温かな手
次の日は来て欲しくなくても、来てしまう。グラスはそっとベッドから抜け出て身支度をした。真っ先に向かったのは
「公爵!」
「なんだ……まだ早いぞ……」
そこには衣服が乱れた公爵の姿があった。
「公爵……」
「?」
「公爵ともあろうお方がなんて姿してるんですか!」
「……そう言われてもな。」
「ダメです!こうして!こうして!こうしないと!!」
「すぐに着替えるからいい……」
グラスは公爵がそう言うのも聞かずに公爵の服を整える。
「さ!これでバッチリです!」
「ありがとう。」
「いえいえ。」
「じゃあ、お休み。」
公爵が二度目の睡眠を取ろうとした時、グラスはそれを、全力で防ぐ。
「起きてください!じゃないと今日結婚する羽目になるんですよ?」
そういってアルトを強く揺らしてくる。
「わかった、わかった。」
公爵は仕方なく起きて身支度をすませる。
「それで、どうしたい?」
「へ?」
「お前が結婚を拒むのは意中の相手がいるからではないか?」
「ち、ちがいます!!」
「……そうか。なら、その男と逃げるかだな。」
「だ、だからちが、違います!」
グラスは必死に誤魔化すがそれは逆効果である。
「そうか……」
「……あ、あの!お母様の所へ行きませんか?」
「母様の所へ?どうして?」
「結婚式にお呼びしようかと……」
「はぁ、無理に決まっているだろう?だいたい連れてきたからといって結婚を破談にさせられないしいみないだろ?」
「そんなことありません!もうこうなったら結婚します!!」
「は?」
「だから、お母様にも見ていただこうと思います!!」
「……そう来たか……。」
公爵は頭を抱える。
「それでいいんだな?」
「はい!」
「……そう来るとは思っていなかった。外で待っていてくれ。」
そういって公爵は出かける準備をし始める。しばらく待つ。公爵が出てくる。
「準備できた。行くぞ。」
「はい。」
お忍びでスラム街へと向かう。たどり着くと何やら噂が聞こえてきた。
「ねぇ!聞いた?聖女が結婚するんですって!」
「ああ、聞いた!それも公爵らしいな。」
「聖女が結婚なんてして大丈夫なのかしら?」
「まあ、俺達の知ったこっちゃないけど、聖女も上のやつらと変わらない権力や地位、そして、金に目がくらんでるんだろうさ。」
「っ!」
グラスは早くそこを通り過ぎようとした。がんっ!
「?!」
大きな音が後ろでする。見ると前を歩いていたはずの公爵が噂していた男を蹴飛ばしていた。
「何をする!このガキ!」
「お前は何も分かっていない!聖女は、権力も、地位も、金にも目はくれなかった!取り消せ!!」
「ああ?ガキのくせに生意気なんだよ!」
男が公爵に殴りかかろうとする。だが、公爵は難なくそれを避ける。
「いいぞ、手合わせは嫌いじゃない!」
「くそっ!」
男が再び公爵に殴りかかろうとした時だった。
「ストップ!!そこまで!!」
2人の間にグラスが割って入った。
「なんだよ!今度は女か?!」
「……」
男は不満げにそういう。公爵は押し黙った。
「これ以上するなら王国軍に通報します!」
「「!」」
「ちっ……」
男は舌打ちすると何事も無かったかのように去っていった。
「こう、……アルトくん。怪我はない?」
「?!あ、いや、大丈夫だ。」
「よかった。」
「あれぐらいなんでもない。私とて手合わせぐらいできる。」
「ダメです。危ないしなにより、目立ってしまう。」
「……一理あるな。」
「さあ、行きましょう。」
グラスはそっとアルトの手を取って歩く。
「!」
アルトは少し照れてそっぽを向いて歩いた。 その温かい手はいつかの幼い日の母の手に似ていたから。
「アルトくん。怒ってくれてありがとう。」
「礼には及ばない。」
そして、アルトの母の元に着いた。
「母様……」
「アルト?」
「はい、アルトです。」
アルトに気づくとアルトの母は小屋の外へと出てきてくれた。
「また来てくれたのね。」
「はい。」
「あ、貴方もまた来てくれたのね。聖女様。」
「あ、はい。」
「それで、今日へなんの用で?」
アルトは少し考えてからそれを口にした。
「母様の顔を見に来ただけですよ。」
「?!」
グラスは驚いた。公爵が嘘を言う理由がわからなかった。しばらく会話をしてから帰路についた。
「あの、どうして、嘘を?」
「……お前は私と結婚する気がないのだろ?だからああ言った。」
「そうですか。でも、今日結婚するんですよ?」
「……」
「アルトくん。」
「お前はもう諦めたのか?」
「……はい。」
「そうか。」
しばらく沈黙が続く。屋敷に帰ると使用人達が2人を探していた。
「ご主人様!聖女様も何処にいらっしゃったのですか?!」
執事長が半ば怒りながらそう問う。
「少しでていた。」
「さ、準備しますよ。」
「ささ、聖女様はこちらに……」
各々準備する為に連れていかれる。
「またな。」
「はい。」
そうして準備が整った。式場にてアルトと再開する。
「馬子にも衣装だな。」
「っ!それ褒めてませよ?!」
「はははっ!冗談だ。」
そうして、式が始まった。




