最初の晩餐
巨大サークルセネピードがその異変に気付き始める。
先程まで鬱陶しいほど大量に転がっていたアンガンチュラの亡骸が"ジュ"という音と共に地面に溶けるように沈んで消えていく。
上から吊るされていたアンガンチュラクイーンも同様にボロボロと崩壊していく。
それと時を同じくして、壁に叩きつけた筈の人間が立ち上がった。
確かに潰したはずの右半身の骨と筋肉が内側から再構築されている最中であった。
骨が作られ始め、生々しいあばら骨が剥き出しになる。そして骨を覆うように筋繊維一本一本が骨の回りに螺旋を描きながら紡がれる。
さらに、痛々しい赤が薄だいだい色の表皮で覆われた。その人ならざる光景に悪魔でありながらサークルセネピードは生まれて初めて恐怖感じた。
そして気付いたときには既に男が視界から消えていた。混乱や警戒よりも先に頭蓋に衝撃が走る。
なんだ
どうなってんだ
身体の再生にまだ理解が追い付かない。
『グラ』と口にした途端、周りの肉片が消えそれと同時に俺の疲労と外傷がみるみる内に回復した。
それだけではない、身体に力が少しも入らなかったのに、今は内側からはち切れんばかりの力みを感じる。
そして飢餓が消えた。
俺は大百足目掛けて跳躍する。自分でも制御しきれない力が踏み込んだ拍子に地面を陥没させた。ありえない速度で百足の頭の上まで辿りつい俺は、上から素手の拳を捻り込む。
その拳は頭の甲板を貫通した。緑の液体が噴水のように吹き出し、サークルセネピードは悲鳴を上げる。
だがこれで終わりではない。続けざまに片顎の先端を右手で持ち上げ左手で顎の付け根に拳を叩き込む。テコの原理で奴の左顎が折ることに成功した。
サークルセネピードが俺を振り払おうとするが、折れた顎の先端を奴の左眼球に突き刺す。
生態系のトップに君臨するために進化したサークルセネピードは再びそのトップの座から引きずり下ろされたのだ。
どこぞの百足を蹴落とし新たに人間が玉座にふんぞり返る。
頭を貫かれ、顎をへし折られ、その顎で眼球を潰されたサークルセネピードの右眼球から生気の色が消えた。からだの硬直が始まり、徹に切断された断面は生々しい赤から蒼白に変わる。
「殺したのか……………………」
無双。まさしくこの瞬間だけは俺の独壇場だった。漲る力は俺の破壊衝動を駆り立てそれをサークルセネピードへとぶつけさせた。
身体はこの変化に瞬時に対応してみせた。不思議とここに来る前よりも身体が軽い。
そして俺の推測が正しければ…………………
『グラ』
俺がそう呟くとサークルセネピードの死骸が地面に消えた。
やはりそうか、どうやら俺の身体は死骸を取り込むことで肉体を強化、回復出来るようだ。今、2度目の力の昂りを感じて確信した。
そしてあの日病院で夢にみた"あの光景"とも何か関係がありそうだな。
「藤森さん!」
俺は先に壁にめり込んだ藤森さんを横にして呼吸と意識を確認する。
「よかった………」
幸いにも呼吸出来ているようだが意識がなく非常に危険な状態だ。その時
「救援に駆け付けました!大丈夫ですか…………………」
突如扉が開かれ外からハンター統括支部の称号がついた装備に身を包んだハンター達がぞろぞろと入ってきた。
「あちらにもう一人重傷者がいます!」
複数のハンターが徹と藤森のところに駆け付け、ヒールの魔術をかける。
ヒールの魔術は上級魔術師しか使えないため今回のようなパーティーにはいるはずもないのだ。これが下級ダンジョンの痛いところでもある。
「貴方は何処か怪我などありませんか?」
「俺は大丈夫です、ありがとうございます」
「傑!無事だったんだな!」
秀が俺に駆け寄ってきてそう声をかける。
「二人のお陰だ」
「それにしてもこれ……………何がおきたんだよ」
扉を開いたハンター達の目に一番最初に写ったのは俺でも、藤森でも、徹でもない
敵の死体が、悪魔の死体がない不気味な空間だった。
その後、ハンター統括支部の人に事情聴取されて、イレギュラーな悪魔が出現したこと、そしてそいつらが進化を経た悪魔であろうこと、
そしてそいつらを徹が魔操剣術オットンで焼き払ったこと、そう歪曲して伝えた。
D級ゲートで事故発生
・重傷者2名
・その他16名全員軽症
・ダンジョン内で変異型モンスターを観測
翌日から全国放送で大々的にこの事件が報道されるようになった




