64. 清州入城
NAISHEIは例のごとく丸投げしました。
流通関連の話はざっくりしているので、細かいツッコミはご遠慮ください…
戦後、俺は那古野城に戻らなかった。
やることが山積みで帰れなかった、というのが正しい。
城内の乱れっぷりに、まともに政務を行っていたのか疑わしくなる。それだけではない。各村への通達や、新たに所領を任せる武将の配備などに時間がかかった。豪華すぎる広間に慣れない家臣たちはそわそわと落ち着きがない。
一度で片付かず、二度も評定を行うハメになった。
先に述べたように、尾張国は二つの織田家で上下に二分されている。俺たちの弾正忠家は、下四郡を治める清州織田家(大和守)の更に下だったのだ。親父の代でその差はほぼ埋まっていた。
そんなわけで、清州織田家の乗っ取りに成功。
斯波義銀様の後見役を務めつつ、岩倉織田家との交渉を始めた。当主の信安は友好関係にあるというから安心していたのに、うつけと仲良くした覚えはないという。
「おいおい、話が違うじゃねえか」
書状をポイッと投げた。
長秀が拾い上げて、ざっと目を通す。
難しい顔なのは、話し合いで解決しないと分かった以上は戦も視野にいれなければならないからだ。この数年で4回も戦をしている。新たな守護職となった義銀への上納金などもあり、新たに臣下へ加わった者たちへの給料も払わねばならず、勘定方から逃げ回っている。
算盤の小型化で、特許とればよかったのか。
どうぞどうぞと気前よく配りまくったせいで、材料費が浮いた程度で終わった。信盛の可哀想なものを見る目の意味が今頃分かっても仕方ない。
「様子を見ることにいたしますか?」
「だな。一益たちには悪いが、休む間もないなあ」
各地へ送り込んだ間諜は24時間体制が基本だ。
見つかれば死が待っているし、戦で功績を上げるよりも地味な仕事だから給料も少ない。厳しい修行に耐えて、鬼のような上司に死ぬまでこき使われるとか、どこのブラック企業か。
有限会社ODA清州支部、なんかいいな。
「殿」
「おう、すまん。ともあれ、信行派の抑えご苦労だった」
「労っていただくほどのことでは。某の力及ばず……わずかに時を引き延ばしただけかと存じます」
「結束は固いか」
長秀が深々と頷く。
うおー、頭が痛いなチクショウめ!
信行はなんとか話を聞いてくれるようになったが、オッサン連中は頭が固くてダメだ。若者に絶賛人気の俺は、中高年に不人気ということだろうか。
逆らう奴はミナゴロシとか言いたくないんだが。
俺は撲殺天使でも、殺戮魔王でもない。
そこへ侍従が来客を知らせにきた。
「殿、村井様がお見えです」
「げ」
とうとう乗り込んできた。
いや、清州城を新たな拠点にするのだ。側近たちが移動してくるのは当然である。たちまち顔を引きつらせる俺に、あの無機質な声が突き刺さる。
「詳しく説明しなくても、ご理解いただけているようで何よりです」
「吉兵衛、初っ端から嫌味攻撃とかやめれ」
「お久しぶりでございます」
「どこ向いて挨拶してんだよ。俺はこっちだろ」
「これは失礼。殿は、この顔など見たくないかと思っておりました」
しれっと答える貞勝。
確かに一度厳しく怒られてからは、金銭関係でビクビクしていたこともあった。
俺自身が出陣しなければならない戦が立て続けに起きたのもある。収入はほとんどないのに、支出はかさむ一方だ。コメを臨時徴収するのも、非常に心が痛む。気が進まない。
水田開発が進んで収穫量が増えたからといって、備蓄はもともと少ないのだ。
「やばい、眩暈がしてきた」
「殿!?」
「お休みになられる前に、一つ提案がございます」
「ん」
「どうぞ、津島の商人たちを掌握なさいませ。先代様の頃より、この尾張を支えてきたのは彼らでございます。商人たちの繋がりは国境を越えるのです。殿の発明品を売り払い、たっぷり儲けたでしょうから」
そこまで聞いて俺は「ん?」と首を傾げた。
「おい、おいコラ待て。国外に出ているのか?」
「人の口に戸は立てられませぬ」
「いや、止めろよ。流出させたら商品価値が下がんだろっ」
「殿は『俺が考案したわけじゃないし、そんなん別にいい』とおっしゃいました」
「うぐぐ」
ああ言えばこう言う。
サイボーグ吉兵衛は今日も絶好調である。
確かに俺もそんなことを言った覚えがあるし、現代で当たり前だったものを、自分の発明であるとは言えない。誰よりも俺自身が嘘っぱちだと分かっているし、恥ずかしくて外を歩けなくなる。
特許もダメだ。信長印とか出てみろ。その道具を俺が扱えなくなる。
