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神に選ばれた俺は  作者: 瀬田 冬夏
第2章 人の想いと神の想い
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暴風域に入りました。

 ここはダンジョン。

 多くの物が一攫千金を狙い潜る地下迷宮。

 そこにベロスとレオソルンが居た。

 二人は何とも言えない顔で周りの状況を眺めていた。

 『トレイン』とも『大繁殖』とも言われている騒動の後、狩人や冒険者達はしばらくの間ダンジョン内は立ち入り禁止となる。

 その間にモンスター達は餌が無くなり同士食いを始め、そして数がいつの間にか収まる。と言われている。

 実際は違う。


「ふははははははは!! どうだ! どうだ! どうだ!! 喩え神力がなくとも、儂は強いのだ! 強いのだ! 強いのに!! 何故信者がこぬー!!!!!」

「うふふふふ。燃えちゃえば良いのよ。燃えちゃえば良いのよ。全部燃えちゃえば良いのよ」

「ひとーつ、ふたーつ、みっつー。あらあらどうしたの? アナタの鉄を切り裂く爪は五つあるはずでしょー。どうしてみっつしかないのかしら? ねぇ。引っこ抜きたいのよ? ねぇ。ひきさきたいのよ。ねぇ? 残りの二本はどうしたのかしら? ねぇねぇ? ねぇぇえぇぇぇ!!」


 信者が獲得できず、暴れるだけの力を持った神々がストレスを発散するために暴れていた。

 この時ばかりは、モンスター達が哀れになるほどな惨状になる。

 トレインは正直なところ、こういう神のガス抜きの意味合いが半分以上占めていたりする。

 前回から今回までの期間が随分と短いが、どうやらよほどストレスが溜まっている神が多いようだ。


「すまぬが、少し良いか?」


 レオソルンが声をかけると神々は殺気の籠もった瞳を向ける。


「信者を獲得した者がなぜこの場に居る!」

「笑いに来た? もしや笑いに来た!? 笑いに来たのね!? 燃やしてやるぅ」

「おひげがいっぽーん。おひげがにほーん。おひげがさんほーん。うふふふふ。嬉しいまだあるわ~」


 出向いてきたのは失敗だっただろうか。

 一瞬二柱にそんな想いが浮かんだが、内心頭を振り、逃げの方向に走り始めた思考を振り落とす。


「しばしワレの話を聞いて貰いたいのだが」

「ムッ! むしや多神教への勧誘か! 嘗めるな。儂はこれでも武神だぞ! そんじょそこらの十把一絡げと一緒にしないで貰おう。もちろん! どうしてもというのならやぶさかではないが!!」

