■18話 夏祭りにて
夏祭り当日。夕暮れに染まる空の下、シーエたち六人は出店が立ち並ぶ路地の入り口で待ち合わせていた。
大きな祭りではない。それでも浴衣姿の人々で辺りは賑わい、屋台から漂う香ばしい匂いと楽しげな笑い声が夏の空気を彩っている。晴れてくれて、本当に良かった。
集まった六人は、男子三人に女子三人。そして全員が、それぞれ思い思いの浴衣姿。
今夜は夏祭りを思いきり楽しむ――そんな気合いが、誰の表情からも伝わってきている。
ヒデオ
「眼福眼福~」
シーエ
「へへへ! どうだ似合うだろ?」
ササキ
「見た目だけは可愛らしいですね」
シーエ
「見た目だけってなに!?」
ササキはシーエの行動原理、つまりはキモい生き物としての自分を実感するために多くの男と寝ているという事実を知って以降、シーエの事を可愛らしい女子としては認識していなかった。良い友人としては認識しているようだが。
ミカド
「浴衣を着るのは初めてでの……似合っておるか?」
ヒデオ
「エッチだよ!」
ミカド
「それは似合ってると言えるのか!?」
ミカドはイギリス出身で、浴衣を身にまとうのは初めての模様。立ち振る舞いはぎこちないが、だからこそ醸し出される魅力があふれている。
アルビ
「この浴衣、どうかな……?」
エムジ
「凄い似合ってるぞ。綺麗だ」
アルビ
「え!? エムジそういうの解らないんじゃ……」
エムジから反応が来てアルビは驚く。一番そう言う事からは縁遠いと思っていた。
エムジ
「性的な事は解らない。ただ俺だって羽ばたく蝶が美しいと思う事は出来る。今日のアルビは蝶みたいでとてもきれいだよ。袖浴衣の綺麗な模様と、長い袖がひらひら動く様が優雅に舞う蝶みたいでとてもきれいだ」
アルビ
「……!?!?」
顔が真っ赤になるのを隠せない。好きだと認識してしまった男性から褒められる。嬉しくない訳がない。
シーエ
「ウチはー?」
エムジ
「蛾だな」
シーエ
「それはそれでキモくて興奮する!! 蛾は触覚が良いよねー。ちなみに蛾と蝶は生物学的には特に区別されてない生き物だよ」
ミカド
「そうなのか?」
シーエ
「うん。一般的には触覚の形や活動時間でなんとなく区別されてるけど、どちらも学問ではひとくくりにされてる」
ドキドキしていたアルビも、シーエの平常運転で少し回復する。こいつはどこまで行っても生き物の話しかしない。
そして改めてエムジを見る。浴衣姿が様になっていてカッコいい。エムジは老け顔だから、学生服よりもこちらの方が似合う気がする。性の話題についていけないだけで、ファッションに関しては普通に話せるのだろうか。
ササキ
「せっかく良いムードの話だったのにシーエさんのせいで台無しですね。私も今日のアルビさんは一段と美しいし可愛らしいと思いますよ」
ヒデオ
「それにエロいと思う!! 浴衣の下はノーパンかな?」
アルビ
「本当にヒデオお前は!! パンツ履いてるに決まってるでしょ!?」
ヒデオ
「何色?」
アルビ
「死ね!!」
シーエ
「ウチはノーパンだよ?」
エムジ
「ここで捲ったら即警察に通報するからな」
シーエ
「えー?」
ミカド
「え、浴衣の下に下着を履いても良いのか!?」
ミカドからの爆弾発言にシーエ以外が氷つく。
ササキ
「……ミカドさん、アナタはその浴衣の知識をどこで仕入れましたか? 相当古い情報だと思いますが」
ミカド
「ワラワに日本語を教えてくれた友人から……」
エムジ
「その口調の教え主か。そいつと距離取った方が良いんじゃねーかな」
ミカド
「ワラワも最近そう思う……」
ヒデオ
「でも下は居てないミカドちゃん、エッチで良いと思うな!」
ミカド
「……!! ヒデオ殿、大きな声で言うでない!」
シーエ
「ノーパン仲間だね!」
ミカド
「な、仲間……」
ササキ
「チョロすぎですよ、ミカドさん」
