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黒の参号  作者: 凡仙狼のpeco


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第8節:厳戒警報、発令。

「ミツキ」


 司法局の入り口で、横を歩いていた井塚に声を掛けられて答えないでいたら、後頭部をど突かれた。


「痛ぇ! 司法局員が職場で人殴ったらあかんやろ!」

「どの口が言うんじゃ、アホが。Lタウンに近づくな言うたやろが」


 井塚は、事情聴取を終えた自分の息子に向かって溜息を吐いた。


「まぁ、ええわ。オメー、これで危ねぇって意味合いが、今と前じゃ違うってぇ事が分かったろ」


 ミツキは顔を伏せた。

 そんなミツキの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、井塚が言う。


「……友達(ツレ)は、残念やったなぁ」

「これで最後にするつもりやってん」


 ミツキは目を上げて、父親に言った。


「あいつら、知らんかったから。連絡したらもうあそこに居るってゆーてたし。やから、俺」

「分かっとる。……手遅れやったけど、それはオメーのせいちゃうねん」

「お(とん)。あいつ、何なん? 何で俺のツレを殺したんや?」


 井塚は、居たたまれない顔をして、しかし目は逸らさずにミツキに告げる。


「奴は参式(ザ・サード)。《黒の装殻》や。そんでオメーのツレは、襲来体(イミテイト)に擬態されとった」

「え?」


 ミツキは、目をまたたいた。


「襲来体って……昔、おとんが言うてたバケモンの事やろ?」

「せや。オメーのツレは、オメーに会う前にもう殺されとったんや」


 井塚は空を見上げた。

 朝の風は、秋口の涼しさを運んで来ている。


「言うてる間に、Lタウンは閉鎖される。また、バケモンとの戦いが始まるんや」

「親父は?」

「行くに決まってるやろ」

「何で!」


 ミツキは思わず言った。


「今度こそ死ぬかもせーへんねやろ!?」

「誰かがやらなあかんねん。ほっといたらヒデェ事になる。……昔みたいに、皆死んでまうような事にゃ、したらあかんねや」


 井塚の目は、息子を慈しむように柔らかかった。


「おかーちゃんに、しばらく帰れんて言うといてくれ」

「行かんといてや!」


 父の言葉に、ミツキは反発した。


「司法局には、他の、もっと強い奴いっぱいおるやろ!」

「人任せは性に合わんなぁ」


 井塚は豪快に笑った。


「心配すんなや。俺、結構強いで。それにな、お前らが安心して暮らせるようにすんのが、俺の仕事やねんや。母ちゃん、頼むで」


 ぽん、と息子の肩を叩いて、井塚は司法局に足を向けた。


「おとん!」

「今日の怖ぇ事は全部忘れてまえ。死んだツレの事だけ覚えてりゃええ。学校サボんなよ!」


 見送るミツキに目を向けずに手を振って、井塚は司法局に戻って行った。


※※※


 その日、大阪区全域に厳戒警報が発令された。


 大阪区司法局長の記者会見で、内容の詳細が明かされる。

 Lタウン内部にてテロリスト、黒の装殻(シェルベイル)参式(ザ・サード)の存在が確認された為、Lタウンの閉鎖が決定され、参式捕縛の為に司法局員を動員。

 事前に要請を受けていた、特殻(トッカク)がこれに合流したという情報は、全国区のニュースとして流れた。


 以前、フラスコルシティ司法局が黒の一号を取り逃がしている事に対する不信の声も上がったが、記者会見に同席していた特殻隊長の存在により、そうした声は少なかった。


 Lタウンの閉鎖は速やかに行われ、司法局は翌日より行動を開始する。


 ……襲来体出現という事実は、市民に対して完全に秘匿された。







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