「火炎系魔法の需要がおありですか? ええ、かまいませんとも。つまり真打ちは後から登場というわけですね。ええ、ええ。分かりますとも」

「おひげ抜かないであげる」


 三柱はころりと態度を変えた。


「……もしや我らのせいで、トレインの周期が早まったのか?」

「……あり得ぬ事ではないのかもしれんな……」


 ベロスの言葉にレオソルンも肯いた。


 神としては多神教よりも一神教の方がいい。しかし背に腹はかえられないし、誰もいないよりは大勢の中の一柱でも良いから信徒が欲しい。

 しかもどうやらキリュー教は神々を集めているらしい。ならば、自分にも声がかかるかも知れない。なぜなら自分は優秀な神だから。

 そう思い、密かに待ち続け、やがてそれは苛立ちになり、これはヤバいと八つ当たりの場を与えられたのだろう。


「実は、ワレらは今、一部の狩人を支援する組織を作っていて、それに協力してくれる神を探して居る。特に、まだ未熟な子達を導き指導できる者達を」

「……キリュー教の神の一柱になるではなくてか?」

「教祖的にはもういっぱいいっぱいだそうだ」


 ベロスの言葉に神の表情がまた険しくなる。


「しかし、我が教会に登録した狩人を冒険者として呼んでいるが、この者の何人かは、故郷から一攫千金を目指して上京してきた者も多く、初期宗教登録の者も多い」

「そういう子らも、キリュー教は奪っていくのでしょう? やっぱり燃やしてしまいましょう」

「いや、ワレらが言う登録というのはあくまでも『冒険者』としての登録で有り、信徒に入ったわけではない。実際何名かは、他の神々の信徒になった」

「「「!!」」」


 レオソルンの言葉に神々の目の色が変わった。


「これが終わったら、キリュー教にて説明会を行うので、よければ来てくれ」


「ゆくぞ。今すぐゆくぞ!」

「私も行くわ~」

「行く行く」

「いや、他の階の面々にも声をかけるので、三日くらいは始まらぬぞ?」

「とか何とか言って、知らぬ間に始まってたらたまったもんじゃ無いわ」

「そうか。ではキリュー教の建物で待って貰えると助かる。我らは他の者にも声をかけてくる」


 レオソルンの言葉が終わらないうちに三柱は地上へと走って行っていた。

 それに苦笑する二柱。


「同じ反応であったな」

「そうだな。神は信徒がいてこそ神であるからな」


 今の所、「多神教」に嫌悪感がある神以外は話を聞くなりキリュー教へと向かっていく。

 彼らが立ち去った方向を眺めていたがやがて二柱は下層へと向かう。

 今ここにいる神は間違いなく信徒がいない神々だ。

 彼らに少しでもキリュー教に協力して貰うのが、二柱が桐生からお願いされた事案だ。


「神はね、神らしい事をしてこそ、神なんですよ。でもだからといって、引きこもってたら意味がないんですよね」


 突如始まった桐生の言葉に二柱は戸惑った。


「神が客引きならぬ信徒引きなんてのは、見てて残念感が漂うんですよね。むしろ、こんな神の所には行きたくないって思うと思うんですよ。かといって、自分の教会に引きこもっていたら、信徒は集まりません」


 それが先ほどの言葉の意味らしい。

 だから神らしく力を示す事により、信徒を獲得する場を作ろうとの事だ。

 桐生からしたらヘタに神が残ると、誰かが残った神を連れて「キリュー教にいれてやってくれ」と言ってきそうで怖いのだ。

 特にザクラが連れてきそうで。

 そう桐生は不安がっているのだろうが、しかしザクラとて流石に反省してはいる。

 神々としても桐生にあまり負担を増やしたくない。しばらく神を連れてくるのはザクラは禁止。と今回の署名の時に条件づけられた。

 神々が抜けるには同じのを司る神が必要。一部の神が重なっているので、同じだけの神は必要はないが、それでも多くの神が必要である。しかしそれでも、設立から一年もせずにこれだけの神を抱えることはない。

 創世神となり、己の世界を築きたい者もいるが、この世界で楽しくやっていければいいだけの神もいる。それぞれの状況に合わせて後輩の神を入れていけば良いだろうと皆考えている。

 実際にどうなるかは分からないが。

 未来を視る事の出来るトキアカが「そんなに上手くいくかな?」と呟いていた事からしても、そう上手くはいかないのだろう。しかしそれでも、出来るだけの事はしたいと多くの神々は思っているのだ。世の中ままならないが。


「ベロス。レオソルン」


 声をかけられて二柱は足を止める。

 小さな人影が飛んでくる。


「どうしたのだ? 何かあったのか?」


 ベロスがレオソルンの肩に腰を下ろしたアレキトンダーに尋ねる。


「ケットウ。アレ。じょうきょう、カワっタゾ」

「状況が変わった?」

「ウム。ローズベリーが、ムこうの神にセンセンフコクしたゾ」

「……信徒同士の決闘では無く、宗教対立になったわけか」


 レオソルンが腕を組み眉根を寄せた。

 何名かの神は最初の状況が神々には影響のないものと気づいていた。

 それを口にしなかったのは桐生がそれを望んでいなかったからだ。

 桐生は相手の宗教に対し、否定することはほとんどない。あったとしても、それを潰そうなどという考え方もしない。神と人とは違う。人と同じように感情があって、人と似た外見をしていたも人では無く神なのだ。その考え方も行動も人とは全然思考であると理解していた。

