こぼれる笑み
「ああ、まさか倒されずに負けるとはな。私ともあろうものが、油断したようだ」
広く暗い部屋の中、白黒頭の人形使いゼダ・カルプスは人形を組みあわせて作られた椅子に座り、頬杖をついている。
「しかしまったく、未来視というものをすべて信用するべきではないな。予め悪魔式を発動させておいて正解だった。まぁ、失敗したようだがな」
そう言って、時の一族との契約を思い出す。
「悪魔による死の収集、レイジの排除……同時にこなそうとしたのは失敗だったな」
「だが、王核持ちともあろうものが、あの体たらく、これならばあそこまで警戒せずに即殺しておけば……ふむ、次の現界時の課題だな」
ゼダはそう言って人形をひとつ操り、水が張られた鏡のようなものを手に取る。
「おい、この未来も見ていたのか?」
「——そんな訳があるか、突然連絡してきたと思えばそんなことか」
鏡面に髪のない老人の顔が浮かぶ。
老人はシワの多い顔をグニャリと曲げてゼダに異を唱える。
「儂の未来視ではまずあの小僧の存在が想定外だ。あやつは今回の計画後に殺すつもりじゃった」
「では、その後に見ていたものはなんだ。それでは悪魔式は発動したのだろう。貴様が言うにはそれすら失敗したのではないか」
「……それはもうひとつの誤算だ。リエンドが動いておった。貴様を使ったのが仇となったな」
それを聞くと、ゼダは盛大に口を開け笑い始めた。
老人は極めて不快そうに、それを見ている。
「なにがおかしい」
「いや、リエンドめ、あれほどの実力差を見せつけてやったというのに、まだ私を血眼になって探していたのかと思うと、笑いが止まらん」
「人形のためといって、国を敵に回すからじゃろう。狙われるに十分のクズじゃぞ、貴様は」
老人が呆れたようにものを言うと、ゼダはニヤけた顔のままそれを見つめた。
「そんなクズと契約してまで死を集め、一個人に執着するなんて、貴様も大概だなぁ?」
「黙れ羽虫が。たかだか1000年生きた程度で悟ったようになるなよ」
「長い年月も貴様の見識を深めるには至らなかったのだなぁ? 時の一族の長殿?」
両者の間に冷やかな沈黙が過ぎていく。
やがて、ゼダが鼻を鳴らした。
「まぁよそうじゃないか。時間はまだあるだろう? それに……私の実験が予想外の個体を生み出したからな。あれはまだ放っておいた方が面白い」
「ああ、それのことならば、あれにも契約を持ちかけるつもりだ。異常者が食いつくのか定かではないがな」
「それなら安心しろ。あれは案外扱いやすい」
「そうか、まぁいい。こんなくだらない事を話すために呼んだのか? 儂はもう行く。他の駒を動かす時だ」
そう言って水面が揺れる。後にはただの水しか残っていない。
ゼダは椅子の背もたれによりかかると、口元を片手で押さえた。
「クク……急いで現界の支度をせねばな」
ゼダはそう言って人形の体を撫でた。
ひとまず一章終わりです。




