第9話 無双な俺ら
色んな雑談をしながら歩いていたら、下層へと続く道が見えてきた。
下り坂を降りていくと、明かりが見えたのか臭いでもしたのか、階下から雄叫びを上げてモンスター達が襲いかかってくる。
俺は慌てずランタンの光を最大にし、通路を隙間無く膜で覆うと、モンスター達の突撃を膜で受け止め、そして気負い無く歩き出す。光に押し出される形でモンスター達も押し出され、それだけだったら良かったんだけど、雄叫びを聞いて集まった他のモンスターもその後続にどんどん続いていて、馬鹿のように突っ込んでくる。やがて、臨界に達する。
「あんまり、見た目の良いものじゃないねぇ」
目の前で繰り広げられる光景に俺はそんな事を言いながら歩き続ける。
「お前さんのとこ、慈愛の女神っていなかったか?」
なんて事をアフゥロゥに突っ込まれたよ。
「うわぁ、将棋倒しって、こんなに危険なんだ……」
光の壁とモンスターに挟まれて圧死したモンスター。また、前から押し出されて、倒されて、崩れた故に同じく圧死したモンスター。
圧死したモンスターはその都度、膜を通り抜けてくるので、回収し、次の先頭を押しつぶすといった感じだ。
「どうする? 下に付いたら、間にモンスター入れて、押しつぶしながら先に進む?」
「哀れ過ぎるだろ」
「お前自分とこの神さまを思い出せ~」
ブラッキーとアフゥロゥが反対してきたのですっぱりと諦める。
「この辺はさ。さくっと通りたいから、適当に倒しつつ進もう」
「その考え方自体がなんというかトレイン中じゃねぇよなぁ……」
リラーマが苦笑一つしながら敵を倒していく。
俺は夜空をフロア一杯に広げ、階下への道を探し向かう。
「あー……自動でマッピングしてくれないかなぁ……」
「そういや、ダンジョンのマップってどうなってるんです?」
主に冒険者登録の仕事と、神さま方の相手しかしてないナデコがふと気になったように尋ねてきた。
依頼受注と達成は一般事務でもいいけど、登録だけは信徒じゃないと無理だからなぁ。
俺は何故かもっぱら外回り。ティナさんは神さま方の身の回りの世話、ラックはナデコやティナさんの交代要員しながら、ダンジョンの上層階の清掃……。うーん。やっぱうち、人手足りてないなぁ。
「冒険者と狩人のみなさんが逐一書いてるよ。俺はそれを買って冒険者に配布してる感じ」
「あ、あれって購入してるんですか!?」
「してるよ。当然だろ? 全部手書きだぞ? ただで譲れとか言えるか? 俺なら自分で描きに行けっていうね」
「……確かに」
「こっちから渡してる地図に齟齬があった場合、どんな風に違ってたかって確認だってしてるよ。もちろん、お金払って情報は買ってます」
「うひぃ……」
「上層では、少しずつですが分かりやすい場所では番号の書いた看板も設置してます。地図の番号と照らし合わせて出口が分かるように、と」
「俺らからすると、そこで迷って遭難するようだったら、向いてないって切り捨てるけどな」
ラックの頑張りを否定するかのようにアフゥロゥが言うが、その表情はお人好しだ、と言いたげだった。
「それにしてもッ! こうも一方的だと、哀れだな」
槍で急所を一突きし、息の根を止めたモンスターを一瞬にして回収する。
「でも、良かったんですかぁ? アイテム枠、あんなに上げちゃって。いやぁ、びっくりしましたよ。あんなに貰えるなんて」
リラーマが大金でも手に入ったようにニマニマ笑ってる。
「確かに、あんなに貰えるとは思わなかった。今までこつこつ貯めてたのはいったい何だったのか、と思ったからな」
アフゥロゥまでニマニマ笑いながら言っているが。
「お二人さん、上機嫌に笑ってるけど、あとあと絶対、断捨離が待ってるぜ? 一人二十個増えて足りるって思ってるなら、全然違うからな? 俺、前に五十階層まで行った事あるけど、見知らぬモンスター百や二百じゃ効かないからな?」
まあ、その都度買うから、損はしないだろうが。
「下層のモンスターが幾らになるかさっぱり分からんから、この階層は一律幾らっていう買取になると思う。五人できちんと相談して、アイテム枠やりくりしないと大損しちゃう可能性だってあるからね」
言いつつ振り返ると五人は驚愕していた。
「……どうした?」
「キリュー……五十階って行ったのか?」
「うん。初日ベロスさまと五十階までいったよ?」
「……最前線のパーティーでも、二十二階層までしかいってないはずだぞ」
「そうなんだ。まあ、俺は戦闘せずに下に下にって行っただけだったからな」
「それだけでも、十分すぎるほど、凄いんですけど……」
「キリューさんって、やっぱ、非常識の塊だよ……」
「いやぁー。それほども」
