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殺害

注意です

核戦争後の世界観は自分の妄想ですので、リアリティに欠けるなどのツッコミは控えて欲しいです。

取材なしでは無理がある。

 レイプ未遂から約一週間が経った。

 光はいつものように公園でぼうっとしていた。

 先週、この公園でいじめっ子達が殺された。ロウの親友によって。

 あの後、光は綾波キリヤと少しだけ会話をしたが、社交性もあり、気も効かせることができるいい人であった。

 一見すればまともだからこそ、関心な時に躊躇なく人を殺せるのが恐ろしい。

 そんな凶悪な人間と兄が何事となくつるんでいるのが恐ろしい。


「お兄ちゃん……どうしたんだろう」


 最近、兄の帰宅時間が遅い。

 キリヤ曰く、人には言えないバイトをしているらしい。

 それで金や食料を調達しているとのこと。

 兄が手の届かない場所にいると思うと恐ろしかった。

 二度と帰ってこないのではと龍理由もある。

 一番は変化した考えだ。

 光を助けた時、キリヤはいじめっ子の一人をロウに殺させようとしたが、ロウは躊躇っていた。

 しかし、大前提としてキリヤが人を殺すことを咎めてはいなかった。

 それどころかキリヤにだけ殺人させていることを謝っていた。あの言い方だと、いずれはキリヤと同じように殺人を犯すような気がした。

 殺人を肯定し、覚悟さえ決まればやる。

 優しい兄とは思えない雰囲気にまるで別人と話している気がしてならなかった。

 無論、この世界でまともな生き方はできない。

 常識を踏み外さなくては明日も迎えられないということをロウは理解しているのだろう。


「……嫌な世界」


 核戦争が始まった当初、世界が終わると喜んだ自分が愚かだったと後悔した。

 そんなことを思いながら家へと帰った。

 この落ちゆくご時世の為、部外者が入らないように鍵を忘れずに閉める。


「その話は本当なの!?」


 リビングから母の歓喜の声が聞こえてくる。

 何の話をしているのだろうと光は聞き耳を立てる。


「あぁ。何とか知り合いの政治家に交渉して、シェルターに避難できるようにしてもらった」


「あぁ、私達は生きられるのね」


 光は驚いた。

 父が上場企業の社長だと知っていたが、まさか政治家とコネクションを持っていたとは。

 ここ最近、他国で舞い上がった放射能は全世界の空を覆い、向こう数年は太陽は顔を出さないだろうと言われている。

 日差しの無い地球は作物は一切育たず、時より降るであろう黒い雨は大地と生物を蝕む為、いよいよ世界が終わるとされている。

 一部の特権階級の人間は秘密裏に建造した地下シェルターに逃げ込むのでは半ば都市伝説的な噂が流れていたが、まさか本当で、自分達の当事者とは思いもよらなかった。

 母親同様、光は喜んだ。

 これで生きられると。

 しかし、現実は非情だった。


「だが、全員は無理だ。二人までと言われた」


「そんな! あんまりよ!」


 天まで舞い上がった喜びはまるで神話のイカロスのように地面に墜落した。

 この時に察した。

 劣等な自分は選ばれないと。


「……僕は君とロウに入って欲しいと思っている」


「あなたはどうするの!?」


「私にはまだ地上でやることがある」


「いいえ、あなたが入ってください。私は地上で」


「そうか。もしそうなったら待っていてくれ。僕では不可能だが、ロウならきっと絶望に満ちた未来を変える力がある」


「えぇ。そうね。あの子は優秀ですもの」


 わかっている。

 ロウのように優れた人間が選ばれるのはわかる。

 自分のように劣った人間が選ばれないのもわかる。

 だが、まるで元々いない人間かのように話が進められていることに怒りが湧いた。

 確かにロウは優秀だ。

 でも、そんなに自分の存在は汚点なのか。野垂れ死んでもいいと思われているくらい愛されていないのか。

 私はここにいる。この世界で生きている。

 目の前で殺されたいじめっ子達の最期がフラッシュバックする。

 死ぬのが怖い。

 死にたくない。

 苦しんで死にたくない。

 死への恐怖が光の感情を沸騰させた。

 

