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28・ブーゲンビル島防衛戦

 1943(昭和18)年7月4日、ブイン


「何?タロキナに上陸して来ただと?」


 ブーゲンビル島に展開する機動第6師団長神田は驚いて聞き返した。


 最近、ソロモン諸島で敵の動きが活発になっている事は把握していたが、アメリカ軍がブインを素通りして迂回戦法の様な行動に出るとは思っていなかったのである。


「まさか、あの胡散臭い参謀の世迷い言が現実になるとは・・・・・・」


 昨年末、陸軍参謀本部からわざわざ辻政信中佐がブインを訪れ、持久作戦における防備計画なる物をぶっていた。

 神田は、アメリカ軍が迂回戦法でブインの後背地へ攻めてくるなど眉唾だと考え、右から左へ聴き流していたのだが、直接指揮を行いジャングル内に秘密道路を設けてタロキナまで開通さようとする辻の行動には反対しなかった。さすが参謀本部の人間だけあり、優先して必要な重機までそろえてくれるのだから、下手に止めようとは思わなかったのだ。


「タロキナには一個中隊しか配置していなかったな。急ぎ増援をだせ。相手は海兵隊のはずだから、水陸機動団みたいな部隊編成で5000は居るはずだ」


 こうして、第6師団はほぼ全力で反撃態勢を整える。



 7月6日、タロキナ


「日本軍はまさか後背地へ上陸するとは思ってもいなかったらしい」


 上陸成功に海兵軍団を指揮するヴァンデグリフトは安堵していた。


 日本軍の目がミッドウェー、さらには千島列島へ向いている隙を突いて行われたブーゲンビル島上陸作戦の出だしは順調そのものだった。

 マッカーサーは日本がドーリットル爆撃隊に触発されてミッドウェー攻略を考えていると知った途端、海軍が成果を挙げるよりも先に、それもより戦略的に重要な成功を手にしようと考え、多少無理をしてでもブーゲンビル島に橋頭堡を築くという計画を推し進めていたのだから。


「この作戦が成功すれば、私は中央へ戻る事になる。さて、次は欧州の大仕事か」


 そう、ヴァンデグリフトは顔をほころばせるのだった。


 その頃、無事に上陸した戦車中隊は日本軍守備隊を蹴散らして一息ついていた。


「こんな戦車必要だったのか?ここには何も居なかったし。居ても相手は豆タンクなんだろ?」


 ひとりがそんな事を言う。


「そもそもコレ、インド洋がダメになってダブついていた不良在庫って話だ。必要かどうかじゃなく、余り物だから軽戦車の代わりに配備されたらしいぜ」


 と、噂好きなひとりが言う。


「なんだよそれ。でも、軽戦車より安全だしラッキーだったな!」


 アメリカは、昨年のマダガスカル攻略の失敗でエジプトやソ連向けレンドリースがダブついていた。その上、イギリスが停戦した事によって行き場を失ったM3中戦車を南太平洋へと送り込んでいた。アメリカ軍だけでなく、オーストラリア軍へも有り余るほどのM3中戦車が供給されている。