褒めてないと分かりつつも、そう返すことにした。そして案の定褒めてないって返事は来たがそこは無視しておく。
「あっ!!」
そんな折り、ナデコが思わずといったように声を張り上げたので、視線をそっちに向けると……。
「バラバラ死体遺棄事件再びかー……」
「教祖が教祖なら、信徒も信徒だな」
俺の言葉にブラッキーがジト目で見てくる。
「何使ったの?」
俺はオリハルコンだったけど、ナデコはそれはない。
「マザークイーンの糸を斬糸に……」
「マザーの糸で斬るにしちゃったらそりゃ、この辺のモンスターあっという間に細切れだって……」
なんで蜘蛛型モンスターの最強でやっちゃうかな。せめてもう三ランクぐらいは下げようよ。
「……い、良いんですよ。こういう端切れが、普段は手に入らない方々の手に渡って、色んな商品が生まれるっていう可能性があるんですから」
細切れにしちゃったモンスターの肉を糸でくっつけては引っ張り寄せてってしながらそんな事を言う。
「ナデコのお小遣いが減るだけだからいいんだけどな、俺は、別に」
「はぅううぅぅ……。ですよね。まあ、いいんですけど……」
まあ、この世界で金持ってても、使うとこあんまりないもんな。なので、来月のお給料は日本人の俺らは日本円でと思っている。
「でも実際、キリュー教のおかげで、小さな店でも良い素材が回って商品の質や値段が落ち着いてきたよな。いやあ、その点に関しては、非常に助かったよ。なんせ、うちの姉貴からの無茶ぶりがなくなったから。あ、魔法薬神の教会に姉が居るんですけどね。やれ、血を採って来いだの、肝臓取ってこいだの、腐れるから無理だって言ってたのに、姉の言う事が聞けないのかだなんて言ってくるし、いやーもー、それから解放されただけで、すっごく幸せ」
大変だったんだなぁ。リラーマも。笑顔でモンスターに矢を撃って射止めるのはどうかとも思うが。……人の事は言えんか。
「そういう意味では、今は火の魔法使いは厄介者扱いね。売れる素材まで焼いちゃうから……」
レイカさんが困ったように呟いた。
確かに魔石だけを集めるのなら火の魔法使いは大活躍だ。だけど冒険者は冒険者袋のおかげでモンスターの死骸を丸々売ることが出来る。毛皮が高く売れるものもいるので、焼け焦げてしまう火の魔法は敬遠されるだろう。
「じゃあ、いっそ体内で魔法を着火させるのはどうでしょう?」
「内臓が売れるのもいっぱい居るし、肉が売れるのもいっぱいいるからな?」
ナデコが妙案だ! と発案するが、俺はその案を否定する。
「さらりとそんな案を出す嬢ちゃんも怖いが、それを普通に返すキリューも怖いぞ……」
あれー? なんか俺、危険人物扱いされてきてない? 不条理だ。
それにしてもいっぱいいるなー。めんどくさいなー。というよりも、目の前で暑苦しくて煩いというか……。
「……ラック、どんどん倒して行くから、どんどん回収していってくれる?」
「はい」
めんどくさくなった俺は、魔石を時空魔法で抜いていくと同時に収納する。
心臓とも言える部分を失ったモンスター達は糸の切れた人形のように倒れていき、都度、ラックが回収していく。
ヒュポヒュポヒュポって、体内から魔石が消えていくモンスター達。俺からするとそんな感覚だ。
「……よくわからんが、キリューがあり得ん倒し方しているのはなんとなく想像が付く」
「敵対したくないねぇ、ホントに」
「いや、しないよ? 人間相手にこんな事」
そんな会話をしながら俺達は歩く。俺とラックは前からくる敵を。ナデコは後ろから来る敵を。他五人は左右からくる敵を担当していた。
俺達の方が圧倒的に敵を狩るが、アイテム袋が有限な彼らには程よいのではないだろうか。と、思っていた。事実、五つも下に下がると彼らはアイテム整理をしたいと言い出してきた。
ちなみに周りはモンスターばっかりです。
ランタンあると余裕だねぇ。周り、敵に隙間無く囲まれても、アイテム整理が出来るんだから。
ってなわけで、その間の掃除は俺達が担当した。ナデコは大量の水を流して、モンスター達を一カ所に集めたのち、囲いを作って、たぶん、砂かなんかを落として押しつぶし、ラックは素直に剣で戦い、俺はレイカさんの言葉を受け、火魔法でどうにかならないだろうか、と試行錯誤中。
うーん。ナデコの様に囲ってその中で火を焚いて窒息しさせるっていうのが一番傷が無くていいのだが、レイカさんには無理だよなぁ。レイカさんのパーティー、土系か大地の神系の魔法使いいなかったし。
でもうーん……。喉を焼く辺りが一番いいのだろうか……。
そんな事を考えているとブラッキーが声をかけてきた。
「売るの決まったの?」
「ああ、売値が分かっているものに関しては、いつも通りダンジョン値段なんだよな?」
「そうだね」
