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その2 伏兵の力、彼らの真実

 宮沢の衝撃。それは確かに甲子園を震撼させた。しかし、時は移ろい、過ぎていく。そして古川もまた、他へ目を向けて行く。

「あの大阪を制した伏兵、春堂高。それに一役買ったという1年生3人。果たしてどれだけの力を持っているのか……」

 大会3日目第3試合

 春堂(大阪)―知覧誠兵舎(鹿児島)

 地元代表の登場とあって、甲子園は当たり前のように満員となっていた。当然古川も記者席にいた。

「やはり、まだまだだったか」

 試合開始直前、スタメンオーダーを見て古川はうなずいた。春堂の1年生3人の内、先発はセカンドの勝田のみだった。

 この勝田という男、府大会でも早くからスタメンに入り、決勝のGL学院戦ではだめ押しのタイムリーを放っている。こうして見た限りでは、守備も良いようだ。それと比べると、他の2人はもうひとつだと彼は思っていた。


 4回表、いまだ両チーム共に無得点。1死2塁の状況で6番の勝田に打順が回る。彼の鋭い目は、相手守備陣をまっすぐ見詰めていた。

「あそこだな。さて、『仕事』の時間だ」

 彼はあるポイントを見、決断した。後は打つだけである。そして……、

「勝田打った! 三遊間を抜ける! ランナー帰ってホームイン。春堂高先制!」

 彼にはそれを遂行するだけの力がある。

「あれは、狙ったようだな」

 鮮やかな手並みの巧打に古川も驚きを隠せない。しかし、当の本人はセカンドベースで表情も変えずにたたずんでいた。

 結局この回、春堂はさらに1点を追加した。彼らは確実に伏兵の力を見せつけていた。だが……、

「何故だ? 俺の勘がこのままでは終わらないと言っている」

 古川に悪い予感がよぎり、彼は顔をしかめた。

「そろそろかな」

「はい」

 ベンチで交わされる意味深長なささやき。謎に包まれた知覧の作戦が、この試合に混迷をもたらそうとしていた。

 そして、そのまま迎えた6回裏、知覧の作戦がついにその威力を発揮する。

「ヒット、ヒットです。知覧誠兵舎、同点に追いつき、なおもワンアウトランナー2、3塁。連打が止まりません」

 3塁側アルプスが盛り上がり、球場の空気がにわかに変わる。

「監督、これは一体?」

 キャプテンの吉永が問う。春堂ベンチもさすがに動揺は隠せない。控え選手達も立ち上がり、心配そうにグラウンドを見つめている。

「やられましたね……。私のミスです」

 監督が呟く。彼は気づいていた。マウンドに立つ3年生エース、香川の投球数が、無失点にしては異様に多いことに。しかし今は、采配のミスをどうこう言っている場合ではない。事態を止める最良の決断が必要なのだ。

「仕方ありません。神楽君、行ってください」

 彼は決断し、ベンチの奥に声をかけた。

「ピッチャーの交代をお知らせします……」

 アナウンスと共にマウンドに降り立つは背番号10。

「ついに出てきたか。1年生2人目、神楽泰治かぐらやすはる

 記者席から古川も身を乗り出す。府大会でも神楽の登板はあまりなく、データが少ない。そしてその体は普通の高校生よりも小さい。果たして彼にこの場面をしのげるだけの力があるのか。古川はそれが知りたかった。

「行こう。まずはこれだ」

 捕手のサインに答えての神楽の1球目はカーブ。それは外角低めギリギリに見事に決まった。しかもミットを動かすことなく。

「これは……、このコントロールは予想外だ」

 古川、そして知覧の監督が認識を改める。

(今の内に揺らす。これで行け)

 知覧ベンチから、サインが飛ぶ。そして、それは見事に遂行された。

「しまった!」

 神楽が焦る。放たれたのは絶妙な位置へのセーフティースクイズ。彼も、そして、球場の誰もが予期していなかった。しかし、反応した者は、いた。

「任せろ」

 影が走り、球を捕る。そして影は冷静に球を投げ、1塁を仕留める。自身の守備位置、セカンドから突っ込んだ勝田だった。

「すまん……」

「この状況ならアウトが先だ。逆転は仕方ない。だが、後は抑えろ」

 きっぱりとした言葉が、神楽を引き締めた。

 白球が1塁線を駆け抜け、ランナーが両手を上げてホームを踏む。

「これで同点だな」

 後続を神楽が仕留めて迎えた7回、再び勝田はその力を発揮し、同点タイムリーを放つ。

「これで2打点。さっきの守備といい、彼の力は本物だな」

 古川も彼を認める。そして……


 12345678T

春000200136

知0000030 3


「これで終わりだ!」

 8回表、言葉と共に抜群の手応えで捕らえられた打球は高々と上がり、ライトスタンドへ消えていく。相手投手はガックリと肩を落とす。観客もその放物線に息を呑む。

「これは驚きました! 代打の1年生久坂、特大のスリーランで一気に試合をひっくり返してしまいました!」

 止まることのない大歓声の中、その立役者は自信満々にベースを回り終えると、ベンチ前でヘルメットを外し、言い放つ。

「神楽、後はてめえの仕事だ」

「そうだな」

 神楽の表情はどこと無く満足げだった。

「ゲームセット!」

 9回裏を神楽がきっちり3人で終えた直後、古川は記者席で一心不乱に記事を書いていた。

「勝田も、神楽も、そして久坂も、間違いなく本物。今伝えなければ……」

 彼は焦っていた。春堂の次の相手は「あの」昇竜国際。正直な話、次も勝てると断言はできない。だからこそ、今、書くのだ。

「春堂か。面白い相手になりそうだ」

 その昇竜国際の誇るスラッガー、鈴木友雅が、スタンドでほくそ笑んでいたことなど、彼には知る由も無かった。






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