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9/16

その2

「これは……。賭けに出たな」

 昨日の雨が嘘のような夏晴れの元行われる大会8日目第3試合。オーダー発表に古川は衝撃を受けた。

「時間だ。行こう」

 神楽泰治。

「ああ。仕事の時間だ」

 勝田俊介かつたしゅんすけ

「よっしゃ、一丁暴れるかあ!」

 久坂主馬くさかしゅうま


 昇竜国際(東東京)―春堂(大阪)


 春堂にとって、正念場というべきこの試合に、彼らはあの1年生3人を最初から投入したのだ。

「今の状況で打てる手は打ちました。後は、勝利を祈るだけです」

 監督の呟きが、選手達の去ったベンチに小さく残った。


「ふうん。こりゃ面白え事になったな。ま、鈴木の勝ちだろうがな」

 満員のスタンドにまぎれて宮沢はこの試合を見ていた。直前の第2試合で相手校を7回無失点、13奪三振で切り捨てた<西の奪三振王>は、次の相手となるであろう昇竜国際、そして鈴木友雅を見に来ていた。


 1塁側アルプスの歓声が、聴覚を破壊せんとする勢いで甲子園中に響く。両者無得点のまま来た4回表、昇竜国際はノーアウトランナー2塁の状況で鈴木に打順を回す。

「くう……」

 神楽が小さく唸る。第1打席では何とか外野フライに抑えたが、後一歩でスタンドだった。

(気合を込めろ。ここだ!)

 捕手のサインは強気の内角。

「迷えば絶対に打たれる。ここは勝負だ! 行け!」

 神楽も当然、全力で投げ込む。ボールは鋭く内角へ食い込んだ。しかし、相手は甘くなかった。

「いい球だったが……。まだまだだな」

 白球がスタンドへ飛び込み、観客の歓声が球場を揺るがす。その中を贅肉のない、均整の取れた体を揺らして静かに回りながら、鈴木は呟いた。それは、正直な感想。実際、鋭く食い込んで来たあのボールは、チームの他の打者では打てなかっただろう。彼は、その後無言のままホームへとたどりついた。

「かあー。甘い甘い。あのコース、俺なら三振取れるぜ。つうか、かすらせもしねえ」

 スタンドに乱暴に座り、悪態をつく宮沢。その目は溢れんばかりの自信で輝いている。そこへ声をかける大柄な男が1人。

「ほう。あの鈴木相手に余裕だな」

「押本……!」

 宮沢が立ち上がり、2人が目を合わせる。一瞬、眼光が交わる。そして次の瞬間、両者が共に目をそらす。まさにライバル意識の衝突である。

「なぜ、ここに来た」

 先に声を発したのは宮沢。

「当たり前だ。勝ち進めば抽選によってはこのブロックの勝者と当たるからな。上に行くためには、今から手を抜くわけにはいかない」

 押本は冷静に切り返す。

「ほう。初戦であれだけ苦戦した奴の言葉とは思えねえな」

「俺が目指すのはもう、頂点しかないからな」

「そうか……。だったら、俺がお前を倒して止めてやるよ」

 宮沢の目が野獣のように光を放つ。

「なるほど。その宣戦布告、受けたぞ」

 そう言うと押本は背を向け、宮沢の前から去っていく。

「ち。乗せられちまったな」

 宮沢も再び、乱暴に椅子に座り込んだ。試合は5回裏まで進んでいた。

 5回裏の攻撃直前、春堂ベンチでは不穏な会話がささやかれていた。

「よくこらえたな」

「冗談じゃない。もう2、3点取られてもおかしくなかった」

 勝田の声に神楽がぼやくと、勝田は彼の肩を軽くたたいた。

「まあ、攻撃は任せろ。奴ら、意外と守備は穴だらけだ」

「ふん。俺が一発かませば良いだけよ」

 久坂も割って入る。春堂の反攻は、水面下で既に始まっていた。

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