余韻
「見事、まさに期待に違わぬ戦いぶりじゃったぞ、お若いの」
誰もいないはずの町。
その中央付近にある雑貨屋跡の二階窓から、バルタとスカルモールドの戦いを一部始終見続けていたのは、件の町の老人だった。
焼け焦げた馬を駆り、破壊された剣を携えたスカルモールドが町を抜け、さらにその先、ユグドラシルの根元へと向かう後姿を、老人はさも愉快そうに眺め続けていた。
「これにて全ての実証は成った。あのお若いのには感謝をしても感謝しきれんのぉ」
スカルモールドはもはや小さな砂塵と化して見える。
「あとはわしの番じゃな。待っていろよ性悪女め、積年の恨みを晴らす時はもうすぐじゃて」
老人は今にもはしゃぎ回りたいような心持ちだった。
長年にわたって練り上げてきた復讐の計画がその実現性を実証された今、大袈裟ではなく、踊りだしたいほどの喜びを老人にもたらしていた。
だが、突然老人の笑顔は曇った。
遠ざかる砂塵と交差するように、新たな砂塵が町へと向かってくる。
それはまるで一陣の風の如く、瞬く間に町の側まで接近していた。
不思議なことに、その姿は日の落ちた大地にあっても、はっきりと確認できた。
スカルモールドとは微妙に違う甲冑の装飾。
葦毛ではなく、全身をくまなく白い毛に覆われた馬。
針のようにまっすぐ伸びた銀髪は、まるで風を切り裂いているように見える。
「…レギンレイヴル」
新たに現れたヴァルキュリアをそう呼ぶと、老人は震える手で窓枠を鷲掴み、その瞳を業火のような怒りで染めた。
「今はいくがいい。だがな、レギンレイヴル。次に貴様に会う時は、その時は貴様の全てを焼き尽くす時じゃ。灰も残さん。全てを、貴様の全てを必ず…」
全身を怒りに震わせる老人の存在を知ってか知らずか、白馬は血のように赤い眼を空に投げかけると、けたたましく一声いなないた。
拙い小説に長々とお付き合いいただき、真に有難うございます。
恥ずかしくも、現在続編を執筆しようかと思案しております。あつかましくはありますが、ご意見、ご感想などいただければ、今後の励みとなりますので、よろしければ何卒お願いいたします。