「規制緩和とかすればいいだろ。商人たちのネットワークで、独自管理しているから流通が制御されるんだ。誰でも国内外へ出入りできて、自由市場を広げ、て……」
「殿?」
「ああ、楽市楽座か」
「妙案だとは思いますが、良策とは言い難いですな。商人に限り出入り自由としても、これを利用して悪事を働く者が出てまいります。売買の自由化も、今まで築いてきた繋がりを破壊しかねません。問屋の商人たちが黙っておりますまい」
俺はへの字口になった。
ネットワーク限定で商売していたら、限定的な売買しか行えない。この時代は国ごとに通貨をはじめとする単位や法律が定められ、誤差どころではない違いがある。だから商人たちは自分たちを守るために結束した。
彼らだけのルールを作り、彼らが安全に商売できる方法を生み出した。
その結果、身分的には最も低いはずの商人が武家よりも威張れる時代がやってくる。世の中をを動かすのは金だ。義理や人情で腹は膨れない。だが金は食べられない。
一番貧しい村では、食べ物こそが何よりも勝る価値を持つ。
「五郎左」
「はっ」
「女子会してくる」
「は?!」
「ダメか。それなら豪遊し」
「問題外です」
固まっている長秀の代わりに、貞勝がストップをかけてきた。
「俺が直接行って、話してきた方が早いだろうが! なんで止めんだよっ」
「女装を好まれるのはかまいません。信秀様もかなりの艶福家でありました。女遊びをなさりたいのでしたら、まず側室をお迎えください」
「……もういい」
どこからツッコミすればいいのか分からない。
嫁には女装を見られるし、貞勝には女装趣味だと思われるし、女が好きじゃないとは言わないが、女なら誰でもいいってわけじゃない。頑張っているだけでは授からないのだ。
俺のせいで、本来あるべき種がないのかと不安になる。
だが打撃を受けたのは一度きりだしな。それも幼い妹の無意識無自覚の行動だ。あれでダメになったのだとしたら、その後のめくるめく時間が説明できなくなる。
「最悪、弟たちの誰かを後継にすればいいだろ。親父殿の血は引いているんだから、何も問題は」
「大有りです!!」
「うお、びっくりした」
喧嘩仲裁のための怒鳴り声じゃない。
俺に向けられた大声は、きっと初めてだ。
「某は、殿の御子以外を次代様として認める気はございませぬ!」
「もう俺、ハタチすぎてんだぜ? 今生まれても、俺50歳で息子は20代。後を頼むには、ちょっと不安が残るじゃねえか」
「殿は18で家督を継がれましたぞ」
確かに平均寿命が短いため、家督相続の平均年齢も20歳前後が多い。
40歳すぎても当主の座を退かない場合もあるが、それはそうなる理由ありきである。俺は早めに楽隠居したい。幸いにして、有能な弟たちが揃っている。どうあっても歴史通りに進むのだから、最強織田軍団の結成も約束されている。
「ほら、何も問題ない」
「ご無礼ながら、殿は内容を大幅に省略されたため、我らが理解の外でございます」
「であるか」
長秀の気持ちは嬉しい。
それは親父殿に忠誠を誓っていた家老たちにも言えることだ。そして世代交代と同時に、存在していた結束が崩れた。生まれてくる子供に俺のような苦しみを与えたいと思うものか。
兄貴は庶子だから除外され、俺はうつけだから期待外れ。
次に生まれた信行に過剰な期待が寄せられた。折れやすい秀才に育ったのも、周囲の重圧にさらされ続けてきたせいだと思っている。親父殿が嫡男だけを可愛がり、あからさまに特別扱いしていたなら家臣たちの反発はもっと大きかった。
「とにかく、だ。先のことは先送りにする。今は清州城を那古野城以上に、住みやすい場所にするのが最優先だ」
「そのことですが、那古野城は誰に任せることにいたしますか?」
「兄貴」
「…………」
「最初から移住するつもりだったみたいだしな。城主を兄貴にして、信光叔父貴を後見役にすれば問題ないだろう。他の弟たちも希望次第で残ってもいい」
清州は那古野村から遠い。
ちょっと通えない距離だから、村を優先するなら残る選択肢もあるのだ。
その辺は本人たちの意志に任せるつもりだった。さっきの発言と矛盾するかもしれないが、もう10を数える年頃なら、自分がどうしたいかも判断できる。
ちなみに予想に反して、三十郎を除く全員が清州城へ移ってきた。
三十郎は、拗ねていた。
なんでも俺の依頼に浮かれすぎて落馬し、文を届けることもできずに寝込んでいたらしい。出木杉君も失敗することがあるのだと、ほっこりした。
女子会...三人娘?で仲良く遊ぶ
豪遊...嫁を連れて、ぱーっと豪勢に遊ぶ




