代償
紫雷が都市を裂いていた。
空を覆う巨大な雷樹。
枝は空間を圧し、根は地を割る。
自然王テンペスト・グラード。
第三覚醒《雷樹天臨》。
その中心へ、紅蓮が踏み込む。
セラフィナ・インフェルナ。
炎が夜を昼に変える。
「王都を二つに割った。愚策だな」
テンペストの声は低い。
「右腕は若芽を刈る」
セラフィナは答えない。
炎を圧縮する。
空気が震える。
「あなたは、ここで止める」
衝突。
雷と炎が真正面からぶつかる。
衝撃波が都市外縁を吹き飛ばす。
テンペストの紫雷鎧が強化される。
雷蔓が無数に伸びる。
セラフィナは炎で焼き切る。
だが一本、肩を貫く。
血が散る。
炎が揺らぐ。
セラフィナは踏み込む。
炎を一点へ。
限界を越えた圧縮。
魔力循環を無視した強制出力。
テンペストの腹部へ紅蓮の槍。
肉が焼け、雷鎧が軋む。
王が笑う。
「良い」
紫雷が収束する。
直撃。
胸部へ雷撃。
骨が軋む。
内側から焼かれる感覚。
だがセラフィナは退かない。
「終わらせる」
炎が爆ぜる。
雷樹と正面衝突。
世界が白に染まる。
轟音。
次の瞬間。
テンペストの右腕が弾け飛ぶ。
紫雷鎧が完全に崩壊。
胸部に深い焼損。
王が膝をつく。
同時に――
セラフィナの炎が砕けた。
胸部に受けた雷撃が、魔力循環の中枢を焼いていた。
視界が揺れる。
炎が一瞬、完全に消える。
地面に膝をつく。
互いに満身創痍。
静寂。
テンペストが立ち上がる。
右腕は再生しない。
焦げ、失われたまま。
それでも立つ。
「相打ち、か」
セラフィナはゆっくりと立ち上がる。
炎は灯っている。
だが、弱い。
明らかに密度が落ちている。
それでも王の眼は揺れない。
「退きなさい」
テンペストは数秒見つめる。
そして笑う。
「次は、貴様が先に折れる」
空間が裂ける。
自然王は退いた。
勝利。
都市は守られた。
だが。
セラフィナが一歩踏み出した瞬間、身体が崩れる。
膝をつく。
呼吸が浅い。
体内の魔力循環が歪んでいる。
第三覚醒へ至る回路が焼損。
無理に限界圧縮を行った反動。
――第三覚醒、使用不能。
炎を高めようとする。
応えない。
最大出力、半減。
それでも立ち上がる。
王は倒れない。
だが確実に、削られている。
遠くを見る。
王都方面の空は、静かだった。
風が吹く。
炎が揺れる。
弱く。
それでも、消えない。
セラフィナは王都へ向けて歩き出す。
何も知らずに。




