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ラゼルの青の遐福  作者: あいせ
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ラゼルの冒険


 扉を開けば、夏を迎え出した空が私を出迎えた。


「いってきます!」


 敷居を跨ぎながら、お決まりの挨拶をする私に、部屋の奥、ほんのりとぼやけた声で送り出す声が届いた。

 その声を聞きながら、日差しを浴びて眩しげに目を細めるアルメリアを見た。


「おはよう、アルメリア」


「おはよう、ラゼル」


 朝の挨拶もそこそこに、早速とばかりに私の手を引いたアルメリアは、しっかりとした足取りで歩き始める。

 鼻歌を歌いそうな雰囲気に、アルメリアの機嫌の良さを知る。


「なんだか、いいことあったの?」


「・・・?」


 私の言葉の意味がわからないのか、首の傾げる仕草をする。


「なんだか、機嫌が良さそうだったから」


「ふふふ。当たり前よ?ラゼルとお出かけできるんだもの!」


 素直に吐露した私の言葉に、最上級とも言える言葉が返る。

 その言葉に、一気に自身の機嫌が駆け上がるのが分かった。


「うれしい・・・」


 頬がほんのりと熱を持った気がした。

 その事実を逸らすために、ぐっと足を踏み出す。

 アルメリアを追い越す勢いで、踏み出した足は一瞬にして歩幅を追い越した。

 その私の行動に、まるで私の顔の状況が分かっているかのようなアルメリアの柔らかな笑い声が鼓膜をくすぐった。

 聞こえないふりをして、歩みを進めると、あっという間に階段にたどり着いた。


 上層と呼べるべき場所が私の住まう地域だ。その場所からオオクニ階段に足をかけると、途端に視界がひらけた。

 海までを見渡すことのできるその光景に瞳を奪われる。


「すごいでしょう?」


 自信満々のその声に空返事のように頷く。

 美しい海の碧と空の青。空に浮かぶ雲と白の美しい街並みは、まるで上と下両方に空が広がっているように見えたのだ。


「ラゼル、ラゼル」


 柔らかく名前を呼ぶ声が聞こえた。

 振り向いた先には、眉を下げて困った顔で笑うアルメリアがいた。


「見惚れてしまっているラゼルも可愛いけれど、ずっとここで立ち止まっていては目的に辿り着けないわ。ほら、行きましょう?」


 そう言いながら自然に差し出される手に目を落とす。

 ほんの少し、自身よりも体温の低い手をぎゅっと握りしめる。混じり合う体温は、自然とアルメリアの手の温度を上げていく。

 階段をひとつ降りるたびに、暖かくなる気がしたアルメリアの体温は、階段を降り切る頃には私と同じほどの体温をしていた。


「階段、思ったよりもちょっとだけ急だったね」


 振り返り、見上げた階段は、見た目ではわからないが、段差が普通の階段よりも高くなっているのか、足幅と合わない気がした。


「子供の足には、そう感じてしまうわね。でも、この街は漁業多いから、魚の鮮度を保つために駆け上がったり、上から下への移動を楽にするために少し高めに作っているそうよ」


「そうなんだね。でも、ちょっと危険なこの感じが冒険してるみたいで・・・あ。」


 また一つ、知らなかった街を知ることができてうれしくなる。

 そのはずみで、思っていたことがぽろりと口からこぼれ落ちた。

 子供みたいなその発言にアルメリアは馬鹿にすることもなく楽しそうに笑って頷いてくれた。


「ふふ。そうね。私も同じことを思ったことがあるわ。さぁ、冒険の続きに、ミラーレ広場へ行きましょう?」


 足を踏み入れた大きなルマルト橋は、多くの人が行き交っていた。観光目的の見た目をした人。働いている人。大人も子供も関係なく行き交うその中が、アルメリアが足を踏み入れただけで、まるで花道のように道が開いた。

 美しい佇まいと歩みの彼女をまるで従うべきその人だと理解しているように開く道に、アルメリアもまた、当たり前のように歩き出した。


 渡り切った橋は相変わらず、人々の賑わいを見せていて、先程のことがなかったかの様だった。


「・・・?ラゼル?」


 橋を眺める私を不思議に思ったような顔で呼ばれる名前に咄嗟に首を振る。なんでもないと示すその仕草にアルメリアは特に気にした様子はないのか。そのまま広場の中央へ歩き始めていた。



