大団円
舞台は整った。
乾杯の為のワインを侍女が運んできた。
ネストルがグラスを手に取る。
続けてイオニスが取った。
「ありがとう、デジー」
侍女は何も言わず目を伏せて後ろに控えた。
ゼフィの薬のお陰で娘が病から脱した後、仕事に復帰していたジリルには玉座の一番近くにいろと命じていた。
「我が国の繁栄に!」
「国王陛下のご健康に!」
人々がグラスを掲げ口をつける。
イオニスは隣のネストルがワインを飲み干したのを確認した。
「今日は陛下はいらっしゃらず若者ばかりの舞踏会。思う存分楽しんでくれ」
笑い声が漏れる。
イオニスはホールにいる客人達に玉座から話しかけた。
「さて、少し時間を頂きたい。
私が数ヶ月前に愛して止まない婚約者を失ったことは皆の記憶に新しいと思う」
ホールの温度が一気に下がった気がした。
「それについてなんだが……
兄上、マリリエンヌのことはどう思う?」
弟からの思わぬ問いかけにネストルが驚いた。そして言った。
「マリリエンヌは俺が妾にするつもりだった」
ホールのあちこちで小さな悲鳴が上がった。
そして…そう言ったネストル本人は自分が言った言葉に驚愕の表情を浮かべていた。
「兄上、穏やかではない発言だな。まさかマリリエンヌにその話をしてはいないよね?」
「もちろんしたさ。」
「彼女は何と返事したんだい?」
「お前が好きだからイヤだと」
「で?」
「一発殴ってやったよ」
ホール中がざわめいた。特に女性達が怒りの声を上げた。
そういうイオニスも、わかっていたとはいえ、握った手に指が食い込みそうなほど怒りが湧いてきていた。
ネストルはというと、言葉の汚さとは裏腹に、なぜ自分がそんなことを口走っているのかわからないようで恐怖に震え始めていた。
イオニスがゼフィに頼んだ『真実の薬』は完璧にネストルに作用していた。
その薬を飲んだが最後、口から出る言葉はその者の心を語ってしまう。奥の奥の包み隠したい真実を。
「それで彼女は兄上におとなしく従ったのかい?」
「いや。あいつはまだ歯向かうようだったから言ってやったんだ。『お前が従わないならイオニスを殺すぞ』てな」
「マリリエンヌはどうして私に相談しなかったのだろう」
「しようとしたさ。だから俺はお前に毒を飲ませた。ほんの少し体調を悪くする程度だ。そうしたらあの女は怖がって、それからはおとなしくなったな」
ホール中が息を呑んだ。
第一王位継承者であるイオニスに対する暗殺未遂の告白である。
どうなっているのだ。ネストル様は何を言っているのだ。
皆がことの成り行きに固唾をのんだ。
「兄上…ひどいな。
そういえばマリリエンヌには良からぬ噂があったが…」
「全て俺がでっち上げたんだ。楽しかったぞ」
イオニスの眉がピクリと動いた。
それでもイオニスは平静を装い続けた。
「ではあの日。
私がマリリエンヌと最後に会ったあの舞踏会での彼女のドレス、あれは覚えているかい?」
「もちろんだ。あれは俺が用意したんだ。お前が婚約を解消するよう仕向けたんだ。
それにしても、あの淑やかな女に娼婦のドレス。俺はゾクゾクしたぞ。」
「人でなし!」
デジーが耐えきれず叫んだ。
それを合図に、ホール中から批難の叫びが聞こえてきた。
潮時だ。
「ネストル・カラマントス・デュカドエル!
私、イオニス・カラマントス・デュカドエルへの暗殺未遂及び不敬罪。並びに我が婚約者への不敬罪によってお前を逮捕する!捕らえよ!」
控えていた護衛達がネストルを囲んだ。
「ハハハ!!婚約者だと?」
ネストルが笑いだした。
これは魔法薬のせいか?それとも、諦めて本性が出たのか?
「婚約は解消したくせに」
「いや!私は結局、彼女との婚約は一度も解消していない。今だ彼女は私の婚約者だ!」
「ふんっ!それがどうした!死んだ女との婚約だと?気でも狂ったのか?どれだけ足掻いてもお前のマリリエンヌは戻ってこない!ざまあみろ!ハハハ!」
「待て!」
イオニスは護衛達に声をかけた。
「そうだな。兄上にも紹介しておくべきだな。真実を知ってから刑を受けさせてやろう」
「皆の者、紹介しよう。
我が婚約者、マリリエンヌ・ツェペリアーヌだ!」
玉座の後方にある入口から姿を現したのは…
今日のイオニスの上着と同じ真紅のドレスを身に纏い、豊かな長い髪を銀色に輝かせた女神のように美しいマリリエンヌだった。
「うそだ!なぜだ!」ネストルが叫んだ。
「あの日、亡くなったのはマリリエンヌではなかった!しかしマリリエンヌは兄上を恐れ、自分を死んだことにして身を隠していたのだ。
……そういう私もつい先日、彼女が生きていることを知った。」
ジリルがその場に崩れ落ちた。
ネストルは連れて行かれた。
「今日ここに彼女への変わらぬ愛を誓い、改めて婚約を発表する!」
一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手がホール中を満たした。
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「イオニス様とマリリエンヌ様に幸あらんことを!」
人々が口々に祝辞を叫んだ。
その声に包まれ、イオニスはマリリエンヌを抱き寄せた。
「愛している、マリリエンヌ」
「愛しています、イオニス」
2人は見つめ合い微笑み合うと、長い長い口づけをした。
ありがとうございました。




