第0050撃「メタ氏、他の部活動の撮影を任される!!」の巻
平成3年1991年、7月、中学3年の1学期。
「今度の休みに、長居陸上競技場に陸上部とテニス部の試合を撮りにいくぞ!」
そう高らかに言い放ったのは、写真部顧問の出口先生(仮名)であります。
小生はその日、職員室に呼び出され、神妙な面持ちでこの指令を受けたのでした。
ついに来たか。
初任務であります。
緊張がのどの奥をせばめたものの、心の中では「うひょっ」と声が出るほどに、
ワクワクが止まりませんでした。
同じ部員の多坂(仮名)とは、以前から絶縁状態。
気まずさに胸を押さえつつ、もうひとりの同志・甲村(仮名)と連れだって、
日曜日の朝、地下鉄に乗り込み、長居駅を目指したのでした。
競技場に着いた瞬間、思わず口をあんぐり。
なんと広いことでしょう。
天井がないというだけで、空気が別物のように感じられるのであります。
と、そこへ見覚えのある連中がぞろぞろと。
緑谷(仮名)や囲見(仮名)たち芝中の陸上部男子が、青色の短パン姿で近づいてきました。
「おう、夢野、何しに来てんねん!」
いちおう写真部としての使命を伝えると、
「そうなんか。男前に撮っといてくれよ! 頼んだで!」
などと囲見は軽口を叩き、体操がてら去っていきました。
なんという気軽さ。羨ましいほどであります。
競技場では、いくつもの学校の生徒たちがせわしなく動いておりましたが、
意外にも観客席はスカスカでした。
小生たちは人目のない席に腰を下ろし、
バッグからおなじみの安物カメラを取り出しました。
しかしまあ、どうしたことでしょう。
いざ撮ろうとすると、なぜか集中力がわかず、頭の中はふわふわのまま。
そのせいか、小生がシャッターを切ったのは、
スタート前の緊張感に満ちた瞬間でもなければ、
爆走するフォームの美しさでもなく、
走り終えてポカンと立ち尽くす、彼らの間抜けな姿ばかりだったのです。
自分でも訳がわからぬまま、パシャ、パシャと、空白の記録を残していきました。
その後、出口先生に誘導されて、我々はテニスコートへと移動。
芝中のテニス部といえば、女子の天下であります。
華やかではあるものの、気分はむしろ照れくささのほうが勝り、
小生などは直視することすらおぼつかない有様。
一方の甲村はといえば、どこで習得したのかプロ顔負けの構えで、
手ブレもなく、女子たちにカメラを向けては確実にシャッターを切っていました。
そんな中、小生の視界に、ひときわ目を引く存在が。
彼女の名を知らず、甲村に訊ねてみたところ、
「ああ、白鳥やろ」
ほほう。白鳥さん。
なんとも詩的で、覚えやすいお名前であります。
その瞬間から、小生のレンズは完全にフリーズ。
カメラを構えることも忘れ、
白鳥(仮名)の仕草ひとつひとつに心を奪われ、ただただ見入っておりました。
やがて芝中の試合はすべて終了。
帰りの地下鉄に揺られながら、小生は思いました。
――本日の収穫、白鳥さんただ一名。
写真部員としての成果はゼロに等しく、
ただただ、青春の情動にやられた一日だったような気がします。
数日後の昼休み。
校内の運動場を甲村と歩いていたところ、
地面に一枚の白いハンカチが落ちておりました。
拾って見てみると、「白鳥」という刺繍が!
おお、白鳥やん!
これは……偶然か、それとも運命の罠か?
とにもかくにも、正当な理由を得た小生は、胸の高鳴りを抑えつつ、
白鳥の教室へと突撃したのでした。
教室の前に立ちふさがり、「落ちてたで」とハンカチを差し出すと、
彼女はなんともいえぬ渋い表情でそれを受け取り、
周囲の女子たちは「ひゃあ〜」と、気味の悪い悲鳴を上げたのであります。
放課後、小生は泡嶋駅前商店街にある『シヲヤ文具』へと立ち寄り、
マジックペンの試し書き用紙に――
白鳥美子
白鳥美子
白鳥美子……
……と、呪文のごとく書き連ねておりました。
なお、あのハンカチですが、
もしかすると甲村がこっそり白鳥のナップサックから拝借し、
あらかじめ運動場に放置し、小生を誘導したという、
そんな策略だったのでは……という疑念も起こります。
が、小生はそんなことは一切思いつきもせず、
「運命ってこういう形で現れるんやなあ」と、ひとり感心していたのでした。
その後、男子たちから「この前の写真、見せてくれよ」と言われましたが、
写っていたのはレース直後の放心した、ゆるんだ顔ばかり。
「実は、フィルム失敗して、なんにも写ってへんかったんや……」
と苦笑いしながら、
真相を胸にしまいこんだのは、言うまでもありません。
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大江千里「Do it」(1991年)
YouTubeで視聴する https://youtu.be/oDEynEbHvD4?si=chgMClzqbP1OW1K3
懐かCMを観る1991年⑧7月
YouTubeで視聴する https://youtu.be/pe5Ur5msBiE?si=wHr1oozT71dan5fv
続くよ。果てしなく続く……。
(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)
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