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残念エルフ姫ってなんですか?! そんなの聞いてませんけど…… 【神世界転生譚】ユウナと不思議な世界  作者: Resetter
二章 : 旅立ちの日までに

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28. お母さん

前回のお話:守護のリングを手に入れた!


 「ただいまー!」


 「あら、ユウナ。おかえりなさい。」


 「お母さん!」


 一年の時が経ち、ユウナとマリーカも、更に絆が深まっていた。


 本当の母娘になろうという事で、お互いそのように振る舞い出し……今ではもう、すっかり板に付いている。



 「ね、ね、お母さん! 手、出して! 左手!」


 「手?」


 ユウナの言葉に、マリーカはその彫刻のような手を伸ばす。


 ユウナは、その手を取ると、スッと指輪を通した。

 薬指だった。


 「あら。これ、グニパの……?」


 「うん! お母さんにすごく似合いそうだったから!」


 「ああ……ユウナ……!」


 マリーカは、ふわりとユウナを抱き寄せた。


 そして、ユウナの長い耳へと顔を寄せると、


 「ありがとう……。嬉しいわ。」


 と、柔らかいトーンで呟き、そのまま耳にキスをした。


 アルヴのエルフ達にとって、耳へ触れる事は重要な意味を持つ。


 耳に触れる事が許されるのは、特に親しい間柄のみ。


 つまりそれは、愛の証なのだ。


 「喜んでくれたなら、私も嬉しい!」


 ユウナは、マリーカをギュッと抱き返した。


 「あ! そうだ! まだこれだけじゃないんだった!」


 (しば)しの抱擁の後、ヤルンのバックに詰めたお土産がまだあった事を思い出し、ユウナはマリーカと貯蔵庫に向かった。



――――

――



 その晩のディナーは、ユウナの交換してきた魚が中心のメニューだった。



 エルムト川産の川魚は、ミュルク村では人気の交易品の一つなのだ。


 ミュルク村は深い森の中にあり、森の恩恵は計り知れないのだが、近くには、魚が捕れるような川は無いのだった。


 エルムト川の魚は、当然数種類あるが、今日食卓に並んでいるのは、鮭のような魚と、山女魚のような魚の二種類だった。


 だが、二種類とは思えない程の品数になっている。


 「お母さんの料理は本当にすごいなぁー。」


 「ふふ。そういう異能だからというだけよ。お手伝いありがとう。さ、いただきましょう。」


 ユウナと暮らし始めて初めてとなる魚料理という事もあってか、この日のマリーカはその持てる力を余すこと無く注ぎ込んでいた。


 王家で振る舞われるべきであるその腕前を、惜しげも無く発揮したその料理は、目にも美しく、そしてその味わいもアルヴ随一といえるものだ。


 マリーカ自身も、王家仕えの頃には、作りはすれど、その料理そのものを食べる事など無かった。


 名誉を捨て、村に戻り、ユウナと暮らすという選択は、彼女にこの上ない安らぎと多幸感を(もたら)していた。


 


 だが……

 

 マリーカはこの生活がいつまでも続く事は無いと、知っているのだ。


 ユウナの寿命は、短いのだから。


 「あ! そうだ。お母さん。」


 「どうしたの?」


 「占い師さんがね、フェアランドに行けば異能の事は解決するかもって言ってたんだ。」


 「え?! 異能が……」


 マリーカは、持っていたフォークを落としそうになる程に動揺を見せた。


 

 ユウナは、普段から冒険がしたいと公言している。


 そして、ユウナの親友であるリトも、どうやら旅人になりたいという事も知っている。


 きっといつかは二人で旅に出るのだろう。


 そして、それは案外近い時なのかも知れない。


 そう何処かで思ってはいた。




 だが、急に具体的な話になった。


 マリーカの至福の時間は、もう余り残されていない。


 その事実を突き付けられ、二の句が継げ無かった。




 マリーカの異能は、王佐の才と呼ばれるものだ。


 アルヴではそのように呼ばれているが、軍師的な意味合いではなく、その実、世話に特化したものだった。


 出来る事は幅広く、少し器用貧乏のきらいがあるが、支配階級からすると重宝されるものだ。


 長いアルヴの歴史に於いて、この手の異能を授かった者は、いつしか強制的に王家に仕える事になっていた。


 マリーカは、出来うるならば、ユウナの旅に同行したいという想いは強い。


 しかし、マリーカはユウナと王館を出る時に、その所在を常に明らかにするように厳命されている。


 王家との繋がりが完全に途絶えた訳ではないのだ。


 もしも勝手に旅に出ようものなら、罰が与えられる。


 おそらくは、マリーカの樹は燃やされる事になるだろう。


 悪くすれば、ミュルク村にも何らかの罰が与えられる事も考えられる。


 だから、マリーカは安易にユウナに着いて行くという選択は出来ないのだ。


 左手を見れば、キラリと輝くリングが薬指に嵌められている。


 ぼんやりと眺めていると、不思議と落ち着いてきていた。


 ユウナが少しでも元気になる可能性があるなら……


 笑って送り出してやるのも、母としての務めかも知れない。


 いや、今一度……王に直談判してみよう。


 最初から諦めるべきでは無い。その結果次第だ。


 マリーカは、そんな決意を……静かに固めるのだった。


――――

――



 「ナイ。」


 食後、後片付けを終え、ベッドメイクをしに来たユウナは、バルコニーでじっとしているナイに話し掛けた。


 「ユウナ。どうした。」


 「私ね、来年……旅に出ると思う。ナイは、どうする?」


 「ナイは、ユウナを護る。だから、行く。」


 「そっか……。ナイ、ありがとう。」


 ナイは近頃、早朝の狩りの時以外、ユウナが村内に居る限りは、ついて回る事はしなくなっていた。


 それは、ユウナが以前より強くなった事もあるが、村内には危険が無いと判断出来た事が大きい。


 大概はバルコニーか玄関横でじっとしている事が殆どだ。


 その(さま)は、まるで充電スタンドのお掃除ロボのようだが、まさにその通りで、じっとする事は、ナイにとってのエネルギー補給なのだ。


 

 ナイも、ユウナが旅立つ事は知っていた。


 あまり知識は持ってはいないが、ユウナの身体に異常がある事は感じてもいる。


 来るべき日に備えて、ナイは充電しているのだ。


 「じゃあ、お風呂入ってくるね!」


 「ああ。」


 ナイは、少しずつ小さくなるユウナの足音を聞きながら、再び顎を落とし、瞳を閉じた。

お読みいただけまして、ありがとうございました!

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