119 未来を見るべき人間
「そういえばナギサ様、僕を貫いた短剣はどこへ?」
俺からのすべてブーメランであるお説教が終わり、さあこの後はどうしようと頭を悩ませていたところ、セインくんから質問がきた。これは彼の立場からすれば当然の疑問だ。
「ん? この扇だよー。精霊王が持っている扇は、決まった回路で魔力を流せば短剣へと変化させられるんだよ」
「それは……すごいですね」
他にも、この扇は使い方がいくつかある。ひとつは魔力貯蔵庫、次に何でも破壊できる短剣。何でも、というのは流す魔力量による。今回は結構多めに流したから、黒幕の精神干渉系の能力を破壊できたんだと思う。それから、俺の場合は表情を隠すために活用することもあるね。
納得したのか、それとも自分が首を突っ込んでも理解できないことだと思ったのか……自分から聞いておいて簡単な感想だけを残した彼に、今度は俺から質問をした。
「セインくんさぁ、黒幕の情報とか何か持ってないの?」
「はい」
「じゃあもう一回黒幕のところに送り込んであげようか。今度は俺のスパイとして。意外とバレないかもしれないよ?」
冗談交じりにそう言えば、彼は神妙な顔で何やら悩み始めた。その表情に嫌な予感がして、なぜだか俺の方が焦りを覚える。
セインくん、君さ……
「真に受けないでよ……?」
若干引き攣った笑みで言えば、彼は目をパチパチと瞬かせて首を傾げる。
「本気で言ったわけではないのですか?」
「逆になんでこれが本気だと思うわけ? 失礼だけど君の思考回路どうなってんの?」
本当に失礼だけど。俺に提案されたからといって、自ら敵陣に乗り込もうとするかな、普通。……いや、まあ俺ならするかもしれないけど。
でもセインくんは家族を人質に取られ、言われるがままに従うしかなかったんでしょ。裏社会で通用する力を何ひとつとして持たないのに、本当に黒幕の元へ送りこまれたなら、一体何をしてくれるつもりだったんだろうね。
「これで僕が殺されたとしても、何かしら情報を持ち帰ることが出来れば罪滅ぼしにはなるかなと思いまして」
「君はもっと自分の身を大切にしなよ」
「えっ……?」
「なに」
「いえ、ナギサ様がそれを言うのかと……」
俺が自分の身を大切にしていないと?
その通り、大事にしていないし最低限しかするつもりはないよ。
「俺のことはいいんだよ。それよりセインくん、さっきエリオットくんの蹴りを受けてたよね」
──この子は駄目だ。
罪悪感に苛まれている今なら、俺が言えばどんな無茶にも捨て身で向かって行くと思う。まともに会話をする気にもなれず、さっさと話題を切り替えた。
「そうですね。あれは本当に痛かったですし、今も痛みます。どこまでも自業自得ですけれど」
「君、かなり武に精通してるでしょ。強いのは前々から知っていたけど、体術なら俺やエリオットくんと互角なんじゃない?」
……いや、雅にはまだまだ及ばないかな。受け身を取るので精一杯って感じだったもんね。
雅を相手に、受け身を取れる時点で普通じゃないことを知りつつ、そのことからはあえて目を逸らした。
「将来とか決まってるの?」
「いいえ。僕は公爵家の人間ですが、次男なのである程度自由は利きますよ。それがどうかなさいました?」
「だよね。いや、セインくんって頭がいいから文官でも活躍しそうだけど、騎士の方が本領発揮できそうだなー、と。そのつもりはないの?」
「将来……については、まだあまり考えていないのですよ。人生何があるか分からないですし、その時にやりたいことをやるつもりなので」
あっ、意外とそういう考え方をするんだ。セインくんは用意周到というか、早くから人生計画でも決めていそうなくらい真面目だから予想外だった。
でもちゃんとこの先も生きることを考えているのなら、それだけで充分。『捨て身でスパイ計画』なんてものはさっさと没にしなよ。君は俺と違って、未来を見るべき人間なのだから。
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