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26・アイルランド進駐

 1943(昭和18)年8月、ワシントンDC


「準備はどうかね?」


「はい、イギリスを除く各国政府も乗り気です」


 ルーズベルトは太平洋で行われたマッカーサーとニミッツの政治的な作戦が尽く失敗した事で見切りを付けることにした。


 もはや短期的に太平洋線域での反攻作戦が成功する見込みはなく、マッカーサーの成果を待っていたら、自由欧州同盟などと馬鹿げた連合を組んだ欧州からの亡命政府が何を訴え出すか分かったものではなかったため、彼らの欲求を満たせる欧州反攻作戦を優先して実施する事にした。


 それにしても先年末のトーチ作戦失敗の痛手は大きすぎた。


 なかでも南雲艦隊という闖入者によってH部隊が海に消えたショックから、イギリスが停戦に動いたのは想定外としか言えなかった。


 それも僅かひと月という拙速さで停戦合意に至った事も驚きを隠せずにいた。


 本来ならばトーチ作戦によってヴィシー軍を降伏させ、フランス上陸への希望を欧州各国政府へと示すはずが、兵站を欠いた上陸部隊が逆に押し出されて枢軸国側の結束を強めたのだから頂けない。


 それでも、その程度で済んでいれば盛り返せたのだが、問題はイギリスだった。


 地中海に関してはほぼ降伏に近い内容でスエズ運河も失ったが、アジアに関してはまるで違う。


 日本はあろう事かシンガポール以外のアジア権益をほぼイギリスへ返還してしまった。

 インドの独立が止められるとも思えないルーズベルトであったが、それ以上に懸念されたのは対中権益だった。


 彼から見れば、アメリカ抜きで日英が山分けしたに等しく、仏印もヴィシー政権が独立支援という形で権益を維持している。

 あろうことかイギリスが仲介して蘭印についてはオランダ亡命政府に話が持ち込まれているに至り、看過出来る情勢ではなかった。


 このまま放置すれば、アジアの植民地が保全される自由欧州同盟は「ヨーロッパ解放のために太平洋の戦争をヤメロ」と言い出しかねず、そうなればアメリカ一人負けが確定してしまうのだ。

 それを避けるには、自由欧州同盟の機嫌を取り、「アメリカが重視するのは欧州である」と見せ付けなければならない。


 そう考えたルーズベルトは、強引にアイルランド政府へと軍の駐留を認めさせようとしたのだが、見事に拒否されていた。


 まさかドイツ占領下のブルターニュ半島に拠点が築ける訳もなく、イギリスが脱落した今、反攻拠点を置くならアイルランドを置いて他にはない。


 こうしてアイルランド進駐計画が進められ、まずは亡命イギリス政府首班であるチャーチルを旗振り役にしようとしたが、断られていた。


 もちろん、そんな話を中立化したアトリー政権に持っていく訳にもいかず、アメリカ主導で話を進めていた。


 アイルランドに拒否された以上、アメリカに居るアイルランド系移民にプロパガンダを流し、ナチスとアトリー政権の「悪辣な内心」を訴え、アイルランド進駐の正当性と必要な兵力を募る事に専念する事になった。


 この作戦はドイツの攻撃ばかりかイギリスの妨害すら考えねばならず、持てる戦力を集中して実施する事に決まっていた。


 そんな切羽詰まる内情とあまりに規模が大き過ぎる作戦を強引に準備し、トーチ作戦から1年と経たない9月、とうとう実行に移された。



 1943(昭和18)年10月、北アイルランド、デリー


「IRAだ!攻撃しろ!」


 9月に実施されたアメリカによるアイルランド上陸作戦は、ドイツの攻撃をあまり受ける事なく静かに実施され、アイルランド市民の多くもアメリカ軍の上陸を歓迎した。


 しかし、それはアメリカ国内で流されていた「合衆国はアイルランドの救世主であり、憎きヒトラーとそれに与するアトリー一味へ鉄槌を下す!」という言葉を真に受け、或いは利用しようと考えたからに他ならない。


 利用しようとしている筆頭はIRAにほかならず、9月中旬には早速北アイルランドへの攻撃を開始していた。


 アトリー政権も座して見逃すほど温厚ではなく、境界を超える者への攻撃は容赦しなかった。


 それでも勢いに乗るIRAの攻撃は国境の街となっているデリーでは連日のように続き、そこはもはや戦場でしかなかった。


 この状況をアイルランド政府がどう見ていたかと言うと、完全にその尻馬に乗り、アイルランド島は全て自分たちのモノという憲法規定を前面に打ち出し、アメリカ政府にもそう訴えかけていたのである。


 チャーチルからすればこうなる事は考えるまでもなかった事であり、それを知っていながら旗を振るなどと言う気になるはずがない。


 欧州各国からすれば所詮は英国の内政問題に過ぎないのでまるで関心がなく、脱落したイギリスへの意趣返しくらいにしか思っていなかった。


 当のルーズベルトにしても、プロパガンダ以上の事はあまり深く考えていなかった。何ならその通りに指導力を発揮して救世主として前進基地にしてしまえばよいくらいの勢いなので、IRAの暴走にすら無頓着だった。


 ただ、だからといってそのままイギリスへの大規模攻撃を公然と容認できる訳もないし、ベルファストに戦火が至ればイギリスがどんな反応をするかも分からなかった。

 ドイツもイギリスに対して過度な軍備制限を強いている訳でもなく、何かあれば防壁になるくらいに考えていたので、ルーズベルトのさじ加減一つでヒトラーの思惑通りにすらなりかねなかった。


 そして、上陸後わずかひと月と言う段階でデリーが戦場と化し、イギリス軍が本格的な戦闘を開始している。

 さすがにドイツ側に立って参戦するような事態には至っていないので、越境作戦などは行っていないものの、アメリカに対して領空の侵犯があれば全て拘束対象として抑留する旨が正式に通告される事態になっていた。

 本来であれば少々の進入は大目に見るという話になっていたのだが、アイルランド側の対応が独立の経緯をすべて反故にする勢いとあって、イギリス側を厳しい対応をとる方針に転換させたのだった。


「これではいくら飛行場を整備しても、事実上使えないのと同じではないか・・・・・・」


 アイルランドへと進駐したアメリカ欧州派遣軍では、そんな声が絶える事が無かった。


 彼らの攻撃経路はイギリスを大きく避けてブルターニュ半島へ至るルートに限られ、効果的な作戦など行う余地が存在していなかったのだから。

 これでは空母をかき集めて攻撃手段とするほかなく、太平洋線域への戦力配置など、マッカーサーに構ってなどいられないのも道理であった。


 


 

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― 新着の感想 ―
米国猫「どうしてアイルランドさんはイギリスさんと戦争しちゃうの」 まあ、アイルランドからしたら憎きライミーをアイルランドから追い出すチャンスと勘違いしてもおかしくないよね。 あるいはドイツ側の謀略で…
アイルランド!?アイスランドじゃなくて!? なんでまた、そんな面倒な所をわざわざ……
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