魔狼視点
『魔狼視点:俺はただの護衛のはずだった』
――朝。
俺は森で生きていた。
牙を研ぎ、獲物を狩り、群れを率いる。 それが“魔狼”としての本来の生き方だ。
少なくとも、あの商人少女に会うまでは。
■ 第1日:契約という罠
「護衛、お願いできます?」
最初は理解できなかった。
護衛? つまり戦闘だろう。
簡単だ。問題ない。
そう思った。
その紙を渡されるまでは。
「ではこちらにサインを」
サイン?
前足で血判を押した。
この瞬間、俺はもう自由ではなかったらしい。
■ 第7日:違和感
仕事が増えた。
護衛だけのはずだった。
・荷物運搬の同行
・商談の同席(なぜか必要)
・取引先との調整(なぜか俺が謝る)
俺は戦士だ。
なぜ頭を下げている?
■ 第15日:増える“仲間”
ドラゴンが来た。
リッチが倉庫に住み始めた。
ゴブリンが帳簿をつけていた。
俺の率いる群れはいつの間にか“組織”になっていた。
しかも誰も戦っていない。
全員、働いている。
■ 第20日:ギルド呼び出し
「魔王軍の幹部として説明を」
……違う。
何度も言うが違う。
俺はただの護衛だ。
だが相手は聞かない。
“肩書き”が勝手に増えている。
誰が付けたんだ、この役職。
■ 第23日:勇者遭遇
勇者パーティと遭遇した。
「魔王の配下か!」
違う。
「では何だ!」
……俺は少し考えた。
「契約社員だ」
空気が凍った。
勇者が剣を下ろした。
「その方が怖いわ」
同意するな。
■ 第30日:胃痛の正体
気づいた。
問題は戦いではない。
この少女だ。
戦わない。
命令もしない。
ただ“結果だけ”を積み上げる。
気づいたら世界が変わっている。
俺はそれを横で見ているだけ。
そして全責任が俺の肩に乗る。
なぜだ。
■ 現在
今日も朝から報告だ。
・ドラゴンが納期遅延
・スラムが国家化
・ギルドが監査を開始
・勇者が顧客登録を希望
俺は深く息を吐く。
「俺は魔狼だ」
誰かに言い聞かせるように。
だが返事はない。
隣では商人少女が言った。
「新しい取引先、増えましたよー」
増えるな。
頼むから増やすな。
■ 魔狼の結論
俺は理解した。
これは戦争じゃない。
狩りでもない。
もっと厄介なものだ。
「経済」だ。
そしてその中心にいるのが、あの商人少女。
……俺は多分、もう森には戻れない。
戻ったところで、そこも“契約地”になっている気がするからだ。




