第0070撃「メタ氏、ついに芝中を卒業する!!」の巻
平成4年1992年、3月、中学3年の3学期。
卒業式の日が、着々と迫っていました。
小生には、ひとつ不安がありました。
それは、女子の誰からも詰襟学ランの第二ボタンを
「ください!」と言われないのではないか、という
いささか虚しい妄想でした。
学年でも「モテない男子ワースト3」に入りそうな小生が、
一丁前にそんな人並みの妄想を抱くなど、
まことにおこがましい限りです。
それでも、卒業式など無ければいいのにと、
どこか憂鬱な気分に浸っていました。
そんな卒業式の数日前。
甲村(仮名)が、貴重な情報をこっそり教えてくれました。
小生をこれまで暴行してきていた
「財原(仮名)」「屋山(仮名)」「派口(仮名)」が連合し、
卒業式後の下校時に小生を拉致して、
集団リンチにかけるという計画がある、というのです。
それを聞かされてから、気が気ではなくなりました。
「そうだ、もう卒業式は休もう!」
そう決意すると、不思議と気持ちは楽になりました。
卒業式の前日。
校内の廊下で財原が近づいてきて、小生の肩に腕をまわし、
「おまえ、明日ちゃんと卒業式来いよ」と
嫌な笑みを浮かべました。
「わかった」
小生は、いかにも素直そうに返事をしました。
下校後、ひとりでいると、
我が家のインターホンが鳴りました。
玄関を開けると、
甲村と多坂、それに砂川(仮名)の三人が立っていました。
甲村は顔や肩など、血だらけでした。
玄関の外で話を聞くと、
淀川の河川敷の砂利道を原チャリ三人乗りで疾走していて、
転倒し、体がふっ飛んだというのです。
何事かと母が現れ、
「出血が大きいから、今すぐ病院へ行きなさい」と言って
三人を帰してしまいました。
気の毒やなあ、と感じつつも、
明日の卒業式、がんばれよ、と思いました。
そして、卒業の日。
小生は横になって音楽を聴きながら、
小脇に抱いた愛犬のぺるを撫でていました。
午前十時をまわるころ、
〈やっぱり出席しておいたほうがよかったかな〉
そんな思いが、ふと胸をよぎりました。
なんだか、自分ひとりだけ卒業しておらず、
これからもずっと、永遠に登下校しつづける日々しか
想像できないような気がしたのです。
小生は、いつのまにか眠りに落ちていました。
インターホンの音で目が覚めました。
昼の一時頃だったでしょうか。
玄関に立っていたのは、
顔じゅう包帯でぐるぐる巻き、
制服姿で卒業式を終えて帰ってきた甲村でした。
「今からボウリング行こうや!
オカンが連れてったるっていうからさ」
小生は顔を洗い、急いで着替えました。
玄関を飛び出し、甲村と階段を駆け下ります。
駐車場ではワゴン車で甲村の母君が待っていました。
「よう!」
車内には多坂も乗っていました。
まず連れていってくれたのは、バッティングセンターでした。
空振りばかりでしたが、たまにヒットを打つと
中学時代の嫌な記憶がスコーンと
遠くへ飛んでいくような気がしました。
ボウリングも慣れないスポーツで、
外側の溝に落ちることが多かったですが、
ストライクになったときの快感は、
なかなか得難いものでした。
最後に連れていってもらったのはカラオケでした。
それまであまり行く機会はありませんでしたが、
「それが大事」を歌うと、
堰を切ったように「格好悪いふられ方」、
そしてチャゲアスメドレーを
甲村とツインボーカルで熱唱しました。
多坂も米米クラブを歌い、
皆、こころゆくまで汗を出し切りました。
財原と屋山と派口は、
小生を見つけ出すまで、
ずっと永遠に登下校していればよいのです。
カラオケを終え、
心地よい疲れの小生たちを乗せたワゴンは、
自宅マンションの向かいにある
ローソンの駐車場に止まりました。
甲村の母君が、
からあげクンを各自一袋ずつ奢ってくれるというのです。
バッティングセンター、ボウリング、カラオケ、ローソン。
連れていってくれた甲村の母君には、
感謝でいっぱいでした。
ローソンのドリンクのガラス扉を開けたとき、
「ゆきみちゃん……」
レジに立っている、制服姿の
元橋ゆきみ(仮名)が目に入りました。
さらさらの長い髪を束ねたポニーテール。
ふと彼女の胸元に目がいき、
その中学生ばなれした大きさに、
思わず目を見はってしまいました。
この三年間、ほとんど言葉を交わさないあいだに、
彼女は少女から大人の女性へ、
着実に階段を昇っていたのだな。
そのとき彼女がふり返り、
小生に気づいて視線が合いました。
〈卒業、おめでとう〉
そう言いたかったのですが、
声に出せず、小生はよそを向いてしまいました。
帰宅して夕食を待っていると、
またインターホンが鳴りました。
下井先生(仮名)が、
卒業式に出席しなかった小生のため、
わざわざ卒業証書を届けに来てくださったのです。
「これからも苦しいことあるかもしれないけど、
しっかりがんばりなさい」
少し説教くさくなってきて、
そろそろ長いなと思ったところで、
「病気とかもたいへんやったけど、
よくがんばったね!
卒業、おめでとう」
その言葉を聞いた瞬間、
突然、目頭が熱くなりました。
「ほんとうにお世話になりました。
この子のためによくしてくれて、ありがとうございました」
隣にいた母のほうが、
深く頭を下げていました。
夕食は、母と祖母と小生とぺるで、
すき焼きを囲みました。
小皿に生卵をとき、
奮発して母が買ってきてくれた肉や野菜をいただきます。
〈おばあちゃん、食が細くなったなあ……
いっぱい食べてや〉
ぺるなどは、小生のお箸で肉を近づけると
「良し!」と言う前にパクッと食いつき、
くちゃくちゃと音を立てて
実に旨そうに口を動かすのでした。
夕食を終え、自室で横になり、
卒業証書の入った黒い円筒ケースを触っていると、
ぺるが近づいてきました。
小生はぺるに訊ねました。
「長い三年間やったよ。
なんだかんだ辛かったけど、
ハッピーエンドってことでいいよな?」
ぺるは小生の瞳を、じいっと見つめました。
「うん、なおくんは実によくやったと思うよ!
おめでとう!」
そう言ってくれているような気がしました。
と、突然、
ぺるが顔面に飛びついてきました。
そして、すき焼きの味が残る小生のたらこ唇を、
べろべろと舐めまわすのでした。
小生は、無条件降伏しました。
ぺるの好きなようにまかせました。
いつまでも。
いつまでも——
【完】
東京少年「プレゼント」(1992年)
YouTubeで視聴する https://youtu.be/5BBdNy3YbCw?si=UOw20c0kXGS0gMLf
大江千里「返信」(1992年)
YouTubeで視聴する https://youtu.be/5Up5T7vdP5o?si=zk0Wf_GuG-gdyVkW
読者の皆さま、
三年もの長いあいだご愛読くださいまして、
誠にありがとうございました。
少々盛りあがりに欠けた部分もあったかもしれませんが、
小生こと夢野直時の半生を、なるべく偽りなく書きました。
やっと終わったか、と思われましたか?
いえいえ、小生の生活は続きますよ。笑
いよいよ、第二部【高校篇】が始まります。
これからもご笑読いただけますと嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
続く。果てしなく続く……。
(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)
いつもお読みくださり、
無限の無限のありがとうございまする☆
ブックマーク(フォロー)していただけますと嬉しいです。
では、ご氣元よう‼️
( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )੭⁾⁾




