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運命の螺旋

俺はこの女性を見たことがある。ハンターに成りかけの頃、真澄さんが一枚の新聞の切り抜きを見せてくれた。その女性は日本一の魔術師だった。彼女はその女性に憧れて魔術師になったそうだ。


しかし日本一の魔術師は突如として姿を消した。今も行方は分からずじまいだ。


そのとき見た彼女が今、目の前で足を組んで椅子に腰掛けている。彼女の突然の失踪の原因が長い歳月をかけ、ようやく明かされる。


「会話が可能なようだな」


「この身体は便利だからな、会話くらい魔力を使わずとも可能だ」


女は俺との対話に応じる。


「その女性はお前が乗っ取ったのか」


「危うく死にかけたがな。懐かしいが実に哀れな女だった。奴の最後を教えてやろうか」


「結構だ」


「あろうことかこの私に幻術を解術され死んだのだ!あの女の断末魔は格別だったな」


奴は俺の拒絶を無視し、不知火千影の最後を愉しげに話す。


本来A級ゲートはS級ハンターA級ハンター問わず、15人以上の編成人数が必要だ。例えS級ハンターであったとしてもS級の魔術師がA級のボスに単独で勝利するようなことはあり得ない。


ガーディアンがいて、近接がいて、初めて後衛である魔術師が力を発揮するのだ。不知火千影であってもタフネスはC級ガーディアンといい勝負だろう。


そんな彼女は果敢にも3人でこいつに挑んだのだ。不知火千影を取り込む前がどんな姿だったのかは分からないが、幻術を破った1人は恐らく彼女だろう。


そして恐らく残り2人は扉の前にいた番人だ。天断ギルドの防具を着ていたことからも間違いない。


今現在目の前にいるのは不知火千影を象る悪魔。その実力は定かではないが乗っ取れるのが姿だけなんて事はないだろう。実際幻術に嵌まったばかりだ、不知火千影本人と戦う覚悟がないと勝てない相手だ。


一冊の本が書庫から抜け落ちたのを合図に殺し合いの火蓋が切って落とされる。俺は魔力を発散させ意識の無い2人を壁際に吹き飛ばした。


一瞬の油断も命取りになるこの状況で、奴から目を逸らすなど、まさに愚の骨頂。俺の首が飛んでいたかもしれない。


魔力量は調節したので骨折なんて事にはなっていないはずだ。今の衝撃で2人の幻術が解けることにも期待したがどうやら期待はずれだったようだ。


俺は即座に奴との距離を詰め、腰から雪陽花を抜く勢いそのままに首元を狙い打つ。奴はそれを最小限の動作で避けて俺の懐へ強烈な蹴りを打ち込む。


その瞬間、鉛のように重い衝撃が俺の腹部を駆け巡る。魔術師から繰り出される蹴りの威力ではない、このゲート内の悪魔、そして大気中に霧散した魔力、それら全てから吸収した魔力が蓄積され強化されているのだ。


謂わばオールマイティーなS級魔術師、不知火の完全上位互換だ。それでも臆することなく2度目の接近を試みる。


右の横大降りを顔面に目掛けて振るう。奴は今度も最小限の動作で回避するが、透かさず左手の雪陽花を手放し魔力媒体の念力を使う。


念力で奴の首を握りしめる。しかし奴は絞殺から逃れる素振りを見せず、手元を器用に動かしている。


「まさか」


俺は死を感知し咄嗟に左へ身を翻す。次の瞬間、奴の五指が蛇へと変わり俺がいた場所に噛みついていた。


S級魔術師の魔術は桁違いに早く発動モーションが恐ろしく洗練されていた。彼女は現役時代、1度も詠唱を行ったことがなく全ての魔術が無詠唱だったと言われている。そして日本中で唯一の四大魔術会得者である。


