名を刻む日
王都中央広場。
朝。
十五名の訓練兵が整列している。
空気は張り詰めていた。
簡易任務とはいえ、実戦は実戦。
生還。
成功。
その評価が下される日。
教官バルドが前に立つ。
「諸君らは初任務を終えた」
低く響く声。
「結果は上々。連携、判断、統制――基準を満たした」
一拍。
「よって本日付で、正式兵士に任命する」
ざわめき。
胸の奥がわずかに熱くなる。
⸻
名前が呼ばれる。
一人ずつ前へ。
簡素な金属章を受け取る。
東の紋章が刻まれている。
レオル。
「やっとか」
軽口だが、握る手は強い。
リシェル。
「……当然よ」
平然とした顔。
だが指先が少し震えている。
そして――
「グレイス」
前へ出る。
章を受け取る。
重くはない。
だが確かに、意味がある。
“守られる側”ではない。
“立つ側”だ。
⸻
解散。
広場が徐々に崩れていく。
レオルが笑う。
「兵士様だな、グレイス」
「まだ実感はない」
「そのうち嫌でも出る」
リシェルは少し離れた位置にいる。
章を見つめている。
指でなぞる。
視線が、無意識に横へ向く。
グレイス。
あの日の背中がよぎる。
氷が刃を受けた瞬間。
迷いがなかった。
自分は――動けなかった。
悔しさと、別の何か。
「……」
胸が少しだけ騒ぐ。
⸻
「リシェル」
呼ばれて、肩が跳ねる。
「な、何よ」
「章、落とすなよ」
彼は普通だ。
いつも通り。
それが逆に落ち着かない。
「落とさないわよ!」
声が少し大きい。
レオルが横で笑う。
「顔赤いぞ」
「赤くない!」
水弾が飛ぶ。
風が弾く。
いつものやり取り。
だが、いつもより心拍が速い。
⸻
城門へ向かう途中。
リシェルは少し遅れて歩く。
前を行く二人。
風と氷。
バランスがいい。
自分は支援。
理論。
補助。
それでいい。
それで――
いいはずなのに。
視線が、また背中を追う。
「……仲間だから」
小さく呟く。
言い聞かせるように。
⸻
広場の高所。
赤い視線が見下ろしている。
セラフィナ。
三人が並ぶ姿。
章を受け取る瞬間も見ていた。
「兵になったのね」
炎は静か。
だが、わずかに強い。
氷の揺らぎが変わっている。
迷いが減った。
芯ができ始めている。
「悪くない」
それだけ。
⸻
夕暮れ。
兵舎前。
レオルが拳を突き出す。
「ここからが本番だ」
グレイスが拳を合わせる。
リシェルが少し迷い、同じように拳を重ねる。
三つ。
正式兵士。
まだ未熟。
だが立つ場所は同じになった。
⸻
夜。
自室。
リシェルは天井を見つめる。
眠れない。
思い出す。
自分の鼓動。
「……馬鹿」
布団をかぶる。
顔が熱い。
理由は分からない。
分かりたくもない。
だが確実に――
水面は、静かではなくなっている。