ダンジョン値段。販売は二倍、買取は半額である。
普通だったらブーイングなんだろうけど、その分滞在時間が長くなるっていって、割と喜ばれる。まあポイントは一応つくしね。
……俺としては『地上に帰ってこいよ、精神的にもその方がいいって』っていつも思うのだが、ダンジョンに入るためのあの長蛇の列がある故に、無理なんだろうなぁ。
なんせ下っ端の子は翌日のために徹夜で並ばされるって聞いた事もあるし。
やっぱ早めにセーブポイント作んないと駄目だなぁ。
「買取価格は五千三百二十六ゴルドーになるけどいい?」
「……やっぱ、安いな」
「半額だからね」
「人数分に分けてくれ」
「端数は?」
「幾らになる?」
「1ゴルドー」
指を一本立てる。
「いらん。お前にやる」
「あ、どうも」
俺は一人一人に千六十五ゴルドーと十ポイントを割り振った。
「捨てるよりは売れる方がありがたいが……。正直、悲しいな」
アフゥロゥは金を受け取りながらそんな事を言った。まあ、そうね。ギルドに戻って処理すれば、クエストが出てればそれを達成扱いに出来るので、その分の金もポイントも入るもんな。
「さて、こっからどんどん稼ぐぞー!」
「「「「オー!!」」」」
五人は勢いよく声をあげた。
そして、五人は俺のランタンから飛び出して出遅れた分を取り戻すかのように剣を振るい、槍で突き、大槌でぶん殴り。あ、レイカさん短剣なんて持ってたんだ。
うーん……。護身用だろうけど、ナイフと火魔法の差がありすぎる。やっぱ、火でどうにかする方法考えとくかなぁ……。
なんの気負いも無く俺達は戦い歩き続けた。
そして、三十一階層。
二回目のトレイン発生。
ダンジョン内は暗闇に包まれて、モンスター達の雄叫びやら地鳴りやらが響く。
俺達はランタンの中で安全に狩りをしている。
トップの狩人達が主に活動している場所は過ぎたが、問題がなかったわけではない。
防御の面は何の問題も無い。
問題は攻撃の方だった。
ここに来るまでに、使っていた武器の手入れをしないと切れ味が落ちて、ヘタをすると折れるという状況になってるらしい。
リラーマが一生懸命、ブラッキーの剣を研いでいる。
ホワイトさんは騙し騙しで槍を使っている。
レイカさんのナイフはとっくに折れた。
アフゥロゥは己の拳を使って戦っているが、流石に固いらしく、疲労が蓄積している。
「くっそ! №18『発動』」
アフゥロゥがマジックカードを持ってそう叫んだ。
マジックカードが光り、複数の水刃がモンスター達を切り裂いていく。
中には見事に首を切り落としたものもいたが焼け石に水だ。
「うーん……明らかに攻撃手段がなくなってきたっぽいね」
俺の言葉に五人は押し黙った。
レイカさんは火炎魔法を使えば倒せるけど、素材としてはちょっと値が下がるだろうなぁ。それでも欲しがる所はいるので、儲けは出せる。
ちなみに俺達はというと、無双が過ぎるので、ラックには魔法で、ナデコには武術でと苦手な分野で敵を倒せと指示を出している。
「……さて、どうしよう」
たぶん、これは、他のメンバーも抱える問題にもなるはずだ。冒険者は小さい教会が多いし。というか、まずはそっちから声をかけたので、稼いだ金で、急いで良い武器揃えるよりも、信徒を増やす活動をしている所も多い。
うーん。武器の方もどうにかしないと不味いかなぁ。
そんな事を考えている間にアフゥロゥが何か案を思いついたらしい。
「……ち、しゃあねぇ! 真似なんてしたくなかったが……」
アフゥロゥが舌打ちを一つして、ランタンの明かりの外にジャンプした。
本人もランタン持ってるから平気だけど、何するんだ? 上から脳天に向けて殴るのだろうか?
「最大!!」
そんな言葉に反応してランタンが光を強めた。
アフゥロゥが上から圧力をかけ、モンスター達を圧死させる。そしてそれを見たからか、ホワイトさんが走り、壁を駆け上がり、モンスター達の頭上を飛び越えると同じようにモンスター達の中に入り込んでランタンの光を最大にした。凄い勢いで骨やら何やらが折れる音が聞こえてくる。
これはこれで素材的には悪くなるんじゃって思うのだが、まずは一言言わせて貰おう。
「それはそれでかなり危険な行為だと思うんだけど、俺」
二人とも、モンスターを通り抜ける時、ランタンの光、小さくしてるんだもんな。ホワイトさんなんて最小限だった。あれは攻撃をくらう可能性だってある。
「ばっかやろう! 稼げない方が大問題だ!」
「いや違う! それは絶対に違う! まずは命を守ろうぜ、兄弟!」
よく分からんノリで俺はみんなにそんな事を本気でお願いした。
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