あるエピローグ、あるいはプロローグ
◆場面切り替え
◇回想、その他
◆
「あれが、生き延びたか」
白髪に青い目をした老人が、その赤く染まった大地を見据えている。
手を伸ばそうとするも、これ以上の干渉は不可能だった。世界に拒まれるように、その体の自由は奪われ、元居た世界へと引き戻される。
「だが、今回で終わりだ。一度は失敗したが、もう終わりを避けることは叶わない」
男からは感情を感じない、一切の光もない、深淵のように深く死んだ瞳は燃え盛る赤色を反射しても熱を感じない。
ただ一点、日常という言葉にだけは小さく燻るなにかが疼いていた。
「それまでは束の間の日常を楽しむといい」
宙にぽっかりと空いた穴はその身体をすべて飲み込むと、静かに光の粒子を撒き散らしながら閉じていった。
◆(少女視点)
街が燃える。私達の育った街が、なんの前触れもなく、跡形もなく燃え尽き消えていく。
横たわる私を見下ろしながら、彼が目を見開いている。
彼はこの結末をどう感じているだろう。どうして?なぜ自分がこんな目に?そんな疑問を浮かべたかもしれない。これが地獄だと、自分は矮小な存在なのだと、悟りを開いたかもしれない。
私の場合、どう思うのかと聞かれたら、「まぁこんなもんか」と思った。としか言えない。これまで生きてきて楽しいことも、辛いことも、どちらもたくさんあった。個人的には楽しかった思い出がいっぱいなのがうれしい。
でも、どこか現実味のないこの光景に、自分の死が近いことに、どこか納得してしまった。
これまでのそんな人生がこんな呆気なく終わってしまう。常に全力で生きてきたつもりだし、後悔はない。
ただ、人が死ぬ間際にどう思うかなんて知らないから、私がおかしいかどうかは分からないけれど、もう少し生きていたいと最初に思わなかったのはどうかなって……
あぁ、でも、ひとつだけ、これは私の未練と言えるのか。彼がこの結末にどう感じたかは分からなくてもいいけど、たったひとつでいいからこれだけは叶えたかったかな。
「ごめんね……約束、守れなくて」
ちょっと、泣かないでよ。せっかくひとつだけ絞り出した言葉なのに、珍しく私から謝ってあげたんだから。
正直、なんでこう考えるかは分からないけれど、彼はきっと生き延びる。そして、私のことは忘れて幸せになれる。不思議と確信できる。
だから……
「あなたの時間を……大切にね」
やればできるものね……二言目が出た。ひとつだけの言葉が薄まってしまったかしら。これが呪いとなってもいい、むしろそうあって欲しい。私を忘れても、私の呪いは彼に残ってほしい。
「——」
彼が何を言っているのかもう私の耳には届かない。生憎と読唇術は修めていない。なんなら目だってボヤけてきてるし、もう意識を保つのが難しい。あぁ、死ぬのは怖くないけど、生きてはいたかったな。
………………やっぱり、彼より先には死にたくなかった——
◇
——少女の鼓動はもう聞こえない。星のように綺麗な瞳も、彼に向けたあの眩しい笑顔も、からかうような言動も、全てが輝きを失い彼女のその生涯は幕を下ろした。
少年はこの先、この終わりと始まりの日を思い出すことはあるのだろうか。ただ言えることは彼女の呪いだけは心に残り続けたということだ。
第一章はひとまず毎日投稿しますが、その後は不定期になると思います。