「なんで!!」


 光は思わず、乱暴に扉を開け、リビングへと突入する。


「光!?」


「私はシェルターに入っちゃいけないの!?」


「…………」


「何か言ってよ!」


「違う……違うんだ!」


「だったら、何で私が話題に上がらないの!? 誰よりも劣っているから!? 何にも価値がないから!? 私だって好きでこんなの劣っているわけじゃないの!!」


光の言葉に両親は気まずそうに俯くだけであった。

 無言こそが光の言葉を肯定し、生き残るに値しない命であることを決定づけてしまった。

 光にとってはわかりきっていた事実。

 だが、実の親からその事実を突きつけられて、受け止められる子供などこの世界にはいない。


「……ごめんなさい。光」


「……ふざけるな!! ふざけるな!!」


 母親の謝罪が光の理性を切った。

 申し訳ない。だから、死んでくれ。

 実の親に遠回しに死んでくれと言われ、光の怒りは爆発した。

 キッチンに向かって駆け出し、棚から包丁を取り出す。 


「そうだ!! パパとママが死ねばお兄ちゃんと私で二人になるね!! そうすれば……そうすれば!!」


「光!? やめなさい!」


「そうだ! 僕達は……そんな子に育てたつもりはない!」


「被害者面しないでよ!! 散々、無視して!! 罵倒して!! 殺されそうになったら親面して!!」


 ゆっくりと迫る光を前に両親達はまるで悪魔を見ているかのように恐怖で引きつった表情を浮かべている。

 光にとっては衝撃であった。

 戦争前は子供である光に母親はただ嫌味を言い、父親に関しては無視し、いない人間のように扱っていた。

 それが刃物を持ち、殺意を持って向かうだけで両親は光を娘として認識し、命乞いをする。

 いかに今までの自分に価値もなければ無害な存在だったか思い知った。

 自分は道端に存在する虫か何かかと錯覚した。

 そうか。両親にとって、自分は虫と同等な存在なのかと狂った理性は被害妄想を生んだ。


「違う……違う!! 私は……私は劣っていても、『人間』なの!!」


 光は心の奥底から叫び、父親に腹に飛びかかる。

 父の柔らかい腹に包丁が根本まで突き刺さる。

 光の頭上からうめき声が聞こえてくる。


「ひ、か……り」


 父は震える手で光の華奢な肩に手を置く。

 そして、突き飛ばそうとするが痛みのせいか、はたまた娘をここまで追い込んだことへの贖罪によるのか、父親は光を突き飛ばさず、そのままゆっくりと背中から倒れる。


「死ね!! 死ね!! 死ね!!」


 倒れた父の上に乗り、光は何度も包丁を突き刺す。

 実の親だろうと容赦せず。

 包丁を引き抜く度に血が噴き、光の体を赤く染めていく。


「お願い! 止めて!! 光ィ!」


 娘が愛する夫を刺し続ける様を見ていられず、母親は金きり声を上げ、涙を流しながら光を止めようとする。

 必死に体にしがみついて。

 だが、怒りに狂った光は激しく抵抗する。

 その最中に刃が運悪く母親の喉元を裂いた。


「あっ……!!」


 母親は喉元を両手で抑えるが手の隙間から勢いよく血が流れる。

 痛く、苦しそうに顔を引きつらせる。

 顔色も青ざめていに、最早死の運命は避けられない。


「……ママが悪いの……愛してくれなかったから!!」


「……そうね。ごめんなさい……私達が……あなたを……愛せなかったあまりに……」


 母親は怒りを見せなかった。

 見せたのは贖罪の意思。


「ロウと……二人で……生きて」


 最期に笑顔でそう言い残し、母親は呆気なく息絶えた。

 父親もとっくに息絶えている。

 リビングには異常な静けさと血の生臭さが漂っていた。


「やめて……やめて!! これじゃあ、まるで、私が!! 私が悪いみたいじゃん!!」


 包丁が床に落ちる。光は目を見開き、頭を抱えて、全てを吐き出すように叫んだ。

 確かに両親は自分を愛してくれていなかった。

 だが、最後に親らしい言動が光に生みの親を殺したという事実を十二分に突きつけた。

 光の心は音を立てて崩れ落ち、人としての心は死んだ。


◇◇◇


 太陽は落ち、世界は闇に落ちた。


「な、何だよ!」


 目の前に広がる惨状を目の当たりにし、ロウは絶句する。

 血だらけで息絶える両親。

 部屋の隅で蹲り赤く染まった光。


「ひか……光!? 大丈夫なのか!? おい、光!!」


 ロウは両親の突然に死に泣き叫びたかった。

 だが、今そんなことをしても両親は帰ってこない。

 それよりも生き残っている光の方が重要であった。


「パパ……ママ……」


「何が……あったか答えられるか?」


 光に意識があることを確認したロウは安堵の息を漏らす。


「オ……ニイ……チャン……イキ……」


「大丈夫だ。俺がいる! 俺は生きている」


 まるで子供のように片言で話す光を安心させようとロウは固く抱きしめる。

 両親が死んでかなりの精神的ショックを受け、幼児退行をしてしまったのだとロウは考えた。

 この状態では話を聞き出すのは不可能。


「だから、光。もう、安心してくれ」


 この滅亡寸前の世界。

 他人に家に入って強盗なんて当たり前のこと。両親にそれに巻き込まれたのだろう。

 だが、何も知らないロウは家の状況に妙な点が多いと考えた。強盗に入ったのなら主に食料のあるキッチンを中心に家の中が荒らされるはすが、特に荒らされた形跡はない。

 床には土足が上がったような土汚れもない。

 さらに玄関の鍵も閉まっていれば、窓を開けられた、割られた形跡は一切ない。

 この状況から推察すると犯人はご丁寧に靴を脱いで家に上がり、ただ両親を殺し、それからわざわざ鍵をかけて去っていたことなる。

 ふと、ロウは光を見つめる。

 そんなことができるのは光しかいない。血だらけなのも返り血を浴びたとすれば合点がいく。

 そう思わざる得なかった。

 しかし、その考えは頭の中から捨て去った。

 愛し、唯一生き残った妹を疑いたくなかった。それに何かしらの理由で両親を殺して、幼児退行する程の強いショックを受けるのは矛盾しているように思えた。

 

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