闇の記憶
「僕もいろいろ思い出したことがある」
金色の髪、優しい瞳の色。
「もともと妖魔の一族には、植物から養分を受け取ることのできる能力が備わっていた。死霊は闇玉の力と呪詛によって甦ったため、聖玉の白い光に当たることでしかその役目を終えることができなかった。そのため、何百年もさまよっていたんだと思う。翼からは羽毛が抜け落ち、血や肉は体には残っていなかった。ただ、北の森を棲家としたことで、最小限のエネルギーを森から得ていたんだ。呪詛のせいで体は目的もなく永らえていたけど、魂はとっくにその体から抜けていたんだよ。それとは別に、生きて永らえていた妖魔の一部はひっそり森の中で暮らしていた。代を重ねていったものの、ついに最期の一人になってしまった。それが僕をさらった妖魔だよ。彼は僕の体に闇玉を埋め込んだ。その昔、妖魔たちが城から追放された時に持って逃げた、欠けてしまった闇玉を」
「どうして、そんなことを?」
「異形化が進んだ妖魔たちには光玉の光は強すぎて近づくことができなかった。それで、人としての記憶が失われる前に、僕に妖魔の記憶の拠りどころとなる闇玉を埋め込んだんだ。巫女にも触れられる僕にね。たぶん……救いを求めてた。光の元に還りたかったんだ」
「……」
「妖魔の本当の最期の生き残りは、僕に彼の翼の一部をくれだ。痛みはなかった。闇玉の時もそうだったけど、そういう不思議な力を持っていた。接合部が癒え、翼が僕の意志で動かせるようになるまで時間がかかった。翼をくれてからしばらくして、彼は死んだ。死ぬ前に、彼は泣いている僕を見て言った。『お前は一人ではない』そう言って、僕の頭を撫で、僕からそれらの記憶を消した」
「どうして?」
「一人残されるより、はじめから一人の方が良かったんだろ」
「妖魔はなかなか死なないんでしょ?」
「妖魔も人間と同じ寿命だよ。ただ再生能力があるからなかなか死なないだけで、死期が近づくと、妖魔は自らその再生能力を封印する。死霊たちにはその意志がない抜け殻だから体だけがさまよっていた。でも、もう……気配が消えてる」
「……?」
「死霊たちは土に還ったみたいだ。聖玉の光が北の森を中心に降り注いだんだろうね」
アシュリータは安堵の気持ちに包まれた。
「君は、生きた妖魔を殺していない。だから、もう忘れていい」
彼が自分を解放しようとしているのがわかった。
そう思ったとたん、アシュリータには、今までとは全く別の感情が湧いていた。
「普通の人間に戻ることはできないの?」
彼は、眠ってしまったゴヴィに触れながら言った。
「体内の闇玉を取り出せば可能性はあるかもしれないが、今となっては、僕は魔族たちの哀しみを抱いて生きていこうと思う」
それは、残された眷族たちを見守っていこうとする彼の意志だった。
「これは、あなたが持っていて」
アシュリータは自分の聖玉を彼に差し出した。
「でも……」
「悪用されるわ。この世界にない方がいいのよ」
アルマンは黙ったまま、ゴヴィに触れていた。
「もう、時間だ」
彼がそう言うと、ゴヴィは立ち上がり木のうろから出て行った。
「君を送らないと」




