第三話 私は誘拐されたようです
読んでいただきありがとうございます。
昨日は興が乗ってしまって、
少し遅くまで研究に没頭してしまった。
朝食の提供時間より少し遅れて食堂へと降りると、
寝坊した人や、食べ終わってゆっくりしている人達が
遠巻きに私を見ていた。
どうやら昨日の件が知れ渡ったようで。
苦手な視線を少しでも避けるため、
残り物の朝食を給仕から受け取ると、
共有テーブルの隅まで移動し食事を済ませることにする。
追い出されるまでの間は講義にも参加出来ない。
おかげで昼間はやる事が無いので、
昨日出来なかった私物の整理をしようと思う。
私物の整理が終われば、
後はする事がないので、研究に没頭出来るし。
別に悪い期間ではないのかなとの考えになった。
そそくさと食事を済ませて部屋に戻る。
早速、私物の整理をしたけど、
思った以上に自分の物がほとんどなかった。
服は下着類以外は制服で済ませていたし。
メイクもしないので化粧品の類いも持っていない。
辛うじて父様から譲り受けたクローネ家代々の指輪が、
唯一の手持ちのアクセサリーだった。
あとは子供の頃に母様から贈られたクマのぬいぐるみが、
女の子らしい私物と言えた。
改めて私って本当に貴族の子女かしらと、
自分自身が可笑しくて笑ってしまいそうになった。
合わせて、私物を整理してて思ったのが
流石に亡命時に制服は不味いかなとか、わりと、
どうでもいい事だった。
あとは昨日の実験で魔石を消費したので
補充しないといけないなとか、実験に使うハーブが
切れかけていたなとか、研究に対するものばかりだった。
今日の目標だった荷物の仕分けも終わったので、
する事がなくなってしまいこの後どうするかを考える。
無用の外出は控えろと言われていたので、
余り気乗りはしないが亡命時に服がないのは困るので、
仕方なく新しい服を買いに行く事にした。
決して、魔石やハーブを補充しに行くわけではないと、
誰にするでもない言い訳をする。
頭に浮かんだのは呆れ顔のルーシェだった。
…………そして、その結果がこれである。
我ながら認識が甘かったとしか言いようがない。
精々元婚約者様がネチネチと、
嫌がらせをしてくるくらいだと考えていた。
まさか真っ昼間から誘拐されるとは思ってもみなかった。
「影の薄さがこんな所で役立たなくてもいいのに……」
閉じこめられた部屋で独り言ちる。
後から睡眠薬を嗅がされたので誘拐犯は見ていない。
乱暴された後は無いのでそう言う目的ではないみたいだ、
そもそも、そう言う目的なら私なんかを攫わないだろうし。
そうなると、ルーシェが懸念していた何かだろう。
考えても分からない事はどうしようもない。
私は後ろ手に縛られた状態で
思考を脱出する為のものに切り替える。
監禁されていると言う事と、
わりと丁寧に私の事をを扱ってるので、
直ぐには殺すつもりはないのだろう。
婚約破棄され護衛が解かれた直後を狙って来たのだから、
計画的なものだとも考えられる。
そうなると、実行犯は複数人いる可能性が高い。
下手に動けば怪我をするので、
大人しく助けを待つのが正解だろうけど……
ルーシェが困った顔をして怒る姿が目に浮かぶ
出来れば彼が私の部屋に来るまでには、
脱出して部屋に戻りたい。
幸い誘拐犯達は魔術封じを施していない。
私が魔術を使えないことを知っているのか、
単純にこんな小娘が魔術を使えると思ってないのか?
恐らく前者だと思われるが、今は犯人探しより
脱出が優先だ、手を結んでいた縄に魔力を流す。
魔力を過剰に流された縄はボロボロと跡形もなく崩れる。
幸い窓から日の光が直接入ってきてるので、
壁さえ崩すことが出来ればこの建物から出れそうだった。
壁を縄を崩した要領で壊し建物から出る。
そこで完全に私の目論見の甘さが露見する。
外に出ても、そこは森の中だった。
日の位置からしてそう離れていない郊外だと思われるが、
はっきり言って、研究一筋の私は体力が相当無い。
時間までに森を抜けて街まで戻れる自信は全くなかった。
誘拐犯達に見つかれば元も子もないので、
魔力探知を使いながら辺りを警戒しながら森の中を進む。
途中で反応が増えてくる。
恐らく私が逃げたことがバレてしまったらしい。
まだ統制が取れていないようで、
まばらに動いているのが、せめてもの救いだ。
反応に近づかないようにしながら、
慣れない森の中を街に少しづつ近付く。
誘拐犯達も統制が取れてきたようで、
点在していた十人程が街への方向を塞ぐように動いた。
かく言う私は、草むらを這いずりながら移動していたが、
それも体力の限界で近場の木の根元まで何とかたどり着き、
少しでも体を休めるため木を背にもたれ掛かる。
魔力探知もいったん止め、体力回復に集中する。
最悪、見つかっても連れ戻されるだけで済むだろう、
腹癒せで多少痛めつけられるかもしれないけど。
日が沈みはじめ、夕刻に差し掛かる頃。
そろそろルーシェも気付いて探し始めてるかな?
淡い期待を込めて魔力の塊を打ち上げる。
それにより、周囲に気付かれる可能性もある。
私の残りの体力を考えると包囲をかい潜って、
街に戻るのは難しいため、賭けに出てみた。
どちらが早く私を見つけるかの………
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