「新手のジャップだ!豆タンクも居やがるらしいぞ」


 そんな叫び声を聞き、休憩していた戦車クルーが一斉に戦車へと飛び乗り、戦闘態勢を整える。


「相手は副砲でイチコロなんだろ?」


 クルーがまだそんな軽口を叩く後ろでは、車長が部隊と連絡を取り、配置についてしばらく待っていると、ジャングルの中から戦車の走行音が響いて来た。


「ジャップの豆タンクだ!落ち着いて殺れよ」


 車長も余裕そうにクルーへそんな激を飛ばす。


「左400、射程内だ。副砲撃て!」


 砲塔をまわしたM3中戦車の副砲M6 37ミリ戦車砲が火を噴いた。


「よし、命中!擱座だ!」


 砲弾が命中した日本軍の軽戦車が急停止しているのを見て、車長も嬉しそうに宣言した。


「敵が発砲したぞ。かわいそうに、そんなヒョロ弾が効く訳なかろうに」


 嘲笑気味にそう口にする車長。


 日本戦車の弾は見事、隣にいた僚車に命中した。

 背の高いM3は非発見性と被弾率の高さがデメリットだが、日本軍の戦車が装備する短砲身砲57ミリ砲で抜ける様な紙装甲ではない。

 そう自信をもって僚車へと問いかける車長。


「大丈夫か?」


 が、一向に返事が返って来なかった。


「おい、ピーター!どうした!」


「爆発の衝撃で耳をやられたんじゃないっスか?」


 クルーの軽口にそうかもと考える車長。


 その後も続々と現れる日本戦車が先にM3を発見しては発砲し、次々と被弾していった。車長が悔しく思うほど日本軍のウデは良かった。だとしても、被弾したM3中戦車には貫通している様子は全く見られない。


 通常なら大した被害もないはずの榴弾の爆発なのだが、どういう訳か被弾車両は応答しなくなることに不安がよぎる車長。


「どうなってるんだ?右500に敵!」


 指示を出し、砲塔を回転させて照準する頃には相手の発砲炎が見えた。


 そして、車体へと被弾。


 すると、着弾による轟音と衝撃のすぐ後、車内へと無数の弾丸が飛び込んできたて跳弾するような音が響き、脚が焼けた鉄の棒を押し付けられたように熱くなった。


「なんだ?」


 ふと下を見れば脚は血だらけで感覚すらない。動いた拍子に支えを失ったように崩れ落ち、車内が視界に入るが、そこはしたたかに銃弾を浴びせられたかのような血まみれになった4人の亡骸が目に入った。

 砲塔に居た砲手もマトモに被弾し、虫の息である。車長は砲手が弾避けとなって胴体に被弾しなかったのだと悟る。


「何だこれは・・・・・・」


 だとしても、車長には全く何が起きたのか分からなかった。貫通孔もなくクルーが全滅するなど理解の外の出来事だったのだから。


 この時、日本軍が増援として送り出したのは二式軽戦車だった。


 二式軽戦車はモ チ 弾(粘着榴弾)の運用を前提に、急遽九五式軽戦車の車体に九七式中戦車の砲塔を乗せた改造車では、砲手と機銃手が兼任となり、居住性や操作性にも難があったため、急ぎ新たな車体を用意し、前面装甲を強化して完成させたものだった。

 主砲は九七式中戦車と同じ九七式五糎七戦車砲が装備されており、この頃は中戦車から主力を奪う勢いで生産が優先され、遠くブーゲンビルにまで配備されていた。

 

 対装甲榴弾であるモ チ 弾(粘着榴弾)は70ミリ厚程度の装甲に対して有効であり、最大装甲厚51ミリのM3中戦車に対しては非常に有効な対抗戦力となっていた。


 こうして翌日夕方ごろ、アメリカ海兵隊が確保した橋頭堡の防衛線は皮肉にも、秘密道路をイギリスから大量輸入したレンドリース品のアメリカ製トラックで急行した機動第6師団主力によって各所で食い破られ、投入したM3中戦車もほとんど失い、後続の上陸を中止せざるを得なくなってしまうのだった。


 完全な負け戦の状況にあって、アメリカ軍がモ チ 弾(粘着榴弾)の威力や構造を知る機会にはならず、しばらく二式軽戦車がなぜM3中戦車、後にはM4中戦車ですら撃破できるのか謎のままとなるのであった。



「何?降伏した?どういう事だ!」


 ヴァンデグリフトは8日朝、タロキナにあった第3海兵師団が日本軍に対し降伏したとの報に接する事になった。


 こうして、華々しく始まったブーゲンビル島攻略は僅か数日のうちに失敗する事となってしまう。


 海軍による千島列島砲撃計画に続き、こうも早々に太平洋での作戦が失敗に終わったことで、ルーズベルトはブルターニュへの上陸作戦に向け、アイルランド進駐を推し進める事になる。

  

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― 新着の感想 ―
理屈は分からないけど、このモチ弾で普通の砲弾より死傷率が高そう。 千島に戦艦部隊を送らず、一緒に行って、もっと直ぐに増援を上陸させれば良かったにと思いました。
粘着榴弾、確か74式に装備されてましたね。と言う事は砲弾よ在庫あったら16式も使えますね。
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