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海が見える部屋  作者: 岸田龍庵
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13/28

4−1

 近藤春人は通された部屋で待っていた。



 コンクリート打ちっ放しの部屋は、壺や刀剣、掛け軸、仏像といった美術品があふれていた。当然、たくさんの絵画も壁に据えられていた。風景画、人物画、静物画、実にさまざまの絵画があった。

 近藤春人が通された部屋、そこは画廊(がろう)だった。

「おまたせ」黒のパンツスーツに身を包んだ外国人女性がトレーを片手に入ってきた。

 肩まである金髪に青い眼。肌はどこもかしこも白く透明で、手も足も長く、出るべきところはちゃんとでていて、ひっこむべきところは引っ込んでいる。

 絵に描いたような白人女性だった。



 女はこの店の主人だった。トレーにはカップが二客、ポットが一つ、なにやらパンのようなものが皿に盛られて乗っていた。

「日本にはティータイムがないのよね」外国人女性の口から流暢(りゅうちょう)な日本語が聞こえ、慣れた手つきでお茶を入れて行く。近藤は、その動作見ながら、外国にきたようだと思った。

「遠慮しないで座って下さい。お茶の相手がいると私もうれしいから」外国人女性はテーブルにお茶を置いて、鳥の脚の椅子に掛けた。近藤は馬の脚の椅子に掛けた。

 いつもの(くせ)だろうか、ひざの上にカバンを乗せて、抱えもってしまうのは。



 店の主人がクスクスと笑いをこぼす。



「何か・・・」

「日本のセールスマンはみんな同じポーズをする。膝の上にバッグを乗せて両手で持って」店の主人は近藤の真似をして見せた。

「それは日本のデントウなの。セールスマンの伝統なの?」

「いえ、それは・・」近藤思わず言葉に詰まった。

 外国人の質問に答えられなかったわけじゃない。

 見透かされている。自分が営業の人間だということ。

 それだけじゃない。この外国人は日本に慣れている。話が通じるどころではない。 近藤は正直「やりずらい」と思った。


 近出された紅茶をすすり、盛られたスコーンを口に運んだ。紅茶は熱いだけだった。スコーンは味がわからなかった。

 外国人女の視線が近藤に注がれる。見られている。初めて高級レストランで、ナイフやフォークを使って食事をしているような。気恥ずかしさがあった。

 微妙な沈黙が、美術品であふれた部屋に立ちこめる。



 近藤が見つけた画廊(がろう)は四谷にあった。その店は外国人の女性バイヤーが経営している画廊だった。

 嵐山京子が持ってきた情報を確かめに行くと、この店に沖田広海の夕陽の海の絵が飾られていた。

 絵が比較的簡単に見つかったのにも驚いたが、もっと驚いたのは、絵に付けられていた値段だった。

 値段は三百万。絵に(うと)い素人の近藤が見ても、とうてい考えられない値段の付け方だった。



 近藤は緊張していた。飛び込み営業をする時よりも緊張していた。

 近藤と嵐山京子の憶測が正しければ、この店の主人は沖田広海の絵を盗んだ人間だ。

 泥棒に盗んだ物を返してくれと頼みに来たようなもんだと、近藤は思った。

「それで、お話があるのよね」店の主人は言った。

「あの、表の絵のことですが」

「オモテ?」

「ああ、夕陽の海の絵」

「海の絵・・・」店の主人は少し考え込んだ。「ああ、ヒロミの絵ですね」そして明るい顔を見せた。


「えっ?」ヒロミ?

この女はなんで沖田広海の名を知っているんだ。


「あなた良い目している。ヒロミ・オキタの絵を長いこと捜していたの」店の主人はにっこり微笑んだ。

「沖田広海を知っているんですか」

「良くご存じ。最近ようやく手に入れたの。あなたあれを買いに来たのね。すごく目が良いわ、あなた。

 まったく日本人のお客と来たら、価値もわからないのに絵を買いに来て。私のところにも『バッハの絵をください』なんてお客が来たわ。バッハは画家じゃないの。音楽。そう、あの頃のお客はとってもいかがわしい。みんな同じ顔をしていました。

 絵の価値がわからないお客には絵を売らないの私は。絵だけじゃない。青磁も文学も音楽も価値のわかる人間がもつから輝くのよ。わかる?」

「わかります」近藤はそう答えるしかなかった。




「私はだからあのオキタの絵に、あのプライスをつけたの。そしてウインドーに飾ったのよ。ステキよ。毎日オキタの絵に目を止めて行く人間を見るのは」

「良くわかります」

「そう、わかって結構」バイヤーは満足そうに頷いた。

「いや、そうじゃなくて」



 ここからが本題だった。僕がこの店にわざわざ乗り込んだ目的だった。



「盗んだでしょ」僕の言葉に外国人女は目を大きく開いた。

「盗んだ?」店の主人の大きな青い目がさらに大きくなった。「私が?盗んだ?」

「ええ、あの絵は盗まれたものです」

「冗談。私は犯罪者じゃないのよ」

「僕はあの絵がなくなった時に現場にいたんです」僕はここぞとばかりにまくし立てた。

「僕はあの時に、沖田広海と一緒だったんです」

「オウ」外国人女はうろたえた。

「あなたは車から、あの絵を盗んだのでしょう。僕たちがちょっと車から離れたスキに、車ごと盗んだんでしょう」

 黙っていた。女は腕組みをしている。

「返してくれますね」僕は切り出した。ひざがガクガクしている。

「ノー」店の主人はきっぱりと言った。「答えはノー」

読了ありがとうございました。

まだ続きます

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