炎は天より降りる
正式兵士として最初の任務。
王都北西の森林地帯。
西との境界に近い、小規模監視任務。
「索敵と報告が優先。深追いするな」
隊長の指示。
三人は森を進む。
静かだ。
風が木々を揺らす。
リシェルが小声で言う。
「魔力反応、前方に複数」
レオルが頷く。
「散開するか?」
「いや、固まる」
俺は答える。
嫌な予感。
森が、静かすぎる。
⸻
接触は突然だった。
地面が裂ける。
蔦が足を絡め取る。
「植物……!?」
リシェルが水で切り裂く。
だが次の瞬間――
雷鳴。
紫。
空気が震える。
木が爆ぜる。
隊長が吹き飛ぶ。
「第二覚醒だ!」
誰かが叫ぶ。
前方に立つ男。
西の兵装。
だが異様な魔力。
雷と植物が絡み合い、背後に巨大な樹の幻影が揺らいでいる。
未完成。
だが確実に“その領域”。
「雑魚が」
低い声。
雷が落ちる。
地面が焦げる。
三人で防御。
氷で受け、水で緩和、風で逸らす。
だが重い。
格が違う。
⸻
「退け!」
隊長の声。
だが包囲されている。
他の班はすでに倒れている。
レオルが歯を食いしばる。
「くそ……!」
風で突っ込む。
雷が直撃。
吹き飛ばされる。
「レオル!」
俺は氷を一点圧縮。
雷を受け止める。
ひび。
割れる。
「無理だ……」
リシェルの水が蒸発する。
熱。
圧。
視界が白む。
全滅。
その言葉が脳裏をよぎる。
⸻
その瞬間。
空気が変わる。
熱。
だが灼ける熱ではない。
澄んだ、支配する炎。
上空。
赤。
「下がりなさい」
声。
炎が落ちる。
雷と正面衝突。
爆ぜる。
森が揺れる。
西の男が初めて表情を変える。
「……東の象徴か」
セラフィナ・インフェルナ。
ゆっくりと地に降り立つ。
紋様が淡く光る。
第二ではない。
その先の、圧。
⸻
「兵士に手を出すとは、礼儀がなっていないわね」
静かな声。
だが空間が支配される。
西の男が吠える。
雷樹が伸びる。
炎がそれを包む。
一瞬。
次の瞬間、樹が灰になる。
圧倒。
格が違う。
セラフィナは歩くだけ。
炎が道を作る。
男が叫び、全力の雷を放つ。
彼女は片手を上げる。
紅炎が渦を巻き――
消し飛ばした。
雷ごと。
存在ごと。
森に静寂が戻る。
⸻
膝をついたまま、見上げる。
強い。
違う。
あれが“象徴”。
あれが――
頂点。
セラフィナが振り返る。
赤い瞳がこちらを見る。
「立てる?」
声は普通だ。
俺は立ち上がる。
足が震えている。
悔しさか、恐怖か。
分からない。
だが一つだけ確か。
遠い。
あまりにも遠い。
⸻
「無茶をするな」
彼女が言う。
俺は言う。
「……あの域に行くには、どうすればいい」
一瞬、沈黙。
風が止まる。
「生き残ること」
短い答え。
「それが最低条件」
炎が揺れる。
「強さは積み重ね。飛び級はない」
そう言って、背を向ける。
⸻
森を出る頃。
救援隊が到着していた。
被害は大きい。
だが三人は生きている。
レオルが苦笑する。
「助かったな……」
リシェルはまだ言葉が出ない。
俺は拳を握る。
守られた。
兵士になったのに。
まだ、守られる側だ。
空を見上げる。
赤い残光が消えていく。
――近づきたい。
あの炎に。
並ぶのではなく。
隣に立てるように。
初任務は終わった。
だが本当の目標が、今、定まった。




