炎の重さ
夜。
王都アグニス。
任務から三日後。
街は平穏を取り戻していた。
だが、焦土林で失われた命は戻らない。
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城の最上階。
バルコニーに一人立つ影。
月光に照らされる銀髪。
セラフィナ。
鎧は着けていない。
簡素な黒の衣。
風が静かに揺らす。
彼女の背には、薄く浮かぶ炎紋様。
普段は抑えられているそれが、淡く揺れている。
不安定だ。
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「……来ると思った」
振り向かずに言う。
背後。
足音。
グレイス。
「気配で分かるのか」
「あなたは隠す気がない」
少しだけ、柔らかい声。
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沈黙。
街の灯り。
遠くの鐘の音。
グレイスが口を開く。
「二人、死んだ」
事実だけを言う。
責めない。
だが逃げない。
セラフィナの瞳が揺れる。
ほんの僅か。
「知っている」
短い。
だが声が、少し低い。
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「お前は……」
グレイスが言葉を選ぶ。
「空の上にいた」
責めていない。
確認だ。
セラフィナは月を見る。
「私は、あの大樹を落とさなければならなかった」
「分かってる」
即答。
だからこそ苦しい。
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「私は、迷わない」
彼女は言う。
「守ると決めたら、切り捨てる」
一瞬。
言葉が止まる。
炎紋様がわずかに赤を強める。
「……そうでなければ、国は守れない」
それは信念。
だが同時に。
自分に言い聞かせている。
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グレイスが月を見る。
「俺はまだ、選べない」
正直な言葉。
「全部守りたいと思う」
子供じみている。
理想論だ。
セラフィナは小さく息を吐く。
「愚かね」
即答。
だが。
「……嫌いではない」
小さすぎる声。
ほとんど風に消える。
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グレイスが少し驚く。
「今、なんて」
「何も言っていない」
即座に否定。
視線を逸らす。
分かりやすい。
普段なら絶対に見せない隙。
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沈黙。
やがてセラフィナが言う。
「あなた、触れたでしょう」
「……何に」
「第二覚醒の扉」
核心。
見抜いている。
グレイスは目を見開く。
「分かるのか」
「炎は、変化に敏感」
少しだけ口元が緩む。
「あなたの氷、重くなった」
嬉しそうではない。
だが確実に。
期待している。
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「焦らないこと」
彼女が近づく。
距離が縮まる。
近い。
「第二覚醒は力の増幅ではない」
月光が紅瞳に宿る。
「“質”の変化」
そっと、指先がグレイスの胸元に触れる。
心臓の上。
「核を感じなさい」
鼓動が速くなる。
グレイスのではなく。
ほんの一瞬、彼女のほうが。
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気づいたのか。
セラフィナが僅かに眉を寄せる。
離れる。
「……変な顔をするな」
「してない」
「している」
少し拗ねたような声。
象徴ではない。
十七歳の少女。
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「あなたは強くなる」
真っ直ぐに言う。
「だが、私に追いつこうとするな」
命令。
のはず。
だが。
「隣に立ちなさい」
言った瞬間。
自分で言葉に驚いた顔をする。
すぐに背を向ける。
「……以上」
耳がわずかに赤い。
分かりやすい。
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グレイスが小さく笑う。
「命令か」
「そうよ」
「分かった」
即答。
セラフィナが一瞬振り向く。
期待していなかった顔。
「何が」
「隣に立つ」
迷いがない。
炎紋様が微かに揺れる。
今度は、安定した赤。
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「……勝手にしなさい」
だが声は、柔らかい。
月の下。
二人の距離は、確実に縮まっていた




