商人少女、私、魔王じゃありません?
──
目が覚めた瞬間、まず違和感があった。
天井が知らない木材だった。
いや、それ以前に──
「……ここ、どこ?」
身体を起こすと、机の上には見慣れない帳簿、羽ペン、そして大量のコイン袋。
しかもその横に、堂々と貼られた札。
【見習い商人・仮配属:第13支店】
「商人……?」
確かに、前世(?)では数字をいじるのは嫌いじゃなかった。むしろ好き寄りだった。だがこれは違う。
なぜなら窓の外に──
角の生えた人が普通に歩いていたからだ。
「……異世界転生ってやつ?」
そう呟いた瞬間、ドアが勢いよく開く。
「おお!起きたか新入り!」
入ってきたのは、やたら筋肉質な受付の男。
だが背中に、どう見ても“悪魔の翼”の名残がある。
「君、今日からうちの商会で働くことになってるから!」
「え、聞いてませんけど」
「契約書にサインしてるよ」
差し出された紙には、見覚えのないサイン。
しかも最後に一文。
“必要に応じて魔王級案件にも対応すること”
「なんですかこれ」
「いやぁ最近多くてね、魔王級案件」
「軽いノリで言う単語じゃないですよね?」
その日から、少女の人生は静かに壊れた。
商人としての第一歩は、在庫整理。
次に学んだのは相場。
そして三日後──
「この薬草、相場より安すぎて戦争起きるレベルだぞ」
「えっ」
「犯人お前だろ」
「違います」
違うのに、なぜか世界がざわつく。
さらに一週間後。
街の商人たちが彼女をこう呼び始めた。
「市場を操る黒幕」 「価格崩壊の魔女」 「経済災厄」
そして、最も最悪な呼び名が生まれる。
「──魔王候補」
少女は帳簿を閉じながら、静かに呟く。
「私、商人なんだけどなぁ……」
その横で、同僚が震えながら言う。
「いや……どう見ても“世界のルール書き換えてる側”だよ、それ」
こうして始まる。
剣も魔法も使わない。
だが、世界そのものを動かしてしまう少女の物語。
──「私、魔王じゃありません?」
ただし商人として。