不知火は後方へ飛び退き一旦俺と距離を取った。対魔術系の悪魔では鉄則として距離を離してはならないことが知られている。腕利きの悪魔であるほど小さな隙から致命傷を与えてくるのだ。


俺は距離を詰めるように奴に飛び掛かるが、奴の方が一枚上手だった。


俺が飛び付いてくると予見して、魔力で空中に足場を形成し、こちらへ猛スピードで突っ込んできた。


俺は咄嗟に肘宛を顔の前で構えるが、がら空きの腹部へと凄絶なブローを貰う。


2度の腹部への衝撃で内蔵がダメージを負ってしまったようで口の中に血の味が染み渡る。一向に溜まらない雪陽花ゲージに苛立ちながらも俺は一旦方針を変更する。魔力を纏った拳を地面に叩きつけ奴との間に巨大な壁を形成する。


地面の隆起は螺旋階段への道を作り出し、俺はその道を駆け出す。片っ端から本を取り出していき、もの凄い速さでページをめくる。読んでいないのに内容が頭に流れ込んでくる不思議な感覚に襲われながらも魔術を発動させる。


『シェリアスペール』


階段を駆け上がりながら右手を奴に付き出す。指先が徐々に悴んでいき、巨大なつららが顕現し、奴目掛けて放たれる。


奴は飛び退くように避けるが地面で弾けたつららが奴の左足を氷結させて絡めとる。動きが止まった奴に上段から攻撃を畳み掛ける


『雷電 虚速』


2冊目の魔道書を放り投げ、天を仰ぐ。開け放たれた天より出でし一筋の落雷が奴を穿つ。速度という単次元では測定することの出来ない稲妻が神の指先から滴る時、大地に竜が降るだろう。しかし竜を食い殺す者が1人


奴は落雷の直撃を受けても尚立ち続けていた。


「私の書物を使うとは……………望み通り殺してやろう」


奴が壁に手を当てると書庫に扉が現れた。奴がその扉を引くと俺の半螺旋先に扉が顕現し開いた。


『アリュマージュ』


俺は3冊目の魔道書を読み終え、現れた不知火に青い火炎鳥を飛ばす。


『ロゼ・デトロワ』


奴の手には魔道書が握られており、火炎鳥は突如現れた狭間へと吸い込まれるように消えていった。そしてその狭間からカチカチになった火炎鳥が俺目掛けて宙を駆ける。


『シェリアスペール』


氷鳥につららを当てて相殺させた。書庫内に凍雪が霧散して一面白銀に染まる。視界が濁り奴の姿が見えない中、階段を駆けながら4冊目の魔道書を手にする。


『プリズンブレイク』


魔道書を使った魔術の攻防が続く。俺より先に奴の声が書庫内に響き渡った。それと同時に霧の向こうで金属の擦れる音がして、俺は不知火とは別の気配を察知する。気配の主は階段を下りて此方に近づいてくる。


歩く度に螺旋階段が上下に揺れる。霧からシルエットが現れ、気配の主が雄叫びをあげた。シルエットは俺の体躯を軽く凌駕するほどデカイ。


するとその時、霧から突如姿を現し、そいつは此方に飛び掛かってきた。


2本の角が頭皮を突き破り天へと伸び、身体は真っ赤に染まっている。左手には片口が異様に巨大化した鉄鎚が握られており、ミノタウロスを彷彿とさせるような容貌だ。


於上不葺御門(うえふかずのみかど) 三基』


古来から神域を造り出す鳥居は不届きものを許さない。飛び掛かってきた筋骨隆々のミノタウロスに三基の鳥居が降り注いだ。


咄嗟に放った魔術はミノタウロスを地面に拘束し、魔力を吸い上げる。だか、一基、二基と次第に鳥居が外されていく。そして三基目が外され、握られた大鉄鎚が俺を捉えた。


それと同時に不知火が俺の後ろの壁を隆起させた。隆起と鉄鎚に挟まれて俺の全身に重い激震が走る。

 

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