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紅炎戦記  作者: えみり
23/71

風が帰る場所

訓練後。


夕暮れ。


「なあ、グレイス」


珍しく真面目な声。


レオルが肩に木剣を担いだまま立っている。


「今日、暇か」


「用はない」


「じゃあ来い」


強引に腕を引く。


「どこへ」


「俺んち」


軽い口調。


だが目は少しだけ硬い。



東区外れ。


石造りの小さな家。


決して豊かではない。


扉を開けると――


「兄ちゃん!」


小さな少女が飛び出す。


「お、ただいま」


レオルの顔が一瞬で変わる。


柔らかい。


家族の顔。


もう一人、少し大きい妹。


そして、痩せた母。


優しく微笑む。


「友達?」


「まあな」


レオルが笑う。


「グレイスだ」


呼び捨て。


いつも通り。



食卓。


質素だが温かい。


妹たちが無邪気に話す。


「兄ちゃん、今日も強かった?」


「当然だろ」


胸を張る。


誇張はない。


本当に強い。


母が静かに言う。


「レオルは、この子たちの誇りなんです」


その一言。


グレイスは黙る。


戦場の顔しか知らなかった。


だがここにいるのは――


守る側。


家族を背負う男。



夜。


外。


星空。


「見せたくなったんだ」


レオルがぽつり。


「俺が何で強くなりたいか」


軽口ではない。


本音。


「母さんは身体弱い。妹たちはまだ小さい」


風が静かに吹く。


「だから俺が稼ぐ。俺が守る」


当たり前のように言う。


重いはずなのに。


重さを感じさせない。


それがレオルだ。



「お前はさ」


レオルが横を見る。


「何のために強くなる」


前にも聞かれた問い。


だが今は違う。


「守るためだ」


迷いはない。


「選ばないために」


レオルが少し笑う。


「相変わらず重いな」


軽く肩をぶつける。


「でもいい」


真面目な目。


「お前が隣なら、負ける気しねえ」


風が渦巻く。


第一覚醒の刃がわずかに光る。


本気だ。


本心だ。



「なあ」


レオルが空を見上げる。


「俺、もっと強くなる」


宣言。


「妹たちが胸張れるくらい」


「当たり前だ」


グレイスが言う。


「お前は強い」


即答。


飾らない。


レオルが一瞬、言葉を失う。


「……そういうとこだぞ」


苦笑。


だが嬉しい。



帰り道。


「グレイス」


真っ直ぐ呼ぶ。


「俺たち、親友な」


軽い調子。


だが目は本気。


「戦場でも背中預ける」


一拍。


グレイスは頷く。


「ああ」


短い。


だが重い。


風が強く吹く。


二人の間を通り抜ける。


約束のように。



家の窓から、妹が手を振っている。


レオルが大きく振り返す。


その姿を、グレイスは目に焼き付ける。


この笑顔。


この家。


この未来。


守るべきもの。


レオルは強い。


誰よりも明るく、誰よりも重い。



夜。


訓練所へ戻る途中。


「お前さ」


レオルが最後に言う。


「もし俺が先に死にそうになったら、助けろよ」


冗談めかす。


「当然だ」


即答。


「お前もな」


レオルが笑う。


「約束だ」


拳を出す。


グレイスが拳を合わせる。


乾いた音。


小さな誓い。

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