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崩壊

 核戦争勃発から一ヶ月。

 平和な日常は次第に錆ついていった。

 核戦争によってA国とB国は甚大の被害を受けた。どちらも大国であるが国土の半分が人が住めない程、放射能に汚染された。

 両国合わせて死者は軽く二億人を超えた。だが、滞留する放射能や後遺症、日照不足や食料不足によって死者数は倍以上に膨れ上がるだろうと言われている。

 核戦争の直接の被害を受けていない日本だが最早、対岸の火事とは言えなかった。

 両国は日本にとって大きな影響を与えていた国であり、貿易国。

 放射能に汚染されたものなど取引することなどできず、大前提として両国とも他の国家に数少ない物資を渡したがらないことから全てを自国で賄わなければならない。

 食料自給率が低い日本にとっては致命的な問題であった。

 その結果、食品は不足し、物価は急上昇。貧富の差が格段に広がり、窃盗等の犯罪行為が急増し、治安が悪化。

 大した政策を打ち出さない政府に対し、一部の国民が大規模なデモを行った。

 全国の主要都市で行われ、その総数一千万人。

 しかし、最悪のタイミングだった。

 B国で爆発した核爆弾の放射能が風によって日本に飛来したのだ。

 その結果、デモ参加者の殆どが大量に被ばく。病院が一気にひっ迫し、医療崩壊を起こした。

 当初こそは何とか対応できた病院も貿易が断絶した状況では次第に薬等が不足していった。技術はあっても物資はないことで助けられる命も助けられなくなり、多数の死者を出す結果になった。

 また、飛来した放射能により、農作物に甚大な被害を出し、まともに食せる物ではなかった。

 A国とB国程の急速な被害ではないがゆっくりと確実に破滅に向かっている。


「なんか……嫌な世界」


 光は公園のベンチでぼぉっと


「うわぁ、保谷光じゃねぇか」


 背後から聞きたくない声が聞こえてきた。

 ゆっくりと振り返るとそこには光をイジメて男子生徒四人組がいた。


「……何?」


「学校サボるとか劣等生らしいねぇ」


 光は溜息を吐く。

 こんな世界だ。未来なんて間もなくなくなるのだからどうせ学校に行ったところで意味なんてない。

 それに行き場のない不安を吐き捨てるようにいじめっ子達は光を激しいイジメを行う。

 だから、最近は学校に行かず、公園で適当に本でも読んで時間を潰している。


「それが言いたいだけ?」


 不安の捌け口になるつもりはない。

 光はイジメっこ達を無視して、去ろうとした時だ。


「無視すんじゃねぇよ!」


 イジメっこ達は四人同時に光を押し倒した。


「な、何をするの!」


「おい、何か食い物はないのかよ!」


「な、ないよ!」


 物価の急上昇や個数制限のおかげで誰もが満腹に、満足に食べられない状況。

 特に成長期の子供には非常に厳しい。

 給食も戦争前に比べて貧相になり、おかわりも禁止になっている。

 イジメっこ達も以前に痩せこけているうえに押し倒す力も以前よりも弱くなっている。

 弱くなっているとは同じく満足に栄養を摂れていない少女を押し倒し、身動きを封じる力はある。


「お前、顔だけはいいよな」


 イジメっこ達の顔がまるで飢えた獣のような恐ろしいものへと変わる。

 光の背筋に悪寒が走る。

 こんな絶望的な状況。治安も悪化し、警察も主要都市の警備や取り締まり、暴徒の鎮圧でこの辺境の街まで手が回っていない。

 その為、窃盗、殺人等の犯罪を犯しても、逮捕に至らない場合も少なくない。

 その犯罪には性的暴行も含まれる。


「いやっ! 駄目!」


「うるせぇ! 死ぬ前に童貞くらい捨てさせろ!」


 光に制服を掴むと、無理矢理脱がせる。いや、引きちぎったという方が適切だ。

 無理矢理開けられた制服のボタンは弾け飛び、地面に転がる。

 脚をばたつかせるせてスカートを死守するが、男四人を相手に少女一人ではどうにもできず、あえなく脱がされ、純白の下着が白日の下に晒される。

 Yシャツは理性を失い、悪魔と化したイジメっこ達の力によってまるで紙のように簡単に引きちぎられる。


「お前みたいなダメ人間は肉便器がお似合いだ」


「やだっ! 離してぇ! いやぁぁぁぁ!」


「役割があるだけマシだと思えよ!」


 激しく抵抗する光を黙らせようとイジメっこの一人が光の頬を平手打ちして黙らせる。

 

