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地球鎮守府  作者: 山内海
タサリオンの冥王
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第五十三話 ぐんぐにーるの被害者

第五十三話 ぐんぐにーるの被害者




「おー、お帰りー。随分ケッタイな帰り方だね。漫画版の巨神兵が、光輪背負って空間をねじ曲げたのかと思ったわ」


 砦の上空から帰ってきた浩平を、天音は毛皮の上に寝っ転がったまま迎えた。


「砦はどうだった?浩平」


 エリドゥも胡座をかいたまま、道端のタンポポなんぞを引っこ抜いて食べている。


「ナノマシンを使って大暴れしとったようだのう。しかし、バンジィをさらってくるとはな……」


「え?誰?副会長だよ、連れてきたのは」


 浩平は自分が抱えているシタテルを今一度見る。

 強奪のショックで失神しているが、確かにシタテルである。

 いつもと違い、荒々しい感じだったが……。


「いや、シタテルはこっち」


 エリドゥが指差す先の毛皮の上には、猫マルを抱いたシタテルがすでに座っている。

 古代ギリシアの巫女が着ているようなワンピース姿なのは、浩平が抱き抱えているシタテルと同じだが、こちらのシタテルは武装していない。

 腕には『運営』と書かれた白い布が巻かれている。

 

「あの…、もしかして、私だと思ってたんですか……?」

 

 赤面しながら恐る恐る座っていた非武装シタテルは浩平に尋ねる。


「え?ええ?」


「ゴメンね、わざとらしくならないように、お兄ちゃんお姉ちゃん達には、筋書きを言ってなかったのニャ」


「それで……。バンジィさんも怖かったでしょうに…、」


 立ち膝で浩平の側までやって来たシタテルが、浩平の抱き抱えているシタテルの額に手をかざし、その手をスッと胸元まで下げると、シタテルが撫でたその顔は、違う女性のものになった。

 褐色銀髪のワイルドなお姉さまである。

 浩平は、我が目を疑った。


「ほんとは私がやる役でしたが、設定の調整が遅れてしまい、急遽バンジィさんに代役をお願いしたんです。ごめんなさい、ビックリしたでしょう」


「……そうか。俺、副会長に冷たくされたのかと思って、泣きそうになったよ」


「それで、筋書き通りに行ったわけ?猫マル先生は『砦に行って装備を買うニャ』とか言ってたけど」


 天音が尋ねると、シタテルは少し考え込んだ後ニッコリ笑顔で、「全然違う感じになりました」と、言った。


「一番の戦犯はバンジィニャ!黙って通せばいいものを、変なノリで弓を引くからニャ!」


「シタテルよ、お主バンジィには、ちゃんと役柄を伝えたのであろうな」


 エリドゥが疑いの言葉を投げ掛ける。


「はい、『もうすぐ、浩平さんが来るから、私の代わりに迎え入れてください。その後、冥王の使者が攻めてくるで追い払ってください』と」


「え?後からって、天音が悪役なの?」


「いやホレ、悪役はあそこおるじゃろ……完全に出る機会を失っておるが……」


 エリドゥの指差す先、木々の繁る森の奥へと続く、浩平達が岸辺から森を突っ切り、モンスターを倒しながら歩いてきた道に、先ほどは素通りしたが、枝分かれする小道が一本。

 その、トの字の合流点辺りの木の陰に人影がある。

 骸骨頭の黒マントで、ゴテゴテと邪悪な感じの装飾品を身に付けている。

 そして片手には特大のワイングラスを持っている。


「…………、誰?」


「えーっと、開発から手伝っていただいてる方です」


 木陰の骸骨は、遠くでペコリと一礼すると小道の奥へ消えていった。


「………、誰?」


「ま、まあ、お試しでさわりの部分をやってもらっただけだし、細かいとこはどうでも良いニャ。それに、なんだか迫力のある戦闘シーンが記録できたから、さっきのを編集してβ版のオープニングにしようか…、ストーリーもそれに合わせて変えようかニャー…なぁんて……、」


「では砦の兵達はプレーヤーに置き換えて、初回ミッションが町の攻略というのは?」


「巫女の救出が先かな……」



 シタテルと猫マルが座り込んで打ち合わせを始めた。




「う、うぅー……、」


「お、戦巫女が目を覚ましたぞ、」


「バンジィさん、大丈夫ですか?」


 シタテルがそっとバンジィを抱き起こす。


「バンジィ、災難だったのう。まあ、半分くらいはナノマシンを浩平に持たせたワシの責任じゃがな」


 銀髪で褐色の肌をもつ、狼女と云う形容が似合いそうな女戦士は、クワッと目を見開いたかと思うと、シタテルの腕を掴み、涙ながらに訴える。


「ひ、姫様……、申し訳ありません…。わ…、私には無理でした……。姫様の代わりに浩平さんの、……ぐんぐにーるを迎え入るのは……。ひい!……浩平さんの黒いぐんぐにーるが何本も!!カッチンコッチンのぐんぐにーるがぁ!!あっちに避けても、こっちへ押しやっても、センターにもどる!いやあああぁぁーーー!!窓からコンニチワするぅぅーー!!」


 バンジィは背負っていた大きな丸盾を被り、亀よろしくうずくまってしまった。


「……何?…、何を言っておるのだ?バンジィ?浩平はぐんぐにーるを、使っておらんぞ?」


「きっとあれニャ、お兄ちゃんのナノマシンを見て、例のアレを思い出したんニャ。あの日の朝も、お兄ちゃんの顔を見るなり、バンジィ、顔を真っ赤にして逃げ出したニャ」


「あー、例のアレか……、」


「なんの事ですか?浩平さんのぐんぐにーるは、その、私が…、あった方が良いかなって……思って……、」


「姫様!姫様を差し置いて、私があのぐんぐにーるをどうこうしようとか、そんなこと、全く思ってませんとも!ええ!……なんと言ったらよいか……、自分も、あんな状態のぐんぐにーるを見たのは、その、初めてでありまして、どうしたらいいのかわからず……、がああぁ!ぐんぐにーるぅぅ!!頭からぐんぐにーるが離れない!!」


 バンジィは、ガンガンと地面に頭を打ち付ける。


「もう、ぐんぐにーる、ぐんぐにーるうるさい!ぐんぐにーるはもうよいわ!浩平のぐんぐにーるなんぞほっとけ!!」



「……さあ、そろそろ夜も更けましたし、今回は終わりにしましょうか。まだ、日にちもありますし、後は私とエレヒのスタッフで調整しますわ」


 シタテルがそういうと、うずくまるバンジィと、この騒ぎの中、完全に寝てしまった天音を起こし、帰り支度を始めた。


「……そうじゃ。プロセヌティーナよ、良いか?」


『はい、エリドゥ様。ご機嫌麗しゅう』


 浩平の肩の上に小さなプロセヌティーナの立体映像が現れる。


「プロセヌティーナよ、お主、『天網恢恢』を使ったのう」


『……オーダーをいただきましたわ。本来は、大型宇宙戦闘艦用の防衛陣ですけど……、まあ、剣と魔法の世界風にアレンジさせていただきました』


「………、そうか、」


『どうかいたしまして?』


「……いや、なんでもない、」


『浩平様も中々の使い手ですわね。まるで……』


「言うな」


『は、はい……』


 それきり、エリドゥは黙り込んでしまった。



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