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紅炎戦記  作者: えみり


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24/71

芽吹く風氷、炎は遠く

東方辺境・焦土林。


テンペストが遺したもの。


それは“残党”などではなかった。


大地に根を張る巨大な魔樹。


雷を孕む幹は塔のように空を裂き、枝は空を覆い、蔓は生き物のように蠢く。


副隊長が呟く。


「……あれが、相手か」


セラフィナは前に出る。


紅の瞳が細まる。


「これはあなたたちの領分ではない」


炎が静かに立ち上がる。


空気が震える。


「私はあれを抑える」


振り返らない。


仲間を見ない。


完全に“最強”の顔。


「残党処理は任せる」


それだけ言って、跳んだ。


紅炎が空を裂く。


次の瞬間、空の上で炎と雷が衝突する。


衝撃波。


森が揺れる。


まるで別の戦争。



地上。


残されたのは――


グレイス

レオル

リシェル

そして東方兵士七名。


若い兵士の一人が震える。


「隊長殿がいない……」


副隊長が叫ぶ。


「陣形維持! 俺たちの仕事をしろ!」


その瞬間。


地面が割れる。


魔樹の根から分離した“雷枝兵”が十数体。


人型に近い。


速い。



「前衛三、押さえろ!」


兵士たちがぶつかる。


盾が弾かれる。


雷が走る。


一人が焼かれ倒れる。


戦場だ。


助けは来ない。


空では炎と雷の怪物戦。


セラフィナは完全にそちらに集中している。


こちらを気にかける余裕はない。



「グレイス!」


レオルが横に並ぶ。


風刃が雷枝兵の腕を切り飛ばす。


だが再生。


「硬ぇ……!」


リシェルが水圧で動きを鈍らせる。


「核があるはずよ!」


理論派の目が光る。


兵士たちが必死に時間を稼ぐ。


だが押される。


数が多い。


速い。



グレイスの氷が砕かれる。


雷が肩を裂く。


血。


歯を食いしばる。


守れなかった兵士の顔がよぎる。


“選ばない”


そう誓った。


だが――


選ばなければ全滅する。



「一点突破だ!」


レオルが叫ぶ。


風が唸る。


今までより密度が違う。


空気が収束する。


周囲の木々が軋む。


兵士たちが気づく。


「風が……重い?」



グレイスも感じる。


体の奥。


冷たい核。


氷がただの“刃”ではなくなる感覚。


形を持ち、意志を持ち始める。


視界が澄む。


雷枝兵の胸部。


一瞬、見えた。


脈動する雷核。


「中央三歩、左半身!」


グレイスが叫ぶ。


レオルが笑う。


「見えてんのかよ、親友!」


風が圧縮。


氷が収束。


自然と呼吸が合う。



同時。


風が雷を押し流し、


氷が核を凍結する。


斬撃ではない。


“貫通”。


雷核が砕ける。


一体、崩壊。


周囲の兵士が息を呑む。


今のは――


第一覚醒の威力じゃない。



だが反動が来る。


グレイスが膝をつく。


レオルも肩で息をする。


まだ“扉の前”。


完全ではない。


それでも確実に――


触れた。


第二覚醒の領域に。



「いけるぞ!」


レオルが叫ぶ。


兵士たちが奮起する。


陣形が立て直される。


リシェルが核の位置を指示。


「右奥! 三体密集!」


兵士が盾で押さえる。


風と氷が走る。


核を次々破壊。


やがて――


最後の一体が崩れ落ちる。



静寂。


焦土の匂い。


兵士二名戦死。


三名重傷。


副隊長が深く息を吐く。


「……生き残ったな」



空。


巨大な爆炎。


セラフィナの炎が雷樹を焼き払う。


圧倒的。


別格。


やがて巨樹は崩れ落ちる。


炎を纏った彼女が地に降り立つ。


周囲を見る。


倒れた兵士。


血。


疲弊した三人。


一瞬だけ。


ほんの一瞬だけ。


瞳が揺れる。


だがすぐに戻る。


「任務完了だ」


それだけ。


セラフィナの声。



だがグレイスは気づく。


彼女は空の上で戦っていた。


自分たちを一切見ていなかった。


信じていたのか。


それとも――


気にかける余裕がなかったのか。



帰還途中。


レオルが小さく笑う。


「今の、ヤバかったな」


「ああ」


「俺ら、行けるぞ」


拳がぶつかる。


重い音。


兵士たちがその背中を見る。


希望。


未来。

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