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悪魔横断

婆娑羅一団は蜘蛛との戦闘を終え、北上を続けていた。蜘蛛との戦闘で負傷者は居らず、その後も数体のキキと交戦したが難なく突破した。


そして先程から道すがら悪魔に注意しながらもあるものに目を光らせていた。


「ありました橘さん!」


草むらにしゃがみこんでいた男が叫ぶ。喜ぶ男の右手には紫に輝く宝石が


「またか」


橘の懐は既にパンパンに膨らんでいた


「なんでこんなに魔核があんだか」


彼女達が集めていたのは魔核と呼ばれる悪魔の構成因子の塊だった。武器や防具に使われるため悪魔討伐後に持ち帰るのが基本だが、何故こんなに落ちているのか分からない


悪魔同士が争うことは基本無いのだが、魔核の側には決まって悪魔の死骸も転がっていた。それを見るに殺したのは明らかに人ではない。 この食い散らかし具合から見ても明らかに悪魔だ。


「止まれ」


そんなことを考えていた橘は突如、何者かの気配を感じ取った。


ドンバコ


ドンバキバコ


ドンドンズズドンドン


その気配は爆音を轟かせて此方に近づいてきている。


「悪魔の接近だ、戦闘準備に入れ」


それぞれが武器を構え、陣形を成す。地面が鼓動し、木々がざわめく。彼女の額を一滴の汗が滴り落ちた時、ソイツは現れた。


「ウボォォォォォォォォォォォ」


縦横無尽に大木をなぎ倒しながら4腕のゴリラが姿を見せる。その背中には鹿骨を模した悪魔が股がっており、その後ろにフードを被った亡霊が続く。


その数は60体にも上り、仲間の顔に不安が見え隠れする。しかし、あろうことか奴らは此方に興味を示さず目の前を素通りした。


「な、なんだ」


橘ですらその奇行に困惑する。人間を襲わない悪魔なんて聞いたことがない。そして奴らが向かった先は


「あっちは……………西園寺達か」


此方を見向きもせずに猛進した悪魔達は黒薔薇ギルドの方向へ駆け出していった。


「お前達、加勢にいくぞ」


「ここを外れていいんですか」


「すぐ終わらせて戻ってくれば問題ない」


先程から西園寺達がいる東側から叫び声や爆発音などが聞こえてきていた。明らかに戦闘中な筈だ。そこに乱入されたら流石の五大ギルドでも対処しきれない。


「さっきの悪魔達を追う。恐らく黒薔薇は他の悪魔と戦闘中だ!今の奴らは私達が相手するぞ」


「分かりました!」


木々の合間を縫うようにして奴らの跡を追う。奴らの通った跡だけが更地と化しており、それが道標となる



「ウッポポウッポポウッポッポ…………」


「……………」




それは突然の邂逅だった。即席の道を横切るように現れた悪魔は此方の存在に気付き、歩みを止める。


此方も突然の悪魔との遭遇に身構えるが、その容貌を見て無意識に足を止めた。


手には槍を握り、顔には不思議なお面を嵌めている。更に身体中に歪な模様が刻まれている。お面には瞑った眼が彫られ、縁に草木が装飾されていた。


双方が睨み合う。ピクリとも動くこと無く時間だけが過ぎる中、先に仕掛けたのは婆娑羅だった。


ガーディアンの背後で魔術師が詠唱を始めると同時に前衛部隊が飛び出す。


「敵は4体!」


橘の太刀が駆ける。空気すらも両断する彼女の剣技は鞘から抜かれた次の瞬間には敵の首を捉えていた。


捉えた筈だった。だが肉の弾力と、骨の硬度を穿つ感触が伝わってこない。まるで煙の中で剣を振るうような手応えの無さ。


彼女の剣は確かに奴の首を断っていた。しかし、奴は霧散していた。まるで亡霊のように肉体が透過して風に吹かれて消えた。


「どうなって…………」


振り抜いた勢いのまま、後ろを振り向いた彼女が見たものは


「いつの間にこんなに………」


同じように空を切った仲間達が上を見上げる。そこには先程と同じ部族のような容貌の悪魔が分かるだけでも100はいた。


樹林の大木に腰を下ろして、無数の悪魔がハンターを囲み込む。


「ウポポッポッッッポポポ」


「ポポポポポポーーー」


「ウポッポウポッポポウッ」


「ポポウッポポポポポ」


まるで先住民が島に足を踏み入れた不届き者に威嚇するように樹林中にけたたましい叫び声が響く。


「やることは同じだ、いくぞ」


一刻も速く加勢に行きたい場面での厄介な悪魔との遭遇。望んでもない展開に沸き立つ苛立ちを太刀に乗せて橘は悪魔へと迫る。


下から振り上げるような軌道で悪魔を切り伏せる。しかし又しても奴の肉体は霧散して実体を捉えた手応えがない。


『ヘルズメテオ』


魔術師が両手を空にかざす。彼女達の手から放たれた火球は奴らを正確に狙い済ました。しかし直撃しても霧散してしまった。だが此方の攻撃を完全に看破しているにも関わらず奴等から攻撃を仕掛けてくる気配はない。


「ククク………」


カラクリに気付いた橘は1人失笑する。幾度となく本物を目にしてきた彼女からしてみれば"それ"はあまりに陳腐な出来だった。


「千影と比べるのも烏滸がましいなぁ」


そう口にした彼女は瞳に映る幻を完全否定する。虚構の世界はパズルのように剥がれ落ち、幻術が解ける。


一般的に幻術は中の者が幻術に掛かっていると自覚することで解けるものが殆どである。


「手厚いおもてなしどうも」


幻術から覚めた橘はそう告げる。悪魔は木の上から囲い込むように彼女を覗き込んでいた。状況は幻術中とあまり変わらない。


「どうしたよ、空想ではあんな余裕かましてたんになぁ」



違うのは奴等が異様に動揺しているということだけ。懐から取り出した煙草に火を灯した彼女は数的不利を前にこの日一番の昂りを覚えていた。

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