仲間と言えば何でも許しそうな気配を感じ、ササキはミカドの事が心配になる。
それはそれとして、恥じらってる目の前のミカドは大変可愛らしかった。
エムジ
「とにかく、祭りに行こうぜ。俺チョコバナナ食べたい」
アルビ
「何か意外。甘いもの好きなんだエムジ。ボクはりんご飴食べたいなー」
エムジ
「りんご飴を持つアルビ、とても絵になるだろうな」
アルビ
「もうさっきから何なのさエムジは!!」
シーエ
「ウチはキュウリの一本付けを鈴虫みたいにむしゃぶりつくしたい!」
ヒデオ
「情緒が無いねー。でもキュウリとシーエちゃんは不思議と合うね」
アルビ
「……」
ヒデオ
「僕はキュウリしか言ってないのに、アルビちゃん頭の中エッチになっちゃったんじゃない?」
アルビ
「そ、そんな事無いから!!」
エムジ
「キュウリが何でエロにつながるんだ?」
アルビ
「ボクに聞かないでよ!? ヒデオに聞けば良いじゃんか!」
ササキ
「キュウリをですね、せいき──」
アルビ
「ササキくん! ストップ! 言わなくて良い!」
* * *
祭りは最高に楽しく、六人は思い思いに笑い合った。チョコバナナでエムジがテンションを爆上げし、キュウリをシーエが野生児の様に食べ、アルビがりんご飴を食べる。
りんご飴を食べながら歩いていると、アルビはすれ違う人と肩をぶつけてしまい、よろけた。エムジがすかさず腕を伸ばし、アルビを支える。
エムジ
「大丈夫か? アルビ」
アルビ
「う、うん……ありがと……」
アルビ
(ううー! やっぱりこの気持ち、抑えられないよ……)
ミカドが射的に挑戦し、前に乗り出した尻をヒデオが触ろうとしてアルビに殴られる。ササキがとんでもなく器用な手つきで金魚をすくう。その金魚を「食べようぜ」と提案するシーエをエムジがヘッドロックして止める。
学校以上に日常で、とてもとても楽しい時間だ。
そんな時間もあっという間に過ぎ、解散の時間も近づいて来る。
シーエ
「ちょっと放尿してくる!」
ミカド
「言い方……」
アルビ
「ボクも……って言うのめちゃくちゃ嫌なんだけど!? とりあえずお手洗い行ってくるね」
シーエの後に続いてお手洗いを目指すアルビ。さっきエムジが支えてくれたことがあまたから離れない。いつも難しい話をして色々解決してくれるシーエなら、この問題も解決してくれるかもしれない。
アルビ
「シーエ、ちょっと相談があるんだ」
シーエ
「なんだ?」
アルビ
「ボク……エムジの事好きなんだ」
シーエ
「……マジで!? 奇遇だな。ウチも好きだよ」
アルビ
「え!?」
シーエの気軽な物言いに、アルビは度肝を抜かれる。
アルビ
「え、それは友達として? それとも男性として……?」
シーエ
「多分オスとしてだね。恋ってやつかな。アルビもそうなんだろ?」
アルビ
「そ、そうだけど……」
シーエ
「で、相談と言うのは?」
アルビ
「えぇ!? 今エムジが好きって伝えたけど……」
シーエ
「それは情報の提示出会って相談では無い。好きな気持ちをウチに伝えたうえで、アルビは何を相談したいんだ?」
アルビ
「う、うん……でもシーエもエムジが好きって知ったら、相談しにくというか……」
シーエ
「エムジと付き合いたい的な方向か? ならウチは邪魔しないぞ?」
アルビ
「ええ!? な、何で??」
シーエ
「理由は色々あるが、先にアルビの相談を片付けよう。エムジと付き合いたいのか?」
アルビ
「そ、そりゃ付き合えたら嬉しいけど……エムジの特性上たぶん無理って言うか……。でも好きな気持ちが止められなくて、どうすればいいか解らないんだよ」
シーエ
「なるほどなー。解決法としては告白してスッキリするか、我慢するかの二択だな。告白してエムジと付き合える可能性はかなり低いが、モヤモヤは晴れるだろう」
アルビ
「でも良いの? ボクがエムジに告白して……その、シーエは」
シーエ
