風の葬列
空は澄んでいた。
あまりにも、穏やかすぎる青。
街外れの高台に、簡易の葬送台が並ぶ。
上級兵たち。
そして――レオル・ヴァルカ。
若手兵は整列している。
包帯だらけの者。
腕を吊った者。
立っているだけで限界の者。
教官が前に出る。
「彼らは、街を守った」
短い言葉。
飾らない。
「その事実は、変わらない」
風が吹く。
白布が揺れる。
セラフィナは列の端に立っている。
炎は静かだ。
もう空を焦がさない。
ただ、灯っている。
視線は前。
だがその横。
グレイスは、いない。
少し離れた場所。
一本の木の下。
彼は座っている。
膝を抱えたまま。
式の声は、届いているはずなのに。
耳に入っていないような顔。
リシェルは式の列にいた。
目は赤い。
だが昨日ほど崩れてはいない。
何度も涙を流した顔だ。
彼女はそっと列を抜ける。
ゆっくりと、グレイスの方へ歩く。
隣に座る。
しばらく、何も言わない。
風の音だけ。
「……ねぇ」
小さな声。
反応はない。
「レオル、最後まで笑ってたよ」
沈黙。
「かっこ悪いとか言ってたけど」
喉が詰まる。
それでも続ける。
「私たち、守れたんだよ」
震える声。
「レオルも、グレイスも」
グレイスの瞳が、わずかに動く。
ほんの少し。
「守れなかった」
かすれた声。
ようやく、音が出る。
リシェルは強く首を振る。
「全部は守れない」
涙が滲む。
「でも、全部失ったわけじゃない」
拳を握る。
「私は生きてる」
言い切る。
「街も、生きてる」
グレイスは何も言わない。
リシェルは、少し迷う。
それから、そっと手を伸ばす。
彼の手に触れる。
冷たい。
「……いなくならないで」
それは、願いだった。
強気でも理論でもない。
ただの、本音。
「私まで置いてかないで」
グレイスの呼吸が、わずかに揺れる。
胸の奥で、何かが痛む。
完全な空白に、小さなヒビ。
遠くで、風送の炎が上がる。
兵士たちの魂を送る火。
セラフィナが静かに炎を添える。
強くはない。
だが、確かに燃えている。
グレイスの指が、ほんのわずかに動く。
リシェルの手を、握り返す。
弱い力。
それでも、確かに。
リシェルの涙が落ちる。
今度は、静かな涙。
「……ばか」
小さく笑う。
グレイスは空を見上げる。
まだ、痛い。
まだ、重い。
まだ、何も戻っていない。
それでも。
完全な無音ではなくなった。
風が吹く。
どこかで、誰かが笑った気がした。




