故人からのバトン
かつて都市に現れたアブソルゲートにはまだ続きがあった。当事者しか知らない続きが
一度目のアブソルゲートで先導者として活躍したS級ハンター。当時の天断ギルドトップとして見事現界を勝利に導いた立役者。
その名は不知火千影
日本国内の魔術師としてトップの座を不動のものとしていた彼女はボスを仕留めた張本人であった。今尚、天断が五大ギルドの1つとして名を馳せるのは彼女の存在があってこそだ。
その凄まじい魔力量は世界にも通用するほどだった。誰もが日本を導く魔術師の誕生に歓喜し、期待を寄せた。しかし彼女は突如として姿を消した。
そして彼女の活動履歴を追っていった結果、ある場所で彼女の消息が途絶えていたことがわかった。
それは町外れにあるホトトケ村という廃れた村であった。
彼女は天断ギルド内で小隊を組んでホトトケ村に発生したDゲートに潜入していたのだ。そしてその時も攻略班のみで編成人数は3人だった。平和の維持を信条にしていた彼女はゲートの等級関係なく余ったゲートに潜入した。
決して傲ること無く、相手に関係なく全力を振るう彼女の姿は彼女が多くの人から支持を受ける理由の1つでもあった。
ハンター統括本部から派遣されたハンターが現地に向かったところゲートブレイクの痕跡は見られず、確かに彼女率いる小隊はゲートをクリアしていた。
村の村長に話を聞いたところ確かにゲートから彼女達が出てくるところを見たという。
彼女の行方は分からないまま、人々の間では様々な噂が流れた。
海外に渡ってハンター活動をしている
ハンター統括本部によって干された
ホトトケ村には神隠しがいる
様々な憶測が流れたがどれもデタラメであった。
そして天断ギルドのトップが新任し、何時しか彼女の失踪は人々の記憶から薄れていった。誰も真実を知ること無く、知ろうともせず、彼女の存在は風化し磨耗した。
真実を知るのは小隊のメンバーであった彼女達だけである。
もし、2度目のアブソルゲートがそこで発生していたとしたら。何の因果か2度もアブソルゲートに遭遇していたとしたら
もし、アブソルゲートが進化して、外に流れる魔力量を操作できるだけでなく、完全に消すことができるとしたら
それ即ち、悪魔自身でゲートを閉じることができたとしたら
もしそれが、今尚続いていたとしたら
俺達はボーンフィッシュ擬きの群れを抜けて、屋敷へ入る。この先に待つ悪魔が放つ魔力に思わずむせ返ってしまう。
「悪魔は………………いないようですね」
友瀬はがらんとした屋敷内を見渡して悪魔が一体もいないことに疑問を抱く。そもそもここまで来て遭遇した悪魔が一種だけなのはおかしい。
これもここの主が関係しているのだろう。まるでこれ以上の侵入を拒むように直立する巨大な扉を見据えてそんな風に考える。
「進みましょう」
俺達は何もない部屋を横切るように扉まで一直線に進む。扉の両脇で佇むプレートアーマーを纏う2体の剣士は互いを見合うように配置されている
魔力は感じないので恐らく備品の類いだろう。そんなことを考え、扉の前で友瀬が魔術の詠唱を始めたそのとき
動く筈の無い剣士が俺達の3倍はある大剣を床に打ち付けた。
「っぶね!」
間一髪で2人に被さるようにして回避する。俺は振り返り、その巨躯を軋ませながら此方を覗き込む2体の戦士を見据える
俺達は即座に後方に退避し、奴らと距離をとる。戦士から魔力を感じないことから恐らく操られているはずだ。どうやらこの扉の奥の悪魔は俺達の侵入を拒んでいるようだ。それとも単なる暇潰しに過ぎないのか
目線は2体の傀儡を捉えたまま2人に声をかける。
「奴等から魔力を感じない。恐らくあのプレートアーマーの下に肉体は存在しないはずだ。だからダメージを与えるというよりはアーマーを剥がす感じで攻撃してくれ」
2人は頷いて、それぞれの武器を握りしめる。俺と須藤はそれぞれ2体の戦士に接近する。双剣では通りが悪そうなので大剣の振り下ろしを回避しつつ素手で鎧を引き剥がす。
胸の装甲を剥がすと中身が空洞になっていた。俺の予想は的中し、単なる操り人形だと判明する。
俺はその穴から戦士の体内に侵入し、体内の魔力操作を行う。胸の中心に全魔力を集約させるように意識を研ぎ澄まし、一瞬で体外へ魔力を押し出す。
俺の身体から黒霧が吹き出し、それと同時にプレートアーマーが俺を中心にして吹き飛んだ。
体内の魔力を一点に収束させる時の引力を逆に放出することで斥力へと転換させる。
内側から炸裂した戦士は人型を失い、装甲だけが地面に転がる。もう一体戦士と対峙した須藤のところへ向かおうとした時、詠唱を終えた友瀬が魔力を放出させる。
『ラスティードース』
友瀬が伸ばす両腕から放出された魔力は戦士の全身を霧上に覆い隠す。戦士の鎧がみるみる錆びていき赤茶色に染まる。動きが鈍くなり最終的にギコギコと不愉快な音を出して動かなくなった。
その場で立ち竦む戦士に須藤がハンマーで一振り叩き込むと、その一点から崩壊し始め床に大量の鎧が墜ちる。
「もう動き出したりしないっすよね」
須藤が恐る恐る装甲を蹴り飛ばすが再び動き出す気配はない。
須藤は自分が蹴り飛ばした鎧を見て違和感に気づく。
「何かこれ小さくなってないすか?」
俺と友瀬も鎧を拾い上げて鎧が小さくなっていることを確認する。
「本当だ」
「確かに縮んでますね」
俺が拾い上げたのは背中の装甲だったようで人間が装備できるようなサイズになっていた。そして装甲を裏返してみるとあることに気が付いた。
「これは……………」
何処かで見たことがある。だがそれが何処なのかが思い出せない。剣と翼が描かれたエンブレム。
「天断ギルドだ…………………………」
全ての点が線になった。しかし有り得ないことが証明されてしまった気がした




