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地球鎮守府  作者: 山内海
地獄門の変
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第四十三話 体は大人、頭脳はジジイ、名探偵エリドゥの推理

第四十三話 体は大人、頭脳はジジイ、名探偵エリドゥの推理




「さて、大体のことはアジス、じゃないわね、ミスマルから聞きました。後から受けたエレヒからの報告とも合致します。ヤシン家を出奔し、太陽系外で死亡したタケミナカタ廃皇子が、記憶樹に帰還した。記憶樹とそれに繋がるネットワークに害を及ぼすため、と云うのがエリドゥ、あなたの意見ね」


 タキリは上座をエリドゥに譲り浩平の横に座っている。

 シタテルとタキリに挟まれる格好になった浩平は、居心地が悪そうに背筋を伸ばして正座している。


「うむ、出奔直前の言動を思い返せば、そういうことになるのう。船内で言葉を交わしたダイモスが地球に来れば、もう少し詳しいことが解るかもしれん」


 天音がエリドゥに酌をしようとしたが、エリドゥは断った。


「今、ワシは、高校生。学生の本分を守らねばならん」


 エリドゥはそう言ったが、


「さっき、えりりん、一杯飲んでたわよ」


 と、天音に指摘されると、


「ソレは、ほれ、なんじゃ、気付けじゃ」


 などと、苦しい言い訳をした。


「まあ、ナムジンが監視をする記憶樹の中で、大した悪さが出来るとも思えん。そのうち頭を冷やして、許しを乞いに来るかもしれんの」


「このままスキャンに引っ掛からないのなら、捜索隊を各領域に差し向け、探し出さなければならないわね」


「そのあたりの事は、子供たちを帰してから考えるとしよう……、今、決めておかねばならぬことは…、」


 エリドゥは、ミスマルを見る。


「…ミスマルの事だ」


「お兄様が、どうして?」 


 シタテルがエリドゥに訊ねる。


「アジスが死に、時を同じくして、タケミナカタが帰還した。公にはアジスとタケミナカタは同一人物じゃ。つまりミスマルは今後存在が認められないのじゃ」


 ミスマルはうつむき、じっとエリドゥの言葉に耳を傾けている。


「認められないって……、」


 浩平がうめくように呟く。


「船造の匠、記憶樹を中心とする精神ネットワークの祭司、旧世界地球人レムル節士派の要…、太陽系世界において強大な権勢を誇るヤシン家の一族の動静じゃ、簡単にはいかん。木星や火星を中心に、タケミナカタをいまだに英雄視し、再生復権を望むむ者も多いだろう。例えばルタヴア家…、」


 一同はヴリエを見る。

 天音をエリドゥにとられたガウマァが、今度はヴリエにまとわり付いている。

 膝の上にガウマァを乗せ、ガウマァのボサボサの髪になんとかブラシをかけようとしていたヴリエは、一同の視線に驚き、固まってしまった。

 

「あの、わた、私は、」


「……、ルタヴア家の当主ズェッペンギン公の考えはどうであろうかのう、太陽系連合艦隊旗艦『カレノ』の瑞伴艦『シンラ』を駆り、アンプラグドの巣窟、天狼星シリウスとの戦争を共に戦ったタケミナカタの事を」


「……、『狼を退ける者』。父はタケミナカタ様の事をそうお呼びになっておりました…。私が親元を離れ、エレヒに住まうようになったのは、まだ私が幼い頃だったので、そのくらいしか、思い出はありません」


 遠い記憶をたどるようにヴリエはこたえる。


「別に疑っているわけではないのだが、いま、この時節にルタヴア家の御令嬢と知己を得たということに、なにか意味があったのではと思っただけじゃ」

 

 それだけ言って、エリドゥはそれ以上ヴリエの事を追及しなかった。


「今後、記憶樹の中でタケミナカタと接触した者がおれば、当然タケミナカタの帰還は皆に知れよう。そうなれば何故太陽系の英雄を生き返らせないのか、という声も増すだろう」


 エリドゥはミスマルに視線を移す。  


「…、ミスマルが女性体として再生されたのも、今にしてみれば何かしらの意図があってのことかもしれん。タイミングも疑わしい。記憶樹内で蛇神撃退の試算結果が出た途端、本人が未だ生きているうちから再生が行われたそうではないか。それは再生ではない、複製じゃ。タケミナカタの子供時代の情報からアジスが誕生したように。アジスがミスマルとして事前に再生していなければ、アジスの死とタケミナカタの帰還が同時だったならば、タケミナカタの精神がアジスとして再生されたかもしれない。我々が気付くことなく、入れ替わっておったかもしれない」


「そう言えば私、『転生の間』でジェ・ヴォーダン君に会ったの」


「なんと言っておった?」


「記憶の継承は、学園生活に支障が無いようにとの、ワシからの計らい。女体化は、地球の漫画やゲームに感化され過ぎ、血気に逸った結果、命を散らせたお主への戒め…、」


「…、身も蓋もないこと言われておるな…。」


「…、」


「アジスがミスマルとして既に再生していたし、ナムジンが広域警戒網『ダンテの門』を稼働させていたので、アジスの死と同時の記憶樹への侵入も、火星の『ニルガルの宮』経由の記憶樹への侵入も失敗したタケミナカタとその協力者が、物理的にネットワークへ接続するために、激おこ☆プンプン丸とエレヒが、ワシや浩平が義体の操作をするために記憶樹経由でリンクした瞬間に、ネクロノミコンに潜んでぶっ刺さった…、そんな所か」