 だから、自分と自分の大切な人に影響がなければそれでいいとすら思っている。

 だからこそ、自分達を今のような存在にしたのだろうとレオソルンは考える。

 物理的な守りはベロスが。精神的及び、見えぬ運命の糸を断ち切るためにレオソルンが。


「……負ける事はないだろう」


 話を聞いていた時から、レオソルンは相手側の宗教に何も思う事はなかった。

 それはキリュー教の面々に大した影響がないと理解していた。


「トウゼンだ! 皆が負ケルことナドナイ。デモ」


 アレキトンダーはぎゅっとレオソロンのたてがみを捕まえた。


「ローズベリー。ダイゲキトウ。ワガハイ観てるノ恐怖! ヨッテ! 逃走! センリャクテキテッカイ!」

「……大激怒に、戦略的撤退か?」


 ほんの瞬きほどの時間、ベロスは考えて訂正をしてみる。


「ソウ! ソレダ!!」

「そうか」

「ふむ……」


 アレキトンダーの言葉に二柱の尻尾が同じ動きをする。

 足に巻き込まれるように垂れ下がっていくのだ。


「ワレもしばらくは戻りたくないな」

「同意である」


 レオソルンとベロスもアレキトンダーと同じく撤退を決意した。

 もともと仕事もあるので、多少帰りが遅くなっても問題はないだろうと。


 ローズベリーは戦う力は持たないが「愛」を司る唯一神である。

 情熱が凄すぎるのだ。

 それが怒りに変換されたとなると、精神攻撃すら出来そうな圧倒的な感情の爆発だろう。

 それになにより、怒っている女は怖いというのがこの三柱の共通の想いであった。

 

「メリーマムルに、オチツイタラ、連絡、頼ンダ」

「そうか。それは安心だ」

「彼の神には頭が下がる」


 三柱はそんなコトを言いながら下層へとまた歩き出した。






「……何があったんです?」


 ティナさんがちょっと困ったように尋ねてくる。しかし、何があったか、なんて俺がティナさんに言いたくない。


「なんというか、相性が悪くてね……」


 そう言って誤魔化す。

 創世神教会に行ったらすでに豚と女神サロネが居た。

 国教を変える手続きに来ていたらしい。

 女神サロネは確かに美人だった。プロポーションも素晴らしかったさ。

 ただ品が無かった。

 布どころかリボンとしか言いようが無いようなもので大事な所だけを隠しているだけの格好。

 水着の方がまだ遙かに布面積があるんじゃねぇかっていうような格好だ。

 というかこれで歩いて、動いて、よく隠せるな。それこそ神の奇跡ってやつか!? って思うレベルだ。


「……ちょっと桐生。うちのアリスティー。アレに仕えてる馬鹿に、侮辱されたの?」

「ええ、まぁ」


 俺も本人見たの初めてだけど、無いわー。ホント。ないわー


「アレだなんて失礼ね。アタシにはサロネって名前があるのだけど?」

「アンタなんかアレで十分よ!」

「下位神のくせに、高位神に対して無礼じゃなくて?」

「ハンッ。何が高位神よ。あたしは唯一神よ」

「それが何? よっぽど、マイナーなだけでしょ?」

「マイナーなんかじゃないわよ! それなりに名が売れてきたんだから! 私は愛の女神!! たった一人の人に愛され、たった一人の人を愛す。そんな純愛を守る女神なんだから! アンタの存在なんて不愉快でしかないんだけど!」


