25・ミッドウェー怪戦
計った訳じゃないんだけど、今日。
1943(昭和18)年6月10日、ミッドウェー沖
二航戦の山口は焦れていた。
「敵空母は見つからんのか!」
別動隊である蒼龍、飛龍を率いる彼の戦隊はミッドウェー島からずいぶん離れた位置にあった。
さらに五航戦も離れた位置に居り、互いの連絡も取れてはいなかった。唯一、上陸部隊がわざと発信している通信によって状況を知るのみである。
中型空母の蒼龍、飛龍は艦が小さいこともあって優先してカタパルトが設置され、配備された海風や天山、彗星の運用に欠かせない装備となっている。
さらに艦橋の小ささから電探装備にも限界があり、赤城や翔鶴型よりも制限され、高度標定電探は装備せず、対空電探も軽巡以下と同じ小型軽量型で我慢するほどだった。
赤城や加賀、翔鶴型が艦橋を肥大化させるような状況なのに対し、中型艦のために艦幅が狭い蒼龍や飛龍にはそこまで無茶な違法建築が許容できなかったのだから仕方がない。
その代わりとして特別に高度標定電探を装備した秋月型駆逐艦を配して運用する事で何とか体裁を整えていた。
これが隼鷹型であれば、怪文書を参考に艦橋の仕様が決められているので電探の搭載や防空指揮所の能力は非常に高いものとなっていた。
蒼龍、飛龍から発進した4機の艦上偵察機は天山を基に高速化に適した主翼へ交換した機体で、時速600キロを可能とし、航続距離も長かったが、翼幅を切り詰めた高速機の常で、中型空母ではカタパルトなしに運用するには適していない。
さらに彗星も飛ばして捜索範囲を広げていたが、なかなか敵空母は発見できずにいた。
「どこからも発見の報はありません」
当然と言えば当然のことで、無線封止を行う二航戦の飛ばした機体は電探を搭載しないか作動させていない。
「本隊が攻撃を受ける前に叩きたいんだが、難しいか」
そう悔しがっていた頃、敵のフレッチャーは頃合いと見て上陸部隊へ向けて攻撃隊を発進させていた。
それから暫く後、赤城搭載の電探装備機が敵機来襲を告げる。
その飛来方位から逆算して敵空母の予測位置を偵察機へと赤城から発信があり、それを受信した各機はその方位を目指して変針する。
そして、瑞鶴搭載の彗星がエセックスを発見するも、米側に探知され、位置の発信のみで逃走に移った。
もし敵がF4Fだったなら逃げきれたのだろうが、エセックスにはF6Fが配備されており、逃げ切ることが出来ずに撃墜されている。
この一報を受けてさらに変針した飛龍搭載機が別の空母群を発見して通報。山口は即座にこの空母群攻撃を命じている。
「小型だろうが空母は空母だ!叩け、叩き潰せ!」
即断の攻撃命令を発した二航戦に対し、五航戦では攻撃隊発進を躊躇していた。
「空母群が二つあるだと?全部で何隻居るんだ?」
小型空母、もとい護衛空母を4隻一纏めとして空母の体裁をとっているだけだったが、当時フレッチャーに出来たのは、ニミッツが苦労して出来たばかりの護衛空母を何とか太平洋へ引っ張って来たものを、ヨークタウンの穴埋めとして戦力化を行うことくらいだった。
下半期になればインディペンデンス級軽空母やカサブランカ級護衛空母などが揃い出すが、まだその時期ではないため、苦しい懐事情の中で相当無理な行動が行われていた。
そうとは知らない五航戦は当惑し、全容が判然としない第一目標、数と規模が判明している第二目標いずれに向かうべきか迷っていた。
その間に一航戦からは迎撃中との報が入り、第一目標を狙う事を決断。
この結果がフレッチャーの混乱を呼ぶことになった。
「護衛空母群より攻撃を受けているとの報告です!」
フレッチャーにその報が入ったのは、レーダーが五航戦からの攻撃隊を発見する10分前だった。
「別動隊が潜んで居たのか!逃げた偵察機の方角からの来襲か?」
「かも知れません!」
「第二次攻撃隊は目標を変更する。偵察機を出して確認しろ!」
そうした作業を行っている所へと、攻撃隊接近の報が入ったのだった。
「どうなってるんだ!俺は何かに騙されているのか?」
すでにエセックスとエンタープライズの艦上や格納庫では攻撃隊の準備が進められており、すでに上がっている以上の直掩機を上げる事すら出来ない程の混雑だった。
フレッチャーに掩護を要請した護衛空母群では、第一次攻撃隊としてほとんどの艦載機を出した後とあって迎撃すら満足に行えず、彗星による急降下爆撃に晒された。
彗星による爆撃はパイロットの技量に加えて信頼性が上がった五〇番噴式ケ弾の威力も相まって貨物船ベースの護衛空母には酷であった。
準備の早かった彗星12機、海風8機という陣容で強襲したつもりが、瞬く間に4隻の空母を沈める戦果を出してしまっていた。
あまりの事に後発となった二航戦の攻撃隊は五航戦の攻撃隊が発信した海域へと慌てて針路変更し、エセックス、エンタープライズを時間差攻撃する形となった。
「新手の攻撃隊だと!?」
五航戦の攻撃に晒されるフレッチャーはケ弾が飛行甲板を貫き格納庫で大火災を起こしたエセックスで新たな死神の報を聞いて思考停止していた。
幕僚たちに促されて這う這うの体で逃げ出した頃には、エセックスの甲板や格納庫にあった爆弾や艦載機が次々爆発し、もはや手が付けられない状態になっており、そこへと来襲した雷装の天山にとってただの訓練標的でしかなかった。
フレッチャーが爆発音で振り向けば、大きな黒煙が立ち上っている所であり、随伴した巡洋艦が爆沈した事を悟るのだった。
もちろん、エンタープライズも無事な筈がなく、この日フレッチャーは護衛空母4隻、正規空母2隻、巡洋艦3隻を失い、僅かばかりの駆逐艦に救助した兵員と鈴なりになって真珠湾へと逃げ帰ったのだった。
「なぜここまでツイてないんだ・・・」
フレッチャーだけでなく、ニミッツもマッカーサーに抗する手段を失い、アメリカ太平洋艦隊はただただマッカーサーの言いなりとなって南太平洋への運び屋と化すしかなくなっていくのだった。
空母6隻撃沈との報に接したミッドウェー攻略部隊は、それから数日掛けてじっくりアメリカ軍の抵抗力を奪い、島を占領する事に成功した。
「こんな絶海の孤島を占領しても維持できんのではないか?」
源田のマトモすぎる疑問に答える者は誰も居なかったが、幸いなことに今のアメリカ軍には奪還にやって来る戦力がなく、ミッドウェー守備隊が今後しばらく戦うべき相手は自軍の兵站能力となるのだった。




