114 いつまでも誇りに思う
◇
すぅ、と目が細められ、同時にいつもの笑みが消えた。
いつも以上に何を考えているのか分からない無表情。表情ひとつでどの系統にも見える顔立ちのナギサ様は、無表情だと少し冷酷な印象を覚えるのだとはじめて知りました。
彼の瞳はいつまでも見ていられるくらい、綺麗な深い青色をしています。遠い東の国では『なぎさ』という言葉には波が寄せる所、波打ち際という意味があるそうです。
自然を愛する精霊王に、海と同じ色の瞳を持つ彼に……前の生を海で終え、今度の生を海で始まったらしいナギサ様にぴったりで、とてもよく似合う名前だな、と彼の瞳に魅入られる度に思います。
「…………」
沈黙を貫き、深淵を覗くように僕の瞳を見つめるナギサ様。何を考えておられるのですか──なんて、僕が一番聞いてはならないこと。
本当に、どこまでも優しく慈悲深い方だと思います。筆頭公爵家の令息、そんな立場も精霊王様の前では無いようなものでしょう。
彼が心から愛してやまないアリス嬢、憎まれ口を叩きながらもなぜか兄のように接しているエリオット、我が子としても臣下としても慈しむべき存在の精霊様達。そんなナギサ様が懐に入れている方々に敵対しているかもしれない存在など、すぐにでも消してしまえばいいのに。
ナギサ様の手にかかれば単なる公爵家の令息である僕を殺すことは少しの手間でもないでしょうに。
「俺の父は──」
「……?」
いきなり何のお話でしょうか。どこか遠くを見ているようで、寂し気な、それでいて幸せそうな笑みを湛えているナギサ様。
「何も話さないなら俺の話を聞いてよ」
「は、はい」
「……俺の父上は、強い人だった。あらゆる面で国を背後から支えている家系の当主。ひとりの人間が抱えられる重圧の許容範囲を軽く超えていた。本当に辛かったと思う。だけどそんな素振りは見せなかったよ。それがどれだけ俺の心を救ってくれたか。父上は俺の憧れで、目標で、恩人だった。母上はそんな父さんのことを一番傍で支えていて、学べることが山のようで」
「…………」
「弟はまだ十二歳だったけど、兄である俺にいつも元気をくれたんだよねぇ。何をするにも全力で、いつまでも俺の背中を追いかけてくれた。あの子の目標でいられるなら、俺ももっと頑張ろうって思えたよ。……何があっても家族への愛が揺らぐことはないと、そう断言できる。父上も母上も、弟の直人くんも、本当に本当に大好きで大切だ。あの人達の家族でいられたことを誇りに思ってる」
……言葉の通り、本当に心から大好きで仕方ないのでしょうね。これは恐らくナギサ様が人間だった頃のお話。ナギサ様の闇の深さを見れば辛い過去があったのは聞くまでもありません。それでも家族を愛する気持ちは変わらない……
「だからさ。俺は、家族のために行動しようと思う気持ちは、痛いほど分かるんだよね」
「……そうですか」
「セインくん、ごめんね」
「?」
「今から君を、殺す」
「────……」
そう、ですね。それが最善だと僕も思います。だって今の僕はナギサ様の本当の友人でいられない。許しを請う気なんてありませんよ。だって僕は……大罪人。間違いなく、そう言える立場でしょうから。
家族の話をしている時の柔らかな雰囲気が、最強で最恐の名に相応しい圧倒的強者の風格へと変わった。
◇
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