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紅炎戦記  作者: えみり
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色の違い

訓練場・夕暮れ。


空は薄橙。


グレイスとセラフィナが向かい合って立っている。


呼び出したのはリシェルだ。


「二人とも、ちょっといい?」


珍しく真剣な声。


セラフィナが腕を組む。


「何かあったの?」


グレイスも首を傾げる。


リシェルは一歩前へ出る。


「共鳴してるわよ、あなたたち」


沈黙。


セラフィナの眉がわずかに動く。


「何の話?」


リシェルは水晶を掲げる。


戦闘記録の魔力波形が浮かぶ。


氷と炎の振動。


距離が離れた瞬間、炎が落ちる。


近づいた瞬間、密度が上がる。


「これ、偶然じゃない」


グレイスが真面目な顔になる。


「……つまり?」


「あなたが第三覚醒に届いた時、

セラフィナの強さは“戻る”可能性がある」


セラフィナの瞳が揺れる。


「戻る?」


「完全復元。条件付きだけど」


静かな風が吹く。


「距離が離れると解除。

感情が乱れると不安定」


はっきりと言う。


「鍵は――あなたたちの感情」


その言葉に。


セラフィナの炎がわずかに揺れる。


「感情で戦力が変わるなんて……」


「変わってるの。もう」


リシェルはセラフィナを見る。


真っ直ぐ。


「あなた、あの時怖かったでしょ」


ゼノ戦。


氷の世界。


死にかけた瞬間。


セラフィナは目を伏せる。


否定しない。


次にグレイスを見る。


「あなたはどう?」


グレイスは少し考える。


そして言う。


「……守りたいと思った」


迷いのない声。


「誰よりも」


その一言。


セラフィナの鼓動が跳ねる。


炎が一瞬、深くなる。


リシェルはそれを見逃さない。


「ほら」


小さく笑う。


「もう証明終わってる」


沈黙。


セラフィナは何か言おうとする。


言葉が出ない。


代わりに、視線が揺れる。


グレイスを見る。


逸らす。


また見る。


その不器用さ。


その揺れ。


その炎の色。


リシェルは理解する。


(ああ……)


この二人は。


もう。


色が混ざり始めている。


氷の青と、炎の赤。


ぶつかるのではなく、


溶け合って、白い蒸気になる。


自分の水は。


そこには入れない。


入れば濁る。


美しい均衡が崩れる。


胸が少し痛む。


それでも。


目を逸らさない。


「安心しなさい、セラフィナ」


静かに言う。


「それ、弱さじゃない」


セラフィナがゆっくり顔を上げる。


「……弱くない?」


「むしろ逆」


リシェルは微笑む。


少しだけ寂しそうに。


「あなたたち、並んだ時が一番強い」


グレイスが困ったように言う。


「俺はまだ第三覚醒なんて――」


「届くわよ」


断言。


「あなたなら」


その声に嘘はない。


本心だ。


だからこそ。


少しだけ、区切りをつける。


リシェルは背を向ける。


「私は理論屋だから」


軽く笑う。


「戦力分析しただけ。勘違いしないで」


本当は違う。


でも、それでいい。


夕陽が沈む。


氷と炎が並ぶ。


二人の色が、静かに溶ける。


リシェルは歩きながら小さく呟く。


「綺麗ね……」


その声は誰にも届かない。


水面のように揺れた感情は、


静かに、自分の内側へ沈めた。


まだ完全に諦めたわけじゃない。


でも。


一歩、引いた。


理論派の少女は、感情を整理した。


嵐は近い。


だが今は。


三人はまだ、同じ空の下にいる。

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