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ラゼルの青の遐福  作者: あいせ
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ラゼルの水族館(2)

 圧倒的な青の世界に息を呑む。


「・・・きれい」


 目の前に広がる巨大な水槽は部屋一面に広がっていて、多種多様な魚が泳いでいた。

 館内の薄暗さとは別に、水槽の中に光があるのか。

 水が光を屈折させているのか。明るい青の光が篭れ出ていた。


「ふふ、すごいでしょう?」


「うん」


 微笑(わら)って私の様子を見ていた、ミレイアさんが囁いた。

 賑やかなこの中で、小さな声のはずなのに、よく通るその声に笑顔で頷く。


「この、ラメール水族館の1番の見どころは、海中トンネルと呼ばれる海の中のトンネルなのよ〜?

後で行きましょうね!」


「順に見回って行けば通るから、ゆっくり見ていいからね。・・・水槽の前にあるプレートにはこの水槽の中を泳ぐ魚の解説があるから、見たかったら言って?」


 指さされた水槽の前のプレートを覗き込めば、たしかに魚の写真と生体が記されていた。

 じっと、そのプレートを覗き込んでいると、テオさんにしっかりと手を握り直される。

 不思議に思い見上げると、ほんの少し困ったような顔でテオさんが私を見ていた。


「ラゼルは、ないと思うけど・・・。逸れたら困るからね」

 ラゼルなら、逸れても大丈夫なんだろうけど・・・。


 そう付け加えたテオさんは困り顔のまま、頬をかいた。


「ふふふ。ラゼルちゃんしっかりしてるものね。・・・でも、私たちの安心のためによろしくね?」


 微笑ましそうにその姿を眺めていたミレイアさんが、顔を近づけて首を傾げた。

 ほんのりとした圧にコクコクと頷く。


 離れません。


 その証の代わりとして、ぎゅっと強く2人の手を握りしめる。

 離れませんよー。離れませんよー。と念を込めながら。



 青の世界の扉を通り抜けると、筒が部屋の全体に散りばめられた部屋へと出た。

 目の前のパネルにクラゲと書かれた文字のところには、カラフルなふわふわとした魚が。

 クマノミやナンヨウハギと書かれたプレートの中には珊瑚礁に身を潜める小さな魚たちが自由に泳いでいた。


 筒の中でも1番大きな物にはプレートに名前はなく、小さくアザラシの通り道と記してあった。


 奥に続く扉の横には、小さな水槽が幾重と置いてあり、その一つの前にはチンアナゴと書かれたプレートが置いてあった。


 名残惜しながらも、扉を開けると簡素な暗い部屋となっていた。

 続いてきた部屋の中でも不思議なその部屋に留まっていると、ミレイアさんが優しく私の手を引いた。

 既にテオさんの手のひらの中に収まっていたドアノブがゆっくりと捻られる。


 開いた扉の先は、まさに別世界とも呼べる世界だった。


「ここが、海中トンネルよ〜」


 ぐいぐいと手を引くように、ミレイアさんが進む。


 ドーム状に広がったガラスの外側、青い碧い海で埋め尽くされていた。

 足元の下までもに広がる海はまさに圧巻。

 どこも目を外させない。どこを見ても違う種類の魚がスイスイと泳いでいた。

 そんな魚を眺めていると、途端に小さな魚が群れとなりながら真上を通過する。

 多を有する魚は、まるで群れとなると1匹の魚が小さいとは思えないほどの存在感。


「すごい」


「でしょう!」


 私の呟きに、まるで自分のことのようにミレイアさんは喜んで返した。

 その横でこちらを見ていたテオさんもまた、自慢げな顔をして頷いた。


 そんな2人の表情を不思議に思いながらも、ゆっくりと踏み出した床は、カチャ。と音を立てた。

 目新しいその足音を楽しみつつ、見上げた青には、小さな魚が悠々と泳いでいる光景が映り込んだ。


 海中トンネルは、数個のエリアに分かれているのか。

 岩のようなアーチを潜り抜けると魚が変わった。


 珊瑚礁の海に始まり、サメの多くいる海。ウミガメが頭上を通り過ぎる場所もあった。

 イルカの群れの中を通り過ぎたり、ペンギンの游泳を眺める為の海もあった。


 どのエリアを歩いていても、決して退屈はさせてくれないトンネルは、次が見たい。次が見たいとはやる気持ちのままにくぐり抜けてしまった。

 ほんの少しの残念感と名残惜しながらも足を進める。



「そろそろ、お昼の時間ね」


