水面の揺れ
王都南東、旧街道。
任務は簡易鎮圧。
中央方面から流れ込んだ盗賊崩れの排除。
「西の正規兵じゃない」
教官バルドの事前説明通り。
相手は寄せ集め。
だが刃は本物だ。
「三人一組で動け!」
十五名が散開する。
グレイス、レオル、リシェル。
いつもの隊列。
風が先行し、索敵。
水が後衛支援。
氷が中央制御。
形はできている。
⸻
最初の接触。
レオルが風で二人を弾き飛ばす。
「左!」
リシェルの水弾が正確に敵の武器を叩き落とす。
俺は地面を凍らせる。
足を止める。
動きは悪くない。
夜の訓練の成果は出ている。
だが――
「後ろ!」
茂みから別の影。
想定より数が多い。
リシェルの視界外。
剣が振り下ろされる。
一瞬の硬直。
水が間に合わない。
距離が遠い。
⸻
間に入る。
反射だった。
氷を一点圧縮。
刃と衝突。
金属音。
衝撃が腕を走る。
だが、砕けない。
夜に教わった“点”。
そこから凍結を広げる。
敵の腕が凍る。
レオルの風刃が叩き落とす。
沈黙。
砂埃が落ちる。
⸻
「……大丈夫か」
振り返る。
リシェルは立っている。
だが、息が浅い。
「問題ないわ」
声が少し硬い。
震えは隠している。
周囲はすでに制圧されつつある。
大規模戦ではない。
だが、確実に“実戦”だった。
⸻
撤収。
旧街道を戻る途中。
レオルが笑う。
「今のはナイスカバーだな、グレイス」
「偶然だ」
「嘘つけ」
軽口。
空気は重くない。
だがリシェルは少し黙っている。
⸻
王都手前。
三人だけになった瞬間。
「……さっきの」
リシェルが口を開く。
「助けなくても、自分で対処できたわ」
意地だ。
俺は言う。
「間に合わなかった」
「違う」
「間に合わせた」
少しの沈黙。
彼女の蒼い瞳が揺れる。
「……ありがとう」
小さい声。
聞き逃しそうなほど。
レオルが後ろでニヤニヤしている。
「青春だねぇ」
「黙れ」
即座に水弾が飛ぶ。
風がそれを弾く。
いつもの三人だ。
⸻
だが。
城門が見えた時。
リシェルがふと横を見る。
グレイスは無表情だ。
だが腕が少し赤い。
さっきの衝撃。
気づいていない。
「……馬鹿」
小さく呟く。
聞こえていない。
⸻
その夜。
自室で。
リシェルは水を掌に浮かべる。
揺れている。
いつもより不安定。
思い出す。
氷が、刃を受けた瞬間。
迷いなく、前に出た背中。
胸が少しだけざわつく。
「違う」
即座に否定。
「仲間だから」
そう。
それだけ。
だが、水面は静まらない。
⸻
一方。
塔の上。
セラフィナは報告書を読む。
「初任務、成功」
赤い瞳が細められる。
三人の名前。
特に氷。
「……動きが変わった」
月が雲に隠れる。
炎は静かだ。
だが、確実に。
小さな波が広がり始めている。