「やだ! 誰か助けてぇ! 助けてよ!」


 必死に助けを求め、喉が擦り切れる程の叫びを上げる。

 しかし、光が見る限り、周囲には誰もいない。

 光は絶望した。


「へへっ! 御開帳!」


 いよいよ、光のパンツに手をかけて、ゆっくりと脱がせていく。

 光の顔は涙と涎で酷く汚れていた。

 とんでもない醜態だが、好きでもない男にレイプされることに比べれば余程マシだった。

 嫌だ。道具のように、ボロ雑巾のように扱われたくない。私は人間だ。どんなに劣っていても人間だ。

 

「君達、何をやっているのかなぁ」


 下着を下ろされ、秘部が露わになった時だ。

 誰かがいじめっ子達の集団に声をかける。


「何だよ。あんたも混じり……」


 イジメっこの一人が振り返った瞬間。


「が……はぁ!」


 聞くに堪えない呻き声を上げて、仰向けに倒れる。


「ひ、ひぃ!」


 他の三人は倒れた少年を見て、頬を引きつらせる。

 倒れた少年の喉元にはナイフが突き刺さっていた。


「女の子をレイプしようとしているくせに驚くのかい? こんなご時世だ。殺そうが犯そうが別に構わないとでも思っているだろうに」


 そう言いながら、金髪の少年は倒れた少年の喉元に刺さったナイフを抜く。

 抜いた箇所から噴水のように勢いよく血が噴き出る。


「な、何なんだこいつ!」


「そこをどけぇぇぇ!」


 金髪の少年に怯えるイジメっこ達の横から光の求めていた男が現れる。

 全速力で駆けるロウはイジメっこの一人の顔面に強烈なとび膝蹴りをかます。

 蹴りを受けた少年は後方に吹っ飛ぶ。


「光! 大丈夫か!」


「お兄ちゃん!」


 ロウは咄嗟に上着を脱ぎ、光の体を隠す。


「ありがとう……私……」


「大丈夫だ。もう、安心していい」


 最愛の兄が助けに来てくれたことの喜びと恐怖から解き放たれた安心から光から大量の涙が溢れる。

 ロウは柔らかい笑みを浮かべて、光をそっと抱き締める。


「く、逃げろ!」


「逃がさない」


 死を前にした二人の少年たちは全速力で走り出す。

 しかし、金髪の少年の執念は異常だった。

 逃げる少年達を容赦なく、追いかける。

 そして、捕まえると喉を切って、絶命させる。

 余すことなく二人とも。


「あとは……」


 二人を殺したあと、ロウに蹴られて気を失う少年の元に行き、首を掴む。

 そして、ロウに元に迫る。


「キリヤ……やりすぎだろ」


「生かしておけば報復される」


 金髪の少年こと、綾波キリヤは人を殺してもなお、動揺することなく淡々としている。

 それどころか、


「お前……殺すか」


 ロウに人殺しを勧める始末。


「お兄ちゃん?」


「……俺はできない」


「慣れておいた方がいいぞ」


「でも……」


「ロウ。お前は甘いよ。いずれ、優しさや気遣いなんていらない世界になる。生きる為に誰かを殺すのが当たり前になる」


 ロウは嫌そうに顔を背けると、キリヤは「そうか」と呟き、少年の喉元をナイフで裂いた。

 いくら自分を犯そうとした人間とは言え、目の前で呆気なく殺される様を見て、光はゾッとした。


「……すまない。お前にだけ手を汚させて……」


「お前のそういうところ、大好きだぜ。親友の関係はまだ継続だな」


 キリヤは不敵な笑みを浮かべた。

 

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