遠い記憶
その少し前のこと。
「来てくれたのか。ありがとう」
アルマンは、木によじ登ってうろの中に戻ってきたゴヴィの頭を撫でた。
そして、傍にいるアシュリータに向かって言った。
「すまない。あの神官の長はすでに息絶えていて、助けられなかった」
「でも、ヘイワードの命を救ってくれたんでしょ?」
アルマンはみんなの無事を確認し、それをアシュリータに告げていた。
「死にかけた彼を救い、剣の傷を癒したのは、たぶん、傍にいたもう一人の巫女だ。闇玉のかけらの力もあったのだと思う。破片は粉々になって、形をとどめていなかった」
(ファルサ……)
「闇石も消えてしまっていた。おそらく、妖魔の亡霊たちを天上へ導く光になったんだろう」
アルマンの言葉に、アシュリータは自分の持っていた聖玉を取り出した。
「あの闇石は、この聖玉の原石でもあったのでしょう?」
アルマンは頷いた。
「僕もそう思う。妖魔の封印のために長く使われたために暗黒の光を帯びてしまったけど、元は清浄な石だったんだよ」
「そう……」
二人は力を消耗していたので、しばらく巨木と同化していた。それがだんだん人間のものへと変化していく。ゴヴィは大人しく足元で待っている。
「これで君も自由だ」
「……」
二人の間に少し無言の時が流れた。
そして、アルマンが立ち上がろうとした時、アシュリータはそれをさえぎるかのように話だした。
「やっぱり、あなたと血の枯れた妖魔は別物だった」
アシュリータは地下崩壊の混乱の中、聖玉二つが引き合わされたことによって、妖魔と巫女の記憶のほとんどを受け取っていた。
「その昔、王族に仕えていた妖魔の祖先たちが闇玉の力を使って死体を蘇らせた。敵国の侵入を防ぐために。でも、気味悪がった王族たち、特に女性たちの声を受けて、死霊たちを北の森へ追いやり、眷族たちに見張らせた。北の森は他国にとって脅威となって、長らく他国からの侵入はなくなった。その後、内乱の犠牲で妖魔の祖先も北の森へ追いやれらた。そして、妖魔が死霊を使って復讐してくると思った王族側は、魔族狩りを始めた」
アルマンは黙って聞いていた。
「でも、わからないの。どうしてあなただったの?」
木に同化していた体の部分が人間のものになるにしたがい、アルマンの容姿は妖魔のものから普通の人間のものに変わった。