 奥にある時計塔と教会。そして街頭以外は何もないその広場は数多の人で溢れかえっていた。

 そして、その多くは同じくらいの年頃から幼い子供が大半であり。広場を駆け回る子供たちが、あたかも更に人を多く見せてる様だった。


「賑わっているでしょう?」


「うん。びっくりした」


 まるで、私の心の声を呼んだかのようなアルメリアの言葉に頷いて返す。


「この辺りは、多くの子供たちの鉄板の遊び場所なのよ。ここに来れば誰かがいる。ということが、多くあるみたいよ。・・・ほら、あそこ」


 そう言って指差した先には、鬼ごっこをしているのか。1人の子供が様々な子供を追いかけては、タッチをして。そうやって遊ぶ子供達が。そして、その様子を見ていた同じ年頃の少女が声をかけていた。

 子供たちは知り合いなのか。直ぐ様ジャンケンを繰り返してはまた駆け出した。


「楽しそうだね」


「ふふっ、そうね」


 駆け回る子供達の微笑ましさに呟く言葉に、アルメリアが優しく笑っていた。


 歩いて、広場の中央ほどまでくると、時計塔の大きさがより一層目立っていた。

 雲ほど高いのではないかと、思わせるほどの高さに見上げると、太陽の光に瞳を細める。


「・・・おおきい」


「この時計塔は、この国の中でも屈指の高さを誇るのよ。この街にはこの時計塔よりも高いものもないから、森で迷った時には指針にもなるし、高濃度の魔法石が使用されていて、いい魔力の通りもなっているのよ」


 魔力の通りと言われて、見上げた時計塔に目を凝らす。

 うっすらと、大気を漂う魔力たちがまるで、時計塔を中心にゆったりと波を打っては流れていた。


「ゆっくり、流れてる」


「でしょう?

魔力が滞ってしまうと、大地の栄養や空気の綺麗さ。そして、海にも影響を与えるわ。そうなると、この街の中だけでも生活に差が出てしまう。だから、昔の人たちが多くの魔法石を作って作り上げたそうよ」

 その為の建設物だったから、昔は時計がついていなかったらしいのだけれどね。


 付け加えられたその言葉に頷いて、もう一度時計塔を見上げる。

 この時計塔の魔法石のお陰で、滞ることのない魔力がうまれ、この街の自然と生活が守られているのだと初めて知る。

 魔力か溜まると人はその地では生きていけなくなり、少なければ栄養がなく、人々の生活は貧困する。


「今は、家々に備え付けられた魔法石や秘石ミシュランドのお陰で殆どこの国自体で魔力の滞りはないけれどね」


「そうなんだ。凄いね。時計塔は先人たちのこの国を守る為の知恵だったんだね」


「そうね。本当に、凄いわ」


 今はアルメリアの言った家に備え付けられた魔法石のおかげで、昔ほどには役目を果たすことも無くなったのだろう。

 そして、その代わりにきっと時計が取り付けられたのであろう。

 この時計塔が今でも生活や人の指針となっているのだ。

 なんて、素晴らしいことなんだろうか。


「あー!アルメリア様だ!」


 時計塔を見上げていると、唐突に明るい声が響き渡った。


「本当だ、アルメリア様だ!」


「こんにちは、アルメリア様!」


「はい。皆さんこんにちは。今日も元気ですわね」


 あっという間にアルメリアの周りに集まる子供たち、1人1人の顔を見て返事をするアルメリアは、まるで学級の先生のようだった。


「アルメリア様ー!またお勉強教えてくださーい!」


「ふふ、そうね。また、伺うわね」


「・・・あれ?アルメリア様のお友達?」


 不意にこちらを向いた少年が私の顔を見て首を傾げた。


「えぇ。そうですわ。私のお友達のラゼルですわ。みなさん、よろしくお願いいたしますわね」


「ラゼル様?」


 敬称の呼び方に、首を振って否定する。


「ラゼル、でいいの。よろしくね」


 にこりと笑ってみせると、声を揃えた子供たちの返事が大きく響き渡った。


 それに、重なるように鳴り渡るお昼の鐘に子供達は弾かれたように時計塔を見上げた。


「あ、やば。もうこんな時間だ。・・・アルメリア様、またね!」


「ばいばい、アルメリア様。ラゼルさんも、また!」


 手を振る子供たちに手を振りかえしては「またね」と返すと、太陽のような笑顔で駆け出した。


 子供たちが完全に見えなくなると、互いに目を見合わせて笑う。


「可愛いわよね」


「うん。そうだね。・・・子供は国の宝というものね」


「ふふふ、そうね。大切な子供達だわ。・・・さて、私たちもお昼にしましょうか」


 ぎゅっと握った手に、歩き出すのは、ルマルト橋の先。ピカトゥレ市場だった。



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