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紅炎戦記  作者: えみり
15/71

名を刻む日

王都中央広場。


朝。


十五名の訓練兵が整列している。


空気は張り詰めていた。


簡易任務とはいえ、実戦は実戦。


生還。


成功。


その評価が下される日。


教官バルドが前に立つ。


「諸君らは初任務を終えた」


低く響く声。


「結果は上々。連携、判断、統制――基準を満たした」


一拍。


「よって本日付で、正式兵士に任命する」


ざわめき。


胸の奥がわずかに熱くなる。



名前が呼ばれる。


一人ずつ前へ。


簡素な金属章を受け取る。


東の紋章が刻まれている。


レオル。


「やっとか」


軽口だが、握る手は強い。


リシェル。


「……当然よ」


平然とした顔。


だが指先が少し震えている。


そして――


「グレイス」


前へ出る。


章を受け取る。


重くはない。


だが確かに、意味がある。


“守られる側”ではない。


“立つ側”だ。



解散。


広場が徐々に崩れていく。


レオルが笑う。


「兵士様だな、グレイス」


「まだ実感はない」


「そのうち嫌でも出る」


リシェルは少し離れた位置にいる。


章を見つめている。


指でなぞる。


視線が、無意識に横へ向く。


グレイス。


あの日の背中がよぎる。


氷が刃を受けた瞬間。


迷いがなかった。


自分は――動けなかった。


悔しさと、別の何か。


「……」


胸が少しだけ騒ぐ。



「リシェル」


呼ばれて、肩が跳ねる。


「な、何よ」


「章、落とすなよ」


彼は普通だ。


いつも通り。


それが逆に落ち着かない。


「落とさないわよ!」


声が少し大きい。


レオルが横で笑う。


「顔赤いぞ」


「赤くない!」


水弾が飛ぶ。


風が弾く。


いつものやり取り。


だが、いつもより心拍が速い。



城門へ向かう途中。


リシェルは少し遅れて歩く。


前を行く二人。


風と氷。


バランスがいい。


自分は支援。


理論。


補助。


それでいい。


それで――


いいはずなのに。


視線が、また背中を追う。


「……仲間だから」


小さく呟く。


言い聞かせるように。



広場の高所。


赤い視線が見下ろしている。


セラフィナ。


三人が並ぶ姿。


章を受け取る瞬間も見ていた。


「兵になったのね」


炎は静か。


だが、わずかに強い。


氷の揺らぎが変わっている。


迷いが減った。


芯ができ始めている。


「悪くない」


それだけ。



夕暮れ。


兵舎前。


レオルが拳を突き出す。


「ここからが本番だ」


グレイスが拳を合わせる。


リシェルが少し迷い、同じように拳を重ねる。


三つ。


正式兵士。


まだ未熟。


だが立つ場所は同じになった。



夜。


自室。


リシェルは天井を見つめる。


眠れない。


思い出す。


自分の鼓動。


「……馬鹿」


布団をかぶる。


顔が熱い。


理由は分からない。


分かりたくもない。


だが確実に――


水面は、静かではなくなっている。

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