「アリスティーを格下に見下した男の女神を」

「……そっちに対しても怒ってるんですか?」

「当たり前じゃない! 桐生がぶちっと切れるって事はよっぽどの事だったんでしょ? 私にとってはもうみんな家族みたいなものだもの。家族が馬鹿にされて怒らないほど私、冷たくないわ」

「ローズベリーさまはわりといつも熱いですけどね……」

「だって真実の愛に生きる女ですもの!」


 いや、そこでドヤ顔しないで……。

 ……いいけどさ……。


「宗教戦争ですか……」

「そうね。相手の人数を考えると抗争というよりも戦争かもね」

「キリュー教としては宗教戦争はしたくないんですけどね」

「あら、主神が馬鹿にされたのに?」

「そっちは謝ってもらいますよ、もちろん。それを赦すつもりはありません。そうではなく、神対神の宗教戦争が嫌なんです」

「そうね。キリュー教的にはよその神と敵対するのなんて、デメリットしかないものね。基本」

「そうですよ。これっぽっちもメリットないですし、これが変な噂になって、キリュー教は気に入らない教会があれば潰すなんて噂が立つと嫌なんです」

「大丈夫よ」

「何を根拠に?」

「創世神も呼んで三者面談風にして、まずは謝ってっていう所からするから」

「……は?」


 三者面談風? ……第三者立ち会いって事か?


「相手は王よ? そんなやつが暴言吐いたのよ? まずは選んだ創世神から謝ってもらわなきゃ」


 えー……? それ、いったいどうなるの? っていうか、その状況でいったいなぜに「大丈夫」って言い切れるんだよ……。


「あの神なら確かに謝るかもしれませんが、謝らせたからといってデメリットが発生しないとは思えないんですけど」


 むしろかえって、飛び火しねぇ?


「謝るって事は、王に相応しくない。つまり、王の交代に繋がる」

「政治色が濃くなるじゃないですか」

「ちっちっちっち。甘いわね、桐生」


 何のドラマの真似ですか。それ。なんか見ましたよね? そのポーズ。

 明らかに腰入れて、妙なモデル立ちして人差し指を揺らすって、何か絶対見たっしょ? 何か知らんが真似てるよね? 何そのポーズ。

 っていうかノリノリだぁ……。やべぇ。熱意が半端ねぇ……。


「もちろん王は嫌がるでしょうね。ついでに言うと国教を変えるっていってるんだから、主神がもはや創世神ではないって言い出すかも知れないわ。そしたら私は晴れて、どうどうとその女にケンカを売れるわけよッ」


 いや、わざわざそんな事しなくてもケンカは売れますけどね。先に向こうが売ってるんで。


「で、それでどうやってデメリット回避するんです?」

「そんなもの、創世神がみんなに事情を説明すればいいだけじゃない」


 ……他力本願じゃないかな、それ……。

 デメリットの回避になるのか、それ、本当に……。

 っていうかそれだったら別に創世神に謝ってっていう必要も無いんじゃ?


「そもそも、何人かの信徒達が鞍替えしてるんでしょ? そいつに恨み持ってる神はいっぱいいるんじゃない? 解散した後に戻ってくるって事は許さないだろうけど、そんなのが国教になるってのはもっと嫌だと思うわ。みんなキリュー教の応援はしても、嫌悪は抱かないと思うけど?」

「そんな上手くいきますかね?」

「そんな馬鹿が自分が住む所のトップに立つなんて私は嫌だけどね」

「まあ俺も嫌ですけどね」


 それはもう間違いなく。

 他国へ逃げようかってすら思うよ。アレは。


「桐生。署名が必要だっていうのなら、集めてくるけど?」

「……」


 署名ねぇ……。


「一つお尋ねしてもいいですか?」

「ええ」

「貴女がサロネ教にケンカを売るのはフトクリムの人々のためですか?」

「いいえ。私自身の信念のためよ!」

「かしこまりました。では、売られたケンカを倍にして返してあげましょう」

「そうこなくっちゃ!」


 楽しげに笑うローズベリーさま。

 人々のためだというのならお断りした所だが、自分のためだっていうのなら仕方が無い。

 俺も子供の様に笑うローズベリーさまに釣られるように笑みを浮かべた。




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