王は嗤う
西の自然王国。
雷鳴が遠くで鳴る。
玉座の間。
巨大な根が床を這い、柱に絡みつく。
紫雷が静かに走る。
玉座に座る男。
――テンペスト・グラード。
圧倒的な存在感。
190を超える体躯。
紫雷の鎧が薄く揺らめいている。
その前に、黒衣が片膝をつく。
「報告だ、ゼノ」
低く、重い声。
ゼノは顔を上げない。
「東王都防衛戦、測定完了」
「セラフィナは?」
「第三覚醒は封印状態。出力は全盛の半分以下」
テンペストの口角がわずかに上がる。
「……弱ったか」
だがゼノは続ける。
「だが、問題は別にある」
空気が僅かに張り詰める。
「ほう」
「氷属性の少年。第二覚醒段階と推定」
「推定?」
「戦闘中、瞬間的に第三覚醒域へ到達」
玉座の間に沈黙が落ちる。
雷が一度、強く鳴る。
テンペストの目が細まる。
「到達、だと?」
「完成ではない。暴発。制御不能」
「それでも」
ゼノは淡々と告げる。
「将来的に、王に届く可能性あり」
紫雷が一瞬強く走る。
空気が震える。
「名は」
「グレイス。姓なし。戦争孤児」
テンペストは背もたれに深く身を預ける。
しばし沈黙。
そして、低く笑う。
「面白い」
怒りではない。
歓喜でもない。
純粋な興味。
「未完成の第三覚醒か」
指先に紫雷が集まる。
「芽は早いうちに摘むべきか」
ゼノは答えない。
判断は王のもの。
テンペストはゆっくり立ち上がる。
その瞬間、玉座の間の空気が重く沈む。
「いや」
雷が弾ける。
「育てろ」
ゼノが僅かに目を動かす。
「育て、極限まで追い込み、そして叩き潰す」
笑う。
それは王の愉悦。
「弱体化した紅炎と、未完成の氷」
「同時に潰せば、東は折れる」
雷と植物の魔力が絡み合う。
玉座の根が震える。
「次は俺が出る」
静かに告げられる死刑宣告。
ゼノは深く頭を下げる。
「御意」
テンペストは空を見上げる。
東の空を。
「来い、氷の少年」
「王の領域を、見せてやる」
紫雷が轟いた。
戦争は、次の段階へ進む。