 小さな懐中時計を眺めながら、ミレイアさんはそう言った。


「そうだね。お腹も空いてきたし、一旦昼食にしようか」


 頷いたテオさんは、行き先が決まっているのか。迷いなく歩き出した。


 たどり着いたのはサメが大きく口を開いている場所だった。

 一見すると、何かわからないそこには『レストラン』と記された看板があった。


「この、サメのお口が入り口なのよ〜。面白いでしょ?!」


 この、サメの口が入り口・・・。

 言われた言葉が頭の中でリフレインする。


 そっと、足を乗せた舌の上は、ふわっとしたクッションのような柔らかさで、足をすすめると芝生の上を歩くような音がした。


 ゆっくりと、暗くなるサメの口の中を潜り抜けると一気に白と青の光が飛び込んでくる。


 風一面に広がる、青い海は現在のまま。椅子や机が置かれた、レストランが確かにあった。


 案内された席で、ミレイアさんと店員さんが軽く会話を交わすと、店員さんはニコニコ笑顔のまま、直ぐに下がってしまった。

 程なくして机の上に出てきたのは、魚の形をしたパイとポトフ。サラダ。そして、チーズやトマトの乗ったクラッカーだった。

 クラッカーも所々で魚を模した形をした物が乗っていて可愛い。


「お魚の形のミートパイ。このレストランの看板メニューなのよ?」


 サクッと音を立ててパイに切り込みが入る。

 ホカホカと出る湯気が、香りを乗せてお腹の空腹を自覚させる。


 取り分けられた皿を待ちきれない気持ちで眺めていると、ミレイアさんがそっと手を合わせた。

 それに倣うように手を合わせる。


「いただきます」


 軽快な音を立てながらフォークが入り込む。

 一気に口に入れ込むと、熱々のミートソースが口の中に広がる。はふはふと吐き出す息が白く染まる。


「おいしい・・・っ!」


 ほっぺたが落ちそうなほど、美味しい。

 この料理を表現するのにピッタリの言葉だと思う。


 ポトフは、野菜の味とコンソメの味が美味しく、塩胡椒の味がしっかりと味を引き締めていた。

 サラダは、シーザードレッシングと野菜の相性がベストで、いくら口に含んでも飽きない。

 見た目だけじゃない、味も美味しいクラッカーはいろいろや味と食感が楽しい。


「ごちそうさまでした」


 どれも美味しい料理たちは、一瞬にしてお腹に収まった。



 空腹も満たされた、中。薄暗く青の美しい世界に、ほんのりと眠気が誘う。

 先ほどよりも光源の少なくなった部屋の中。青というよりも紺色の海。

 深海エリアと書かれたそこは、一つ扉を挟んだ向こうよりもいく段も薄暗い部屋となっていた。


 プレートには、メンダコやチョウチンアンコウといった多種多様な種類の魚が記されていた。

 その中でも、少し端に離れたプレートのアクアリウムの中。

 細く長い魚長い髭のようなものをたなびかせながらゆったりとした動作で泳いでいた。


 ほど小さくみえるプレートに印された『リュウグウノツカイ』という文字。


「おおきい・・・」


 今まで見てきた魚の中でも、特に大きいその魚。


「リュウグウノツカイは基本的に深海で暮らす生き物だけど、時たま浜に打ち上げられた時には自身の前触れと言われてるんだ。・・・根拠はないけどね」


 リュウグウノツカイの使いを見据えたままテオさんはそう説明した。


 ・・・地震。

 自身の多くは海の中奥深くを震源としていた。

 つまり深海に住む彼らはもしかしたら、いち早くその危険を察知していたのかもしれない。そしてもしかしたらそれは。


「生きるために、陸に上がってきたのかな・・・?」


「そうかも、しれないね」


 私のぽつりと呟いたその言葉に、テオさんは驚いたように、けれど、優しく頷いた。


「ふふ、もしかしたら、私たち人にも逃げてと伝えてくれているのかもしれないわね」


 ミレイアさんの優しい言葉に頷いて返す。

 もしもそうだったなら、ありがとうと言えたらいいな。と思いながら。


 その後も続く、深海エリアに、陸地にほど近い場所に住む魚や生き物などにどのエリアも目が離せなかった。

 水族館を出る頃には陽は西に傾いていた。


 きた時と同じ幌馬車の中、わずかな振動が体をうつらうつらと揺らしていた。

 ほんのりと、遠ざかる意識に。気がつけば視界は暗く染まっていた。

 







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