「何故ウチの許可がいる??」
アルビ
「いやだって、シーエもエムジの事好きなんでしょ? だったら……」
シーエ
「好きだよ。恋してる。でもアルビが『告白したい』と思ったのならウチに遠慮する必要は無い。アルビの人生はアルビのものだ。好きに生きた方が良い」
アルビ
「そんな、シーエもエムジが好きなら、なおさらボクだけ抜け駆けなんて……」
シーエ
「さっきも言ったけど、ウチはウチの意思でエムジに告白しないと決めてる。理由はいくつかあるけどな」
エムジは将来子供が欲しいと言った。それは自分の生き方とは根本的に異なる。シーエも生物の気持ち悪さを味わうために出産はしてみたいが、それはあまりに生まれてくる子の事を考えてない行為だ。流石に気が引ける。
人間は全員が自由意思で動いていて、自分の自由に生きて良いと感じているシーエだが、育ち切る前の子供にはその理論は当てはまらない。ほっておいたら死ぬのだから。
シーエ
「ウチの事は置いておいて、アルビは告白したいのか?」
アルビ
「……したい。気持ちを伝えたい」
シーエ
「ならすべきさ。ただアルビ、さっき言った通り、告白が成功する可能性は極めて低い。その覚悟はあるか?」
アルビ
「うん。とうか振られるために告白したいのかも。この気持ちに区切りをつけたい」
シーエ
「ここまで話を告白する流れに持ってきておいて難だが、それでエムジが傷つかない様にする自信はあるか?」
う……とアルビは動じる。自分の気持ちに区切りをつけたいとばかり考えていて、エムジの内面を考え切れてなかった。
アルビ
「それは……」
シーエ
「自信がないなら、その役目はウチが担うよ。エムジのアフターケアは任せておけ。ケアプランはいくつか既に思い浮かんでる」
シーエはアルビにそのプランがあるかを確認したかっただけだ。無いのならシーエが担う。
アルビ
「シーエ!? そんなのシーエに悪いよ!? ボクの我儘にシーエとエムジを巻き込むなんて!」
シーエ
「人は皆我儘で良い。ウチも超我儘だしな。それに巻き込まれたとは思わない。ウチはアルビを応援したいし、エムジのケアもしたい。そうウチが感じてるから、ウチの我儘でそう行動するだけだ。いつもと同じ」
アルビ
「そんな……」
シーエ
「アルビはエムジに告白したいんだろ? なら応援するし、その後のエムジのケアもする。アルビにとって損はない状況だと思うが?」
アルビ
「それは、そうだけど……」
シーエ
「なら応援してる! 告白は旅行最後の夜とかがいいかな? それまでは普通に楽しんで、最終日の夜に告白。夜ならエムジのケアする時間も沢山取れるしね。予言するけど、告白が失敗しようと成功しようと、エムジとアルビの関係が悪化することは無いぞ。アルビ側が引きずらない限り、エムジは大丈夫だよ」
夏祭りとは別に、旅行に行く件はシーエ、エムジ、アルビ、ヒデオの4人で予定をすり合わせていた。ササキとミカドも呼びたかったが6人になると日程が合わず宿も取れない。「元々4人での企画だから」とササキ、ミカドは辞退する形になった。
申し訳ないのでこの6人で夏の間に別のイベントに行けないか現在検討中である。
アルビ
「引きずらない……と思う。うん。大丈夫。元々うまく行くとは思ってないし。エムジとは今後も仲良くしたいし」
シーエ
「ならOKだ。あわよくばうまく行く様、応援してるよ」
シーエは以前から、エムジと相性が良いのはアルビではないかと感じていた。もしかしたら、アルビのこの行動がエムジの心を楽にするかもしれない。
喜ばしい事なのに、不思議と心がちくりと痛む。その痛みすらも不思議と愛おしいと思えた。これが恋という生殖活動の一環から生じる感情なのだから。
その後二人はお手洗いから戻り、四人と合流した。祭りは六人の中に楽しい思い出として残る。アルビだけが来たる夏の旅行に対し、覚悟を決めていた。




