後日談・その後のアメリカ
1947(昭和22)年2月14日、ワシントンDC
「どうしてこうなった?」
トルーマンは頭を抱えていた。
「失礼するよ」
やって来たのは、疫病神にして詐欺師、見た目はビヤ樽。自由欧州同盟の引率者を自称するウィンストン・チャーチルであった。
「アンタのせいで大変な事になったじゃないか!」
トルーマンはそう怒鳴るが、チャーチルは涼しげに肩を竦めるだけである。
「私は何もしていないよ。すべて君が決めた事じゃないか。私は被保護者なんだよ。祖国を追われた身だ。違うかね?」
さも当然の如くそんなセリフを吐く姿に怒りが込み上げて来るトルーマンであった。
「アジアでの戦争を終わらせて支持を受けていたのはあっという間だった。ヨーロッパの解放?誰も彼も口は出しても金も人も出さない!なぜアメリカばかりがすべてを引き受け無ければならない?!」
それはトルーマンの正直な気持ちであったが、チャーチルは顔色ひとつ変えようとしない。いや、呆れたような顔色すら見せるほどだ。
「今、ブルターニュで戦うのは大半がアメリカ人だ。多少のフランス人は混じるが、アンタらはひとりも居ない!なぜカナダも北アフリカへは出兵しても、ブルターニュへ行かないんだ?!」
オディエルヌ湾上陸から4年、ナントを陥落させ、ブレストも確保した。
しかし、ここに至るまでの戦死者は既に50万人を超え、アメリカ国内には反戦運動すら行われる様になっていた。
「ルーズベルトが英雄演説で言っていたじゃないか。アメリカが悪魔を倒し闇から解放してくれると。何か間違いを言っているかね?」
平然とそう喋るチャーチルが忌々しいトルーマンである。
「アレでもドカンと使えば終わるんじゃないかい?」
チャーチルも知らぬはずがない原爆。
未だドイツが実験に成功したとの情報はない。
「どうやってドイツまで持って行くんだ?どうやって!フランス爆撃すら片道切符になっているんだ!爆撃機に乗りたがるボーイズすら居ないさ!」
そう。
昨年半ば以降、ドイツはジェット機を多数迎撃に繰り出しており、もはや高度に関係なく爆撃機の損耗率がうなぎ上りとなっていた。
飛ばせる機体はあっても人が居ない。
ジェット機とプロペラ機の速度差は顕著であり、未だB-29並のジェット爆撃機など存在しない事から、迎撃をすり抜け損害を減らす術が存在しない。
既にブルターニュ戦線は戦術爆撃しか行えない状態であり、原爆の投入などあり得なかった。
もっとはやくに投入する機会はあったが、まさかフランスへ投下する訳にもいかず、その機会が失われていたのである。
「アフリカなら何とかなっているじゃないか」
チャーチルはシレッとそんな事を言うが、イタリアがアルジェリアの防衛しか興味がないからに過ぎない。
カサブランカからアルジェリアを目指すには、山脈を越えなければならないが、それは簡単な道であるはずもなく、アメリカがすべて持ち出しで道を作り進軍している。
しかし、その先は不毛な砂漠か、待ち伏せに好都合な地形。
ジブラルタル海峡は南北共にスペイン、イギリスの領域が迫り、待ち構える側に都合が良い。
そのため、いくら戦術的な勝利を飾ろうともその場限りの名声しか得られず、勝っているのにジリ貧という悪循環。
さらに、アルジェリアもカサブランカ周辺に建設した大飛行場から爆撃機を飛ばして破壊し尽くしており、それがまた反米へと繋がる悪循環。
どこにも好転する条件が転がってはいなかった。
「そんな事より。私としてはアイルランドの事が頂けないね」
チャーチルが顔を顰めてそう言うのも、進駐当初、理由も分からず景気良くIRAの口車に乗せられ武器を渡した事で北アイルランドでの紛争が激化し、イギリスとアイルランドは半ば戦争状態にあった。
この事からイギリスはアメリカ軍による領空通過を認めず、領海通過にも厳しい態度を示すに至っていた。
さらに、アメリカはあまり気にしていないがIRAとアイルランド政府にも隙間風が吹いており、アメリカが縦横無尽に基地を拡げる南部においても、いつ武装闘争が起きるから分からなくなっていた。
ブレストを確保した今、アメリカはアイルランドから撤退すれば済むが、残されたアイルランド人とイギリスは、望むと望まざるに関わらず紛争に巻き込まれる未来が確定的だったのである。
「アイルランド?我々には協力的じゃないか。何か問題でも?」
トルーマンはこの通りである。
「それで、どうするつもりだね?」
既にソ連は事実上瓦解し、ウラル以西においては自由ロシア共和国の台頭著しい。
沿海州は満洲国が「領土回復」し、北樺太は日本が得た。オホーツク海沿岸も日本が保証占領している状況である。
中華大陸では支援を失った共産党がそれまで支持を集めていた農村から搾取を始めて対立勢力のひとつに転落している。
アメリカが支援する重慶政府も四川から打って出る様な民心はなく、南京政府にも大陸統一が可能な纏りはない。
そんな中で旧来通りに租界を置いているのがアメリカであった。
日本は満洲国までさがり、イギリスは巧妙に支配の実態を隠して勢力間対立を煽っている。
今のトルーマンには火種しか存在していない。
どこが真っ先に発火するか。
残された問題はそこである。
「以前も言った様に、決めるのは君だよ。トルーマン大統領?」
チャーチルはそれから言いたい事だけを喋り、ホワイトハウスを後にする。
「さて、そろそろ私の仕事も終わりかな。これでしばらくアメリカの台頭はなくなっただろう。アトリーが舵取り出来ないなら、私が帰って大英帝国の今後に道筋をつける事になるのかね。せっかく楽隠居出来ると思ったのに」
チャーチルは楽しげにホワイトハウスを振り返り、そう呟いくのだった。
どうしてこんな真っ黒いビヤ樽に熟成されたんだ?!




