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慢心

「ここか………」


樹林を進む精鋭隊はようやく更地を発見した。この道を西に進むことで悪魔達の群れを発見できると踏んでいた。そしてこの付近に綾小路もいる筈だ。


「ここを西に進む。全員ここからは用心しろ。奴らがいつ来てもいいように武器を構えておけ」


西園寺指導の元、一団は歩みを進める。更地には巨大な足跡がいくつも残っていた。人間の足裏と類似していることから恐らくゴリラのものだと分かる。


「西園寺さん、その2体の悪魔の詳細を教えてください」


不知火がこの先に待ち受けるであろう悪魔達の情報を聞き出す。


「4腕のゴリラは近くにいれば気付くだろう。全長はここの大樹よりもでかい。そして明らかに近接だ、動きも速かった。もう1体は鹿骨の人型悪魔だ。全長は約5mくらいで攻撃手段は槍だ。近接と遠距離を使い分けていた。そして知性があるのは恐らくコイツだけ、ゴリラの動きは単純だ」


「それは厄介ですね」


不知火は純粋な感想を漏らす。どちらも近接だったり遠距離だった場合はもっと戦いやすかった筈だ。それが今回のような近接と遠距離が揃っている場合はそれだけで連携が取れてしまう。しかも運悪くも知性持ちが遠距離の方なのだ。


「それでも4年前と比べればこんなもん朝飯前だ」


橘からしてみればこれも所詮A級ゲートの延長戦だった。彼女はゲートをS級ゲートとその他という区分でしか捉えていない。


そんなことを話ながらも一団は不自然に開けた広場に差し掛かったところで足を止めた。


「どういうことだ………」


踏み荒らした更地と足跡はここで止まっていた。そして奴らの姿はない。そうすると奴らは一団が道を見つける前に東側の砂漠方面へと向かっていたことになる。


「奴らの捜索は後だ。綾小路を先に見つける!」


西園寺は悪魔の討伐よりも仲間の捜索を優先させた。そしてそれに異を唱えるものは当然ながら誰一人として居なかった。


「手掛かりもありませんね」


それから周辺を隈無く探すが彼の姿はなかった。それどころか足跡一つ見当たらない。


「もうここにはいないのかもしれない。更に南へ進むぞ」


綾小路が遭難時の集合場所である南端へ進んでいると踏んだ一団は更に南下した。


「………………………」


不知火が捜索を諦めて立ち去ろうとしたその時、何か違和感を感じる。しかし辺りを見渡すが何もおかしなことは起きていない。


でも確かに一瞬だけ感じた、言葉で形容し難い何かを。


「不知火、行くぞ」


「……はい」


しかし結局何だったのか分からないまま彼女はその場を後にした。数歩先に彼がいることなど知る由も無かった。















時間軸にして不知火が立ち去ったその瞬間、死闘は終幕を迎えようとしていた。散り花に囲まれて2輪の丹花が花開く。


片方は身体が血で染まり、もう片方は花々の生命力を奪い取って紅蓮の輝きを放っている。


そもそも領域を作り出す理由とは。膨大な魔力を必要としながらもそのメリットは外界から姿を隠すことだけなのか。


否、そうではない。悪魔は何時だって殺戮に飢え、血に飢えている。それ故に領域形成にはあるメリットがあった。


それは身体的、魔力的なバフである。領域内では術者に力が与えられる。そしてこの悪魔は領域内に魔力を充満させることで常にバフの恩恵を受けていたのだ。


しかしこの終盤になって領域内のバフを全て喰らい尽くす程の一撃を繰り出そうとしていた。この一瞬だけは火達磨の魔力量を上回っていた。





「さらばだ」


その声が耳に届いた時には既に奴の姿は無かった。俺の目には移動というより消えたように映った。


奴の姿を目で捉えきることが出来なかった。しかしここまで奴と拳を交えてきたことで身体だけは反射する。


目で追えないだけで身体は捉えきっている。これまでの奴の攻撃パターンを考えると必然と次の位置が絞り出される。


俺は身を捻り、背後に右足を蹴り上げる。間違いなくこれまでで最速の蹴りは奴の腹部を捉えていた。







捉えた筈の奴の姿が揺らぐ。珈琲をかき混ぜた時のように奴の姿が崩れていく。俺が捉えたのは奴の残像であった。


直後、腹部から鎌が突け出てくる。更に背後に回った奴は俺の腹部を鎌で貫通させていた。血が染みだし、鈍い痛みが込み上げてくる。


「あぁっ…………………」


叫びだそうとしたが声を上げようとした瞬間気絶しそうな程の激痛が腹を駆ける。奴は貫通した鎌を回転させて更に穴を広げていく。


「あ……あっあぁぁ……」


口をあんぐり開けることしか出来ない。いやらしくも鎌には無数の尖った凹凸があった。それが触れる度に激痛が駆け巡る。


「最後に言い残したことはあるか」


耳元に口を近づけた悪魔は俺に遺言を訪ねる。


「…………」


俺は思わず失笑する。


「もうダメか」


正気を保てなくなったと判断した奴は耳元から顔を離そうとする。次の瞬間、俺は奴の離れゆく頭を鷲掴みにして一言呟く


「………最後に油断したな」


その瞬間奴が俺の手を振りほどこうとするが時既に遅し。










『スワップケープ』

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