 ローズベリーさまの言葉に女神サロネはきょとんとした後、笑った。ローズベリーさまを馬鹿にするように。


「あはは。たった一人に愛し愛される? 無理よそんなコト。わたしだって昔は似たようなコトを考えたワ。でもね。子供達はそんなコト、望んでいないワ。そうでしょう?」


 そう言って女神サロネは豚の頬を撫でて体を寄せる。

 それに釣られるように豚は女神サロネの体を触り始める。

 オイオイ。


「お子様が見てらっしゃいますが?」


 創世神の所に戻るからとここの王女と王子も連れてきたのだ。

 今も俺達の後ろにいる。


「それがどうした?」


 豚はそう言いながら胸を揉み揉み。


「りっぱな教育じゃなくて?」


 女神サロネがそう言った瞬間。ローズベリーさまの怒りが爆発した。


「ふざけんなー!!」


 吠えて掴みかかって、双子山をちぎろうとしていたに違いない。

 悲鳴と共に女神は豚から引き離された。

 そして一睨みすると、女神サロネがローズベリーさまの左頬を無言と共に叩いた。

 仕返しにとローズベリーさまが叩いて、また女神サロネが叩いて、ローズベリーさまが叩く。それが繰り返される事となった。

 なにこのプロレスの様な叩き合い。

 思わず傍観してしまったよ……。


「何がキリュー教よ! 弱い神達のために残してあげようかと思ったけど止めたわ! 叩き潰してあげる!」

「はんっ! アンタみたいな所の子供達に負けるような子供達じゃないのよ! 返り討ちにしてあげるわ!」


 二柱の女神達の戦いはその言葉でとりあえず休戦となった。

 頬を抑えて怒鳴る女神サロネより、叩かれた頬を一切触ること無くそう言い返したローズベリーさまの方がやっぱり強いのだろうと思う。いろんな意味で。

 二人の子供達はそのままキリュー教に連れ戻した。

 創世神さまと一緒に。

 もう国教切り替えた後なんだと。公布は今度のことが決着が付いてからっていってたけど。

 ちなみに今は良い笑顔で酒を飲んでるよ。

 お代のマジックカードが、ちょっとばっかりあり得ない物だった。


『属性魔法の宝珠』


 と書かれたマジックカード。

 効果は好きな属性の魔法を覚える事が出来る。だ。

 俺が、本来キリュー教に無い魔法が使えるのは、トキアカさまがコレの上位宝珠を使って俺にその能力を与えたから。

 チート能力。

 俺が適当に言った能力を叶えさせてしまった宝珠。

 それをさっきから一杯飲む毎に長岡さんに渡しているらしい。

 つまり、勝てってコトなんだよな。

 三枚か……。


「……ティナさん、新しい力って欲しい?」


 尋ねると小さく笑う声が聞こえた。


「いいえ。私は今の力も持て余すぐらいです。どうぞ、他の方に使ってください」

「……それでいいのか? もしかしたら下のメンバーの方が強くなってしまうかも知れないけど?」

「構いません。私は桐生さんのサポートが出来ればそれでいいですから。私の分は、私よりも才能のある人に渡してください」

「……ありがとう」


 ぎゅっと抱きしめると小さな笑い声が腕の中から聞こえてきた。

 これで、千影まで力を渡す事が出来る。

 ティナさんを解放し、ラックの元に向かう。


「僕には、使いこなせません」


 ラックはそう言って渡したカードを返してきた。


「撫子さん、千影さん、駿さんで使うべきだと思います」

「でも、ラック」

「桐生さん。勝つための手段を間違わないでください」

「……」

「僕では駄目です。残り三枚だというのなら、あの三人に使うべきだと思います」

「……いいのか?」


 ラックが頑張っている事を知っている。ナデコに追いつこうと必死になって頑張っている事を知っている。

 だからこそ、俺はこれをラックに渡したい。


「圧倒的勝利を見せつけましょう。ローズベリーさまのために」

「……分かった」


 ラックの頭を撫でた。


「でも、俺は、やっぱりお前が使うべきだと思うよ?」

「駄目です」

「……うん。ごめん。ありがとうな」


 俺の気持ちを優先するなってラックの目が語ってて、俺は少し悔しい気持ちでナデコ達の元に向かった。

みんなの想いと共にこのマジックカードを渡そう。

 そう決意した。




 追伸。

 最終的に『属性魔法の宝珠』は人数分の十枚になった。

 それならそうと最初から全部渡しててくれよ、もういっそうのこと!

 ぶつける事の出来ない感情を俺はその日一日持てあました。

 ああ、くそ。恥ずかしい……。


 




ブクマ・評価・感想等ありがとうございます。

これからもちょびちょびと頑張っていきますのでよろしくお願いします。

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