「では、先立っての蛇神四柱同時侵攻も、アジスを狙ってのこと?」


 タキリが身を乗り出してエリドゥに訊ねる。


「いや、そうではあるまい。あの時アジスが生身で乗り込むことは、予め決められていたとはいえ、艦隊がどこへ赴き、どのように振る舞うのかなんぞ、予測が出来るか?そのようなものに賭けるのは、余りにも遠大すぎる」


「…、太陽系から外に出たレムル人は死する運命にあるのだ、諸君。今も昔もな。銀河惑星連合評議会と太古に交わされた約定を破り、太陽系外に戦舟を進めたレムル人は二人、タケミナカタとアジス」


 襖が開き、長身のレムル人、今は浴衣姿のナムジンが現れた。


「今のミスマルの肉体はほとんど地球人と同じ。『地球人』として船に乗り込んだアジスは死に、その誓言に縛られ、地球人ミスマルとして転生したのだ」


 生前のアジスを身長200センチまで伸ばしたような長身の有角美男子。

 白磁の肌に眩い金髪。

 切れ長の目。

 こめかみの後ろからは、ヤギの角そっくりの、レムル人の男性が有している立派な角が生えている。

 

 タキリはナムジンを認めるや否や、浩平にしなだれ掛かり、浴衣の衿に手を突っ込む。


「タッ、タッ、タキリ、何をしている!」


 タキリを指差し、がに股で駆け寄ろうとしたナムジンは、座布団にけつまずき、転がる。

 ナムジンはクールな登場から10秒もかからずに、三枚目まで落ちた。落とされた。


「あなたこそ、エレヒは大丈夫ですの? こんなところまで来て、何のつもり? あの、二人の女中さんは一緒ではないの?」


「タキリ、タキリさん? あの、子供たちの前だし、その…、えーっと…、もしかして、まだ怒ってる?」


「おこらいでか!」


 タキリは柿の種を次々にナムジンに投げ付ける。

 ナムジンは『ひぃぃー』と悲鳴を上げ、部屋から逃げ出した。

 ピシャリと襖が閉まる。


「…、タキリ、食べ物を粗末にするな。それから、その浴衣の乱れをなんとかせい」


 エリドゥにたしなめられ、タキリは浩平の横に座り直す。


「お母様、私、ヤシン家を出ます。地球人として地球で死にます」


 唐突にミスマルはそう母に告げる。


「認めません!」


 タキリはすかさず断る。


「貴方がヤシン家を出てしまうと、お父さん、泣いてしまうわよ」


「そうともミスマル!」


 ふすまが開き、再びナムジンが現れる。


「お前が私の跡を継いでくれると思えばこそ、お父さんは頑張れるのだ」


 ナムジンはヴリエと天音の間にムリムリ割り込み、座卓についた。


「でも、父上、タケミナカタ…兄様って言うのかな?…、がいるのでしょう?」


「あやつはダメだと再三言っておろうが、」


 エリドゥはミスマルにそう言った。


「だって、今は私がヤシン家にいちゃダメだからどうしようかって話をしているのでしょ、だから私が出ていくって言ってんのよ」


 ミスマルは座卓の下に潜り込み、浩平の股の所から顔を出して浩平の前に陣取る。


「私、この人の妹になる。シタテルが嫁で私が妹。女の子になっちゃった以上、遅かれ早かれ家を出ることになるんだもん。お父様、良きに計らって」


「はあ?」


 ナムジンは語尾が上がる系の『はあ?』で答える。


「タケミナカタの事はともかく、ミスマルを一時的にしてもヤシン家から遠ざけるのは、ワシも賛成じゃ」


「エリドゥまで…、私から娘たちを奪うのか!」


「私、ちょっと前まで息子だったんだけどねえ、」


「あら、あなた、まだいるじゃない、私そっっっくりのかわいい娘さんがあと二人も…、元は女中さんだったんでしょ…、何て言いましたっけねぇ…、何てぇ名付けたんでしたっけねえあなたは…、」


 タキリは剣呑な顔でナムジンを睨む。


「『ヤガミ』と、『カムヤタテ』……、です…」


 脂汗を流しながらナムジンはあえぐように言う。


「生体タイプらしいわねぇ。あの子達の義体…。若くてぇピチピチした娘さん、良かったわねぇ、あなた…、立場を利用してさわり放題じゃない……、」


「あの、あのな、お母さん、子供たちの前で、その、あんまり、生々しい話は、……ねぇ」


「あなたが勝手に生々しくなってるだけでしょ! いいわ、いい機会だわ! 私もヤシン家出る! 出てやる! 太陽系を荒らす宇宙海賊になってやる!!」


 立ち上がり座卓越しにナムジンに掴みかかろうとするタキリ。


「ひぃぃー、ごめんなさい!」


 とうとうナムジンは、修羅場の最終形態、土下差フォームに移行